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「うーん……」


「うーん……」


 依頼の電話が入った翌日の事務所内には、俺と美咲さんの唸るような声がシンクロしていた。


 原因は今回の依頼内容である。


「やっぱり今回の仕事は俺には無理ですって」


「やっぱそうなるわよね……。でもわたしが留守の間に受付の子が受けちゃって断れないのよ」


「他の人でいいじゃないっすか。わざわざ元彼の俺が別れさせ屋の仕事をする必要はないでしょ?」


「それはちょっと違うわ。正確には別れさせ屋の仕事の為に、レンタル彼氏を1週間やってもらいたいのよ」


「仕事内容の事を言ってるわけじゃなくて……」


 さっきからこのやりとりを繰り返していた。


 昨日、偶然再会した元カノである倉持梨花が別れさせ屋とレンタル彼氏のミックスで仕事を依頼してきたのだ。


 あんな奴の為に、仕事をしたくない。

 ましてや俺が現在している仕事のことだって知られたくもない。


「他をあたってください」


「それがダメなのよ……」


「なにがダメなのかいい加減ハッキリ言ってください」


「そ、そうよね……」


 普段から物事をハッキリ言う美咲さんが、こんな調子なのは非常に珍しい。


 美咲さんはようやく覚悟を決めたのか、大きく息を吸い込んだ。


「今回のターゲットがあなただからよ!」


「なっ!?」


「えっ!?」


「えっ!?……は、陽菜?」


 美咲さんから出た衝撃的な事実に、声も出せず驚いていると入り口のドアが開いていたのだ。


 そこには目をまんまるにして、呆然と立ち尽くす陽菜の姿が……


「こんなとこまで来てどうしたの?俺の用事が終わったら連絡するはずだったよね」


「もしかしたらこちらにいるのではと思いまして……それより今のは……」


「あちゃー……まさか彼女に聞かれちゃうとは……」


 俺たちの会話に割り込むように美咲さんが声を上げた。


「これ以上隠しても意味がないわね。今回()()()()()()()()()()()()()()()()って倉持梨花から依頼があったのよ」


「……はぁーーーーーーー?」


「まあ……」


 思わず呆れた声を上げてしまった。それとは対照的に陽菜の反応は少し違うものだった。

 

 心なしか顔が綻んでないか?

 ここは怒るとこだというのに、心の広い彼女にとっては些細な事なのだろう。


 天使かよ……


 しかしそんな彼女の表情を見た俺は、冷静さを取り戻し美咲さんに説明を促した。


「それがさあ、あなた達二人が本当に付き合ってると彼女は思ってるようなのよ?笑っちゃうわよね」


「笑えねーよ」


「ああ?」


「ひやぁ!?」


 つい条件反射で出た俺の言葉に、美咲さんは眉間にしわを寄せガラの悪い顔へと変貌した。


 それを見た陽菜が思わず悲鳴のような声を出す。


「み、美咲さん、お客様がいらっしゃるので……それくらいにして続きをお願いします」


「あ、あら私ったら……ごめんなさい。えーと……それでね、京介に未練たらたらな彼女は恋人代行業者を使ってあなた達に近づいてきたってのが私の憶測よ」


「それじゃあ昨日会ったのは偶然じゃないってことですか?」


「そうなるわね」


 昨日もレンタル彼氏の仕事なので、詳細を美咲さんに説明していた。

 だからあっさりと「恋人代行業者」なんて自分の特にならない情報をあいつは話したのか。


「え?それでは私たち……尾行されていたってことですか?」


「おそらく。ここ数日は京介の事を調査させていたと思うわよ。他の業者では『なんでも屋』と称して探偵まがいの事もさせるし、状況によって彼氏のフリもさせるからね。うちだって『別れさせ屋』の時は同じような事もするしね」


 その言葉を聞いた途端に、陽菜は顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

 ん?え?いまこの流れでその反応は誤解を生むからやめて―――


「京介!!あなた、こんな大人しくていい子に手を出したんじゃないでしょうね!」


 ほらみろ……

 美咲さんもそこまで取り乱して怒ることないだろ。


「やましいことは何もしてませんよ」


「ほんとに?水樹さん、こいつに何もされてない?」


「え、え、……恥ずかしくて……なんて言えばいいのでしょうか……」


 再び耳まで赤く染める陽菜は、体をプルプルと震えさせていた。


 あ、これは……死んだな俺。


 美咲さんの掛け声とともに、事務所の奥からはあの恐ろしい体つきをした男が二人出てくると、俺を引きづるようにして奥の部屋と連れ込まれた。



 ―――それから数分後。



 ()()を受けて、誤解も解けたはずなのに俺はぐったりとしていた。

 地獄のようなあれを思い出したくもないので、今はそっとしておいてくれ。


「とにかく京介には今回の依頼を受けてもらうわ」


「全然意味が分からないです。だってうちの仕事はターゲットを不幸にすることじゃないはずですよね?」


 そうなのだ。俺たちの職場では恨みや妬みで仕事を請け負ったりしない。

 あくまでも依頼者が正当な理由で別れたい、別れさせたい時だけ動くのだ。


「そうよ。だからあなたには彼女に会ってうまくやり過ごしてほしいの。だけどうちだってお客様の秘密を守る義務がある。だから水樹さんがレンタル彼氏を依頼してることは秘密にして。それで別れさせ屋とレンタル彼氏の間の仕事をしてもらいたいのよ。わかるかしら?」


「……ダメっす。少し考えさせてください」


 そもそもどうして俺と陽菜を恋人だと思ってるんだ?

 向こうだってプロに仕事を依頼して俺の動向を探っていたようだし。


 たとえ恋人だと勘違いしていたとして、なんで俺に依頼が来るんだよ?

 よく考えたら俺が別れさせ屋とレンタル彼氏をしてるのを、すでに知らなきゃ依頼は来ないよな?

 しかも、いまさら俺になにを求めてるのかが分からない。


「あのー、話を整理してみると彼女は俺の仕事を知ってるんですよね?」


「知ってるでしょうね。それでもあなた達を本物の恋人だと思ってるみたいよ」


「仕事でデートしてるのも聞いたか見てるはずですよね?現に昨日だって……」


「それはあなたが直接確かめるしかないわ」


 もう一度会うしか、()()()()()会うしかないか。

 考えてみたら、別れる時も話もろくにしなかったしな。


「わかりました。あまり気は乗りませんがしっかりと()()()()()()の仕事をしてきます」


「あ、あの!」


 俺が美咲さんに返事をするとすぐに陽菜が大きな声で俺に呼び掛けてきた。


「12月24日と12月25日はわたしが京介さんを予約してますから!出来ればそれよりも前の日にちでお願いします」


「え?そうだったの?」


 確認しようと美咲さんに目を向けると、なぜか優しい目をしながらゆっくりと頷いた。


「わ、わたし……」京介さんを信じてますから……」


 え?俺はなにを疑われているのだろうか?


 まったく事情が呑み込めないままにこの話はいったん終了した。


 



読んでいただきありがとうございます。


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