5
世界が赤と黒に変わる。他の色も存在するが、どれも薄い。あらゆるものが赤く、黒く、揺蕩っている。
近くを歩いていた野良猫は前足を片方上げたまま、彫像のように固まっていた。そして二人の目の前には、なにかが牙を剥き出しにして直立している。人間と獣をミックスし、ただ醜くおぞましい形をしたなにか。
「これはやっぱりなかなかだね」
そう言うイノの隣には、いつの間にか人間大の真っ白い犬が鎮座している。その犬の背中を撫でながらイノはなにかを鋭く見つめる。金色の瞳が一層輝く。
「削られないように気をつけろ」
そう言ったユウリの左手には日本刀が不気味な輝きを放っていた。
「とりあえず僕が斬り込む。援護を頼む」
「りょーかい。いくよ、ジン」
ジンと呼ばれた犬がウォンと吠える声を合図に、ユウリは飛び出した。普通の世界ではありえない跳躍力とスピード。一瞬にしてなにかとの間合いをつめ、左上段から右下段へと日本刀を斬りつける。
ナニカはステップバックしてそれを避けた。見た目の割に動きは速い。
ユウリは強く踏み込み、突き刺す。
白羽取り。
力も強い。
一瞬の膠着。
ジンがユウリの背後から飛び出す。
イノの傍らにいたときとは似ても似つかない獰猛な表情。
刀を捕らえた腕に鋭い牙を突き立てる。
咆哮が走る。
弱まった力、刀を引き抜き腰を半回転。
遠心力を使い、横に全力で振るう。
首らしきあたりを捕らえる。飛ぶ頭。
赤と黒がグラデーションになった血が吹き出す。
赤と黒の世界に、赤と黒の血が。