言葉の雫
君は今日も言葉を作っている
側頭葉に浮かんだ一粒 一粒を
なだらかな血流に乗せて 心へと
繋ぎ合わせて仕上がった 美しい水
僕のところへ届く前に蒸発する
僅かに揮発性の高い 美しい雫
弾き出された その一滴が
ノイズになって境界線を滑る
吐き捨てられた 未完成の言葉に溺れて
くだらない意識が混濁している
お腹が空いたとき
『寂しい』と呟く君
眠くて仕方がないとき
『嬉しい』と囁く君
溶けて混じり合う口実に
『仄暗い』と嘯く君
どうしようもなく死んでしまいたいとき
『大丈夫』と笑うことができる君
世界は借り物の言葉で溢れているから
想えば想うほど
考えれば考えるほど
必死にもがいて探すほど
馬鹿らしくなって捨てたくもなるんだ
言葉のつくり方なんて きっとさ
いつしか忘れ去られてしまうんだろう
それでも君は探してる
君だけの言葉を作っている
その潤んだ瞳の裏に
数えきれない言葉を忍ばせている
君の心から 溢れ出した一滴が
言葉を失くした人たちの 頬を滑り落ちていく
だらしない命をまたひとつ
繋ぎ止め 掬い上げる
僕はそれを眺めている
言葉を尽くして 眺めている
心を隠して 眺めている