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短編

また明日。

作者: 吹田栞

主人公のイメージは丸顔の可愛い女の子です。

 鏡の中の私が笑ったから、置いてかれないようにわたしも笑いました。



 今日は日差しが強くて、鏡に反射した日光で思わず目をつむっちゃいます。時計を見ると、六時半。ちょっと外の世界が気になります。んーと、あの服はどこにありましたっけ。お気に入りの服が見つからないです。タンスから出した服もしまわずに、お目当ての服だけを探しちゃいます。


 そうそうこれこれ。本当にこれかわいいです。鏡の中の私に尋ねます。


「これって似合ってますか?」


「すごいかわいいよ! やっぱりその服が一番だよね!」


「ね! やっぱり!」


 ......なんて、こんなこと他の人に聞かれたらどう思われちゃうかな。絶対他の人には見せられないぞ。

部屋に一人しかいないからこそできる対話を終えまして、鏡の中の私に「いってきます」と言ってドアを開けます。


 ドアを開けると、直接、日光が襲ってきます。燦燦とした、なんて言葉はこのためにあるんだろうな、とか考えちゃいながら、一度家に戻り、日傘を探します。確か玄関に置いているはずです。あ、ありました。奥のほうに入ってた日傘を無理やり引っ張り出します。日傘なんて普段使わない代物だけど、今日は使っちゃいます。


 でも、使い慣れてないから操作に戸惑います。あれ、開きません。よく見たら、傘が開かないように止めてあっただけで、誰もいないけど恥ずかしくなりました。


 そしてまたドアを開け、一歩目を踏み出します。目に向かってくる日光を右手で遮ってこれが外の世界か、なんて呟いてみます。確かにインドア派だけど、ちょっと大げさです。それでも外に出るっていうのはワクワクしちゃいます。これくらい大げさになっちゃっても仕方ないです。


 普段しないスキップをしてみます。見よう見まねで久しぶりにスキップすると意外とぎこちない。最後にスキップしたのはいつだっけな。先輩からデートのお誘いがあった時かな。とかそんな浮ついちゃったことも考えちゃいます。


 外に出ると、心がはねてはねて、抑えきれなくなります。でも、今日のわたしは全然違います。日傘も持っているからおしとやかでいないと。そうして、留め具を外した日傘を開き、今までとは別人のように街へ出ました。


 街はまだ早朝なのに活発に生きていて、そこにいる一人一人が生き生きしてます。ふふ、でも今日のわたしより生き生きしている人はいないです。なんてたって、今日のわたしはいつもと違うんですもの!少し口角が上がっちゃうのを抑えきれず、街の中を歩きました。


「あれ、○○ちゃんじゃない!」


「こんにちは!」


「日傘なんて大人っぽくなったね~ なんだか見違えちゃったよ!」


 ほら、見ましたか皆さん。わかる人にはわかってくれるんです。


「えへへ」


「こんな時間にお散歩かい?」


「はい!」


「そうかい! またね!」


「はーい!」


 ......元気にあいさつしたわたしは実は悪い子で、あのおばさんが誰なのか分からなかったです。でもいいのです。またわたしは歩き始めます。それより普段見れない早朝の町を楽しみます。


 街の商店街に着きました。普段なら一つ一つのお店が開いているのでしょうが、少々早すぎたようです。どこのお店も何も売っていません。どうしましょう。そういや暑い日だから、化粧は崩れていないかな。周りに誰も見ていないことを確認して私は手持ち鏡を確認します。


「私ここ飽きちゃったよ」


「そんなこと言っちゃだめです。もっといろいろ発見できるはずです!」


「んーでも......」


 鏡と話してもらちがあきません。諦めてほかの場所を探します。


 ふと、わたしは久しぶりに走りたくなりました。走るのなんて本当に久しぶり。スキップよりしていないんじゃないか。でも今日は違います。わたしは商店街から抜け出して、目的地も決めないまま、走り出しました。


 わたしは思いっきり走りました。走り方も正しくはないかもしれないけど、私は自分の思うように走りました。でも、テレビで見た大きく腕を振るっていうのはちょっと意識しました。大きく振っても早くなった感じはしませんでしたが、風を切るように走るヒーローみたいでワクワクしました。


 でも思い出したのです。今日は日傘を持った大人の女性になることに!わたしはしくじってしまいました。しかも肝心の日傘を持っていません。商店街のところに忘れてしまったんでしょう。わたしには自分の立てた作戦が崩れる音が聞こえました。あとたぶんだけどせっかくした化粧も崩れました。普段と違うことをしてみたくなったって、衝動的に動いてはいけませんね。


 頭の中で反省会をしていると、運動公園に着きました。早朝でも小さい子供やお年寄りの方は元気でいらっしゃいました。さっきあったおばさんがここでまた会ったら、さっきの日傘はどうしたの?と聞かれてしまうんじゃないかと怖くなりましたが、高をくくって公園に足を踏み入れました。


 公園には芝生の山があって、子供たちが寝っ転がっていました。わたしも寝っ転がってみたい!そう思った時にはもうわたしは寝っ転がっていました。おしりと背中が芝生に着いたくらいに、もしかしたら服が汚くなるんじゃないかと考えましたが、遅かったです。


