ストーキングのなくなった日常?
あれから数年後。沙友理たちは高校を卒業し、大学生になっていた。
結婚はしていないが、同棲中だ。
順風満帆で、いつでもどこでもすごくラブラブ。沙友理たちの愛は不滅だ。
もちろん、大学も同じところに通っている。
「今日は全休なのでのんびりできるのですね……」
「そんなにのんびりしてて大丈夫ですか? 三年生だとそろそろ本格的に就活のこと考えなきゃいけないのに」
「うっ……き、聞こえないのです……」
そう。沙友理は大学三年生で、華緒が大学一年生。
沙友理はまた本格的に進路を考えなくてはいけなくなっていた。
「まあ、いざとなったら私がさっちゃん先輩の面倒を見る予定なので大丈夫ですけど」
「うわぁぁん! いっちゃん天使なのです!!」
「ふっふん。当たり前です。私はさっちゃん先輩だけの天使ですから」
微妙に話が噛み合っていない気もするが、これが沙友理たちの日常だった。
沙友理は進路のことで思い悩んでいるみたいだが、華緒は全然そんなことないみたいだ。
華緒は積極的にアルバイトをしていて、優秀な人材として認められているため、「ぜひうちの正社員にならないか」と声をかけられることがざらにある。
羨ましいことこの上ない。
「いっちゃんはどこでも生きていけそうな感じがしてすごいのです」
「どういう意味です?」
「こんなにしっかりしてて頭もよくて可愛くて……みんなから求められてそうな感じがするのですよ……」
「え、そうですかね……みんなから求められてそうなのはさっちゃん先輩の方な気がしますけど……」
沙友理と華緒はお互い、相手の方が上で自分はまだまだだと思っている。
お互いの好きなところやいいところを言い合うと、平気で三日三晩かかるだろう。
それくらい相手のことが大好きなのだ。
「いっちゃんは企業からもすごく求められててすごいのです。将来のキャリアウーマンとして期待されてるのですよね」
「それを言ったらさっちゃん先輩だって、大学の仲間たちからすごく慕われてるじゃないですか。私はあまり慕われたことがないので羨ましいですよ」
お互いを褒め合い、この会話は終わる。
この二人の会話はいつもこうして平和で、とてつもない愛がある。
『二人で一人』という言葉は、この二人のためにあるといっても過言ではないだろう。
しかし、時にはガツンと言ってくれる人も必要だったりする。
――ピンポーン。コンコンコン。
「ねーちゃん、華緒さーん。いるんでしょー?」
「あ、うるさいのが来たのです」
インターホンが鳴り、丁寧にドアをノックする音が響く。
そして、沙友理と華緒がよく知っている声も響く。
いつもなかなかその三つの音が鳴り止まないため、沙友理は「うるさいの」と呼んでいる。
「はいはーい。今行くのですよー」
「やっとでたー! 遅いよ、ねーちゃん!」
「これでも早くでた方だと思うのですが……」
あの頃よりも大きく成長した理沙が、沙友理の目の前に現れる。
背も大きくなって大人っぽい感じになったが、声も大きくなって前よりもうるさくなった気がしてしまう。
いつも声を張っているから、こう感じてしまうのだろうか。
沙友理のように長くなった狐色の髪を振り乱しながら、理沙は沙友理に詰め寄る。
「ねーちゃんが家をでてったせいで、あたしが一人で百合脳なとーちゃんの面倒を見なきゃなんなくなったんだからな? 『今ごろあの二人はどうシてるのかな?』とか。セクハラだよセクハラ!」
「それは大変なのですねぇ」
沙友理は棒読み気味に言う。
もうそれは沙友理にとっては他人事で、どうでもよかったから。
理沙には悪いが、あの変人なお父さんの相手は疲れてしまう。
「で、ねーちゃんは華緒さんとシたのか?」
「ぶぴゃあっ!?」
どうしたことか。
あのお父さんの相手を一人でしていたせいか、理沙も影響を受けてしまったということか。
それは完全に想定外だった。不覚。
しっかり者の理沙なら自分を保てるだろうと、沙友理は踏んでいた。
だから大丈夫だと思って家をでたのだが……どうやらこの選択は間違っていたらしい。
「理沙、悪いことは言わないのです。今すぐあの悪魔から離れるのです。理沙も一人暮らしするか恋人と同棲するのです」
「あたしまだ中学生だから実家でられねーんだけど」
「そんなこと関係ないのです! なんならわたしたちの家に転がり込んできても全然構わないのですよ!?」
「私が構うんですが……」
沙友理と理沙の会話に、おそるおそる入っていく華緒。
理沙ことを迷惑だと言っているわけでないと思うが、言い方が言い方だ。
それに、顔も迷惑そうな表情になっている。
「あ、そうですね。あたしが住んだら二人でイチャイチャするのが難しくなりますもんねー」
それに対して理沙は、ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべる。
もう理沙は手遅れなところまで『お父さん病』が進行しているらしい。
そこまで来ると、さすがの沙友理も理沙になにも言えなくなった。
しかも、華緒はなんだか顔を赤らめていて「そ、そんなわけないよ……」とか言っている。
説得力がなさすぎる。
「もうなんでもいいから、理沙もお家に入るのです」
「えー? あたしおじゃま虫じゃない?」
「もうそういうのはいいのですよぉ!」
これが、ストーキングのなくなった沙友理たちの――愛のある日常だ。




