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「この負の『理由』の痕跡は、そこそこの強さだよね、ユウリ」
渦巻く霧の濃度、その量からしてイノの言うそこそこというのは正解だろう。多少の傷は覚悟して望むべく相手の可能性が高い。でもしかしーー
「放っておくという選択肢は……」
イノの顔を見る。瞳がキラキラと輝いてしまっている。自分が正義のヒーローにでもなったつもりでいる彼女は、ユウリにとって厄介だった。
「……ないよね」
「あったりまえだよ! さぁ、行こう!」
イノは傘を放り出して、霧の残骸を追い始めた。放り出された傘を拾い、しっかりとたたみ、自分の傘も閉じた。二本の傘を持ってユウリも走り出す。ずぶ濡れになるのはもう構わなかった。
イノに少しでも傷がついてしまうのを防がなければならない。彼女は大丈夫と言うが、彼にはそれが許せることではなかった。
あの化け物たちに傷つけられたら、彼女の美しい存在が汚されてしまう。
それだけは、絶対に許せなかった。
血にまみれた、彼という存在にとっては。