 でも、仕方ないです。走って疲れちゃったんだもん。せっかくならごろごろ転がってみよう。ごろごろ転がると草のにおいが鼻腔を刺激して、むずがゆいような、でも優しいにおいを感じました。でも服はきっと汚いです。やっぱり衝動的に動いちゃいけませんね。


 はっ、とすると外はもう暗いです。わたしはお昼寝してしまったんでしょう。いけないいけない。わたしの大人女性計画(そんなことは今考えました)が台無しです。


 でも、今日がだめでも、明日がいいならいいのです。と、思ったら明日は月曜日で、そして明日は学校でした。なかなかうまくいきませんね。


 でもわたしは今生きています。死ぬまでにはできるでしょう。なんて楽観的なんでしょう。あとは衝動的に動かないように気を付ければ完璧とわたしに言い聞かせました。


 手持ち鏡を見ようとしましたが、暗くて何も見えません。なんだか誰もいないみたいで怖くなっちゃいます。周りを見ても誰もいないけど、確かにわたしはいます。半透明にもなっていないし、ほっぺたをむにむにしてもちゃんと手ごたえがあります。


 わたしは暗いのが嫌いです。夜も嫌いだけど、朝日が昇っても遮光カーテンを閉め切ってるのも嫌いです。根っからのインドア派だけど譲れません。夜は嫌いだけど、寝るのは大好きだからいつも許してあげてます。許してあげているだけです。


 言い訳していると大きなあくびが出ました。おうちに帰ってベッドで眠ることにしました。日傘はまた明日です。おうちに帰るまでの道は、ちょっと怖くて、また走って帰りました。


 おうちのドアを開けて電気をつけます。ちゃんと手洗いうがいアルコール。草のにおいがいっぱいついたお気に入りの服は大好きだけど、次に先輩とデートに行くとき、草女のイメージを持たれちゃうと困るから、ちゃんと洗濯機の中にぽいってしました。服を着替えて、シャワーを浴びます。湯船にざばーっと浸かってみたかった気持ちもありましたが、面倒なのでまた明日にします。なんだか今日は、いっぱい明日にしている気がします。シャワーを浴びて、お風呂場にあったかわいいパジャマを着て、歯を磨いてもうわたしは寝る気満々です。すぐにわたしの部屋に向かいました。


 今日は、すごく楽しかったな。また明日もあるなんて幸せだな。


 わたしの部屋に入って電気をつけます。カーテンを閉めていなくて、慌てます。だめだめ。わたしのお部屋は国家機密なんです(わたしは国家の領主でも偉い人でもないけど、だめなんです)。あーあ。服を散らかしたままです。これもまた明日。また明日って幸せな言葉だけど、ちょっと使いやすすぎて人をダメにしちゃいそうですね。


 そして、わたしは寝る前に必ずすることがあります。お部屋の全身鏡と向き合って、今日一日のことを私とちゃんとお話しするんです。


「ねぇねぇ、私、今日一日どうだった?」


「ねぇここから出してって!!!!!」


 私が何か言ってます。


「鏡の世界のほうが楽しいって嘘じゃない!! 早く私をここから出して!!」


 おかしいなぁ。私が入りたいって言ったのに。でも今日学んだことを思い出すと、すごく納得がいきました。そう考えるとちょっとクスッと笑ってしまいました。


「何笑ってるの!! 早くここから出して!! 私を戻して......」


 あらら、私が泣いちゃってる。そんなことしちゃったらわたしも涙が出てきちゃいます。だって、わたしは鏡の世界の住人ですもの。かわいそうだから教えてあげます。


「ふふ、お互い、衝動的に動いちゃいけませんね。」


 それを聞くと、私は何も言えなくなっちゃいました。もっと泣かせちゃったみたいです。涙の量は、わたしに見えませんが、わたしの涙の勢いが強くなった気がします。


「今日わたしはいろんなことを学びました。でも今日はもうお休みしたいです。」


「だめ!!! せめて電気!! じゃないと消えてなくなっちゃう!! だからっ!!」


「......また明日。」


 


 部屋の明るさは外より暗くなりました。改めて遮光カーテンはすごいですね。外の世界に置かれていた時は、太陽はなくても月の光で照らしてくれましたが、これのせいで、わたしは。でもそんなこと言ってもしょうがないです。気づいたら、さっきまでそこにあったはずの鏡は暗闇の中に消えちゃいました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 淡々と進むストーリーと、鏡の中の私と話す不思議な女の子に引き込まれながら読んでいましたが、最後でどんでん返しが! 一気にゾワっとしました!! こういうお話、大好物です。
[良い点] 不思議な世界観で、私とわたし。幼さ故の残酷さというのを感じましたが、全体的に綺麗な話だと思いました。 ありがとうございました!
2020/09/11 22:50 退会済み
管理
[良い点] 冒頭の出だしからこれは青春物か?と思いながら読ませていただきましたが、最後の場面での「わたし」と鏡の中の「わたし」、二人の会話がそれまで「こうだ」と思い込んで読んでいたのを一気にひっくり返…
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