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ストーキングは愛の証!  作者: M・A・J・O
第一章 ストーキングの恋模様!
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第9話 なるべく一緒にいたい?

 ○月○日


 今日は少し寝坊しちゃった……

 だけどさっちゃん先輩と初めて一緒に登校できて嬉しい!

 いつもはさっちゃん先輩を後ろから追いかけてるだけだったから。

 こういうのも“仲良し”って感じで幸せだなぁ……

 遠くからじゃわからないこともあるけど、近いからわかることもあるんだな。


 ――稲津華緒、『さっちゃん先輩観察日記』より。


 ☆ ☆ ☆


 晴れ晴れとした青い空の下。

 沙友理と理沙はそれぞれ学校に向かうべく歩いていた。


「あたしもねーちゃんと同じ学校行こうかな! 中学受験するつもり!」

「おー、いいのですね。わたしはその時にはもう卒業しちゃってるのですが……仕方ないのです」

「まあな~。けど、ねーちゃんの後輩さんたちと仲良くなろうかなって思ってんだ」

「それいいのです! 後輩ちゃんたちと理沙が仲良くなるの大歓迎なのです!」


 何気ない会話を交わし、横断歩道を渡ろうとしていた時。

 ドドドと、沙友理たちに何かが近づいてくる音がした。

 それも猛スピードで。


「うわー!! やばいやばい!! 急がないと!!」


 朝のだるい時間帯にはつらいほどの大音量で、髪やスカートを揺らしている者。

 それは――


「……は、華緒ちゃん?」

「あっ……! さ、さっちゃん先輩……」


 大声を出して走っていたのが恥ずかしいのか、華緒は気まずそうに目を逸らした。

 そんな華緒になんて言ったらいいかわからず、沙友理もなるべく華緒を見ないように辺りを見回している。

 そんな中で動いたのは、理沙だった。


「はじめまして、華緒さん」


 礼儀正しい理沙の言葉に、華緒も沙友理も驚いて目を丸くする。

 その間に、青だった信号が赤になってしまう。

 だが、誰もそのことに気づかなかった。


「あ、は、はじめまして……えっと……さっちゃん先輩の妹さん……」

「あ、すみません。名前言い忘れてましたね。あたしは篠宮理沙と言います」


 丁寧にお辞儀をする妹に、沙友理は感心していた。

 理沙がしっかりしていることは知っていたが、それほどまでに礼儀正しいとは思わなかったから。

 小学生とは思えぬ対応に、華緒はもう何も言えなかった。


「理沙ってほんとにしっかりしてるのですね~」

「ま、伊達に先生の前でいい子ぶってないからね!」

「しっかりと言うよりちゃっかりしてると言った方がいいのですね……」


 理沙の意外な一面を垣間見た沙友理は、呆れ気味にため息をついた。

 と、ここで、無駄な時間を過ごしていることに気づく。


「やばいのです! 急がないと遅刻するのです!」


 沙友理は理沙と華緒の手を取り、横断歩道の上を走っていく。

 手を取られた二人は、突然のことに呆気にとられている。

 されるがままの状態で、転ばないように必死に走る。


 だけど、途中からだんだん楽しくなってきたようで、二人は笑顔を浮かべた。

 沙友理は運動が苦手だが、今走っている時だけは心の底から楽しそうに笑っている。


「あ、ねーちゃん。あたしこっちだから」

「そうだったのです。じゃあ、また後でなのです~」

「じゃあね、理沙ちゃん」

「はい。華緒さんもお気をつけて」


 沙友理と華緒とでは態度や振る舞いが変わる理沙に、沙友理は少し苦笑いをした。

 そういう切り替えは大事だと思うが、目の前でやられると複雑な気持ちになってしまう。


 そんな沙友理の内心には気づかずに、理沙は小学校へと急いだ。

 しばらく呑気に見送っていたが、自分たちも急がなければならないことに気づく。


「あっ! ち、遅刻するのです!」

「ほんとだ……! 急ぎましょう!」


 沙友理の言葉に、華緒もハッとしたような表情になる。

 さっきから急いだりゆっくりしたり、忙しない。

 だけど、沙友理と華緒は嬉しそうに顔を見合わせて笑うので、それも悪くないのではないだろうか。


「ほらー、遅刻するよー」

「す、すみません……!」


 校門前で、今日の挨拶回りの当番をしている先生と会う。

「遅刻するよ」と言っているので、まだ遅刻してはいないらしい。

 急げば間に合いそうだ。


「今度からは早く来いよー」

「は、はい……っ!」


 沙友理と華緒は既に息が上がっているが、なんとか踏ん張って下駄箱まで走り抜く。

 ゼェゼェと息を切らし、お茶を自分の身体に入れる。

 少し休んだら、だんだんと疲れが取れてきた。


「はー……さて、教室へたどり着かなきゃなのです……」

「そ、そうですね……頑張らないと……」


 もう既にやり切った感の出ている二人は、教室への道のりが遠く感じられた。

 だけど、どこか満たされたような気持ちになっている。


「あ、あの……さっちゃん先輩」

「ん? なんなのですか?」


 華緒はすごく勇気を振り絞ったような顔で、沙友理を見据えている。

 射抜かれたような錯覚を覚えた沙友理は、不思議と華緒から目を逸らせなかった。


「あの……また、一緒に登校してもいいですか!?」


 すごく真剣に沙友理を見つめて言うので何かと思えば……


「わたしと一緒に、登校したいのですか……?」


 そう訊くと、華緒はコクコクと勢いよく首を縦に振った。

 その様子がおかしくて、思わず吹き出してしまう。


「あはは。いいのですよ。わたしと華緒ちゃんの仲なのですから」

「えっ……あ、いいんですか……? 嬉しいです……!」


 沙友理が笑った時はすごく不安そうな顔をしていたのに、今はすごく幸せそうな顔をしている華緒。

 その変化が面白くて、沙友理はまた笑うのだった。


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