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「最近の調子はどうなの?」
嫌らしい笑みをさらっと消して、イノはユウリに尋ねた。その言葉が何を意味しているのかは、ユウリには分かっている。
「別に僕は自分からやつらを探してはいないから。普通に暮らしていれば、案外見つけずに済むものだからね」
「ふうん。そんなもんですかねぇ」
イノの言葉はどこかそっけない。
「そっちはたくさん消してるってわけか」
「まあねぇ。わたしにとっては趣味みたいなものだから」
あっけらかんと応えるイノの姿に、ユウリはため息をつきたくなった。
「自分の存在が消されるかもしれない危険なことだぞ。そんな簡単に考えるのはどうかと思う」
「なにぃ、心配してくれてんの?」
ニヤニヤ言う彼女の頭を叩いた。パチンと小気味良い音が雨音に混ざる。
いつしか小雨は本降りとなり、傘に当たる雨粒の音も大きなものとなっていた。傘の端から滴る雨水が、袖や肩を濡らす。スニーカーの中にも既に大分染みてきていた。
人通りが少ない住宅街。二人の歩く姿だけが、煙りに沸き立つ亡霊のように浮かぶ。
こういう日はよくない。
二人はもちろん直感的に感じていた。
そしてそれを目撃した。
十字路の曲がり角の電柱。
そこに残された二人だけにしか見えない痕跡。
漆黒の霧が電柱の周りをフヨフヨと取り囲んでいる。
負の霧。
「あーあ。見つけちゃったね、ユウリ」
「なんだよ、お前は嬉しいんしゃないの?」
「うーん、まあね。でも一人で見つけたかったなぁ。独り占めって最高の響きじゃない?」
やれやれと頭をふり、二人はその電柱へと近づいていった。