表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

コメディ短編

スキルといっても色々ありまして

 スキル


 それは10歳になると教会でおこなわれる神託の儀式によってわかる。

 例外はなく、男女の区別もなく、身分の区別もない。

 国民全員が10歳になると何かしらのスキルを授かることになっている。

 もちろんスキルの種類は千差万別。

 勇者にふさわしいスキルもあれば、何の役に立つのかさっぱり分からないスキルもある。

 



「ああ、緊張するなあ」


「変なスキルだったらどうしよう」


「あんまり変なスキルだったら、王都に無理やり連れて行かれるらしいぜ」


 村の教会に集まった子供たちの顔に緊張が見える。

 それもそうだろう。スキルによっては一生が決まってしまうかもしれないのだ。

 

 今日はこの辺境の村の神託の日。

 10歳の子供たちがこの教会に集められている。

 それに、王都からも司教がわざわざ村の神託の儀を視察に来ていた。優秀なスキルを持った子供を王都に連れて帰るためだ。

 

「わざわざ王都からわしがやって来てやったのだ。去年みたいなことはあるまいな」


「は、はい。今年は優秀な子が多いですから、きっと素晴しいスキルを持っているに違いありません」


 横柄な態度の司教に向かって頭を下げる村長だが、顔は笑ってはいない。

 


「それでは、最初の者、前へ!」


 神官に呼ばれて子供は緊張のあまり右手を右足を同時に出して前に出た。

 黙って神官に頭を差し出す。

 神官は子供の頭の上に水晶をかざし、ぼやっと光った水晶の中を見た。


「これは! 『寿命操作』のスキルじゃ!」


「おおおお!!!」


「しかも、カマキリ限定! 喜べ! おまえは捕まえたカマキリを何年でも飼うことが可能じゃ!」


「やったあああああああ!!!!」


「うわあ、いいなあ」

「カマキリなんて最高じゃん」

「あいつらすぐ死ぬもんな」


 羨ましそうに歓声をあげる子供たちを苦々しい顔で見ながら、司教は吐き捨てるように言う。

 

「くだらん! 『寿命操作』のスキルと聞いて喜んだのも束の間、カマキリ限定とはなんじゃ! そんなくだらんスキル使いもんになるか!」

「まあまあ司教様。子供たちにとってはカマキリは大事なものですから」




「次の者。おお! これは『瞬足』のスキル! しかも運動会限定じゃ!」


「やったあああ!」


「いいなあ!」

「たしかこのスキルを持ってると、カーブでこけないんだよな」

「クラスの英雄確定じゃん」


「く、くだらん! せっかくの『瞬足』のスキルが運動会限定じゃと! 何の意味がある!」

「まあまあ司教様。子供たちにとっては運動会の方が迷宮よりも大事ですから」



「そして次は、『瞬飲み』のスキルじゃ! 牛乳限定!」


「かっこいいい!!」

「牛乳がいくらでもおかわりできるぜ!」



「次は、な、なんと!『3秒ルール』のスキルじゃ!」


「ええ! いいなあ!」

「何を落としても3秒以内なら食べられるんだ!」

「それ気持ちの問題だけどな」



「おお! これは! 最強の防御力の持ち主! どんな攻撃も当たらない『見切り』のスキルじゃ!」


「あれ勇者も持ってるスキルじゃねえのか!」

「ただし、ドッジボール限定!」



「おお! これはすごい! 『魔眼』!『魔眼』のスキルじゃ! ただし、棒アイス限定!」


「ええ! 必ず当たりのアイスを引けるのかよ!」

「最強の小学生じゃねえか」


 

 それからも子供たちは次々にスキルを獲得していく。

 

「おお! これはどんな遠くの的でも当てることができる『射手』のスキル! ただしビー玉限定!」


「これは凄い! どんな攻撃にも耐えられる『顔面セーフ』のスキル。限定は言わなくてもわかる」


「おお! 水の中で息を止められる『ふし浮き』のスキル。ただし、ふし浮きスタイルのみ!」


「出た! どんな物でも探し当てることができる『神眼』のスキル! ただし砂場のみ」



  ◇◇◇ ◇◇◇ ◇◇◇

  

  

「なんじゃこれは! ろくなスキルがなかったではないか!」


「は、はい。申し訳ございません」


「これだから辺境の村は。まあ、最初から期待などしていなかったがな」


「無駄足を踏ませてしまい、なんと申してよいやら」


「ふん! まあいい。こんな村から勇者になるような子供が現れるわけもないからな。わしは帰るぞ」


 司教はそう言って王都に帰っていった。

 残された村長は神官のところに行って苦労をねぎらう。

 

「ご苦労だったな。それにしても、今年もうちの村の子供たちは凄かったな」


「ええ、ほとんどのスキルがとんでもないものでした」


「おまえが限定と言ってくれなかったら、子供たちのほとんどが王都に連れて行かれてしまうところだった」


「はい。ほんとは限定なんてないんですけどね。でも、子供たちを連れて行かれるわけにはいきません」


「ああ、もちろんだ。10歳くらいの子供たちは田舎で遊んでいるのが一番いいんだ。王都なんかに行って大人たちに利用されたりしたら可哀そうだ」


「そうですね。子供は子供らしくですよ」


「あれを見ろ。子供たちの中で一番人気があるのは3秒ルールと牛乳の早飲みらしいぞ」


「子供なんてそんなもんですよ」



最後までお読みいただきありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] オリンピックは運動会に含まれますか?
[良い点] 魔眼のスキルでビ〇クリ〇ンシールのきらきらシールを当てたり同じシールが被らないようにしたりとか、おまけつきお菓子を買う時に持ってるものを買わないで済むとか限定があっても凄く欲しいスキルで羨…
[一言] 運動会限定でもいいので、『瞬足』のスキルが欲しかった・・・。 いや毎年かけっこでブービー争いをしていた身としては、喉から手が出る程欲しいスキルですよ・・・。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