5日目 探索 その1
「晴れたな」
昨日の雨が嘘だったかのように、雲一つない晴天の空が広がっていた。まるで探索の成功をお天道様が祈っている、そう思える晴れっぷり。
地面の水溜まりや草木の滴る雫が太陽の光を乱反射し、森は少し幻想的な光景を生み出していた。
遠目に見える動く花が何匹か集まり、太陽に向かって花を向けているのが見える。光合成をしているのか、嬉しそうにクネクネ動いているのが見て取れる。
いつの間にか隣にお座りしている狼の尻尾は、いつも以上にブンブン振られていた。
どれだけ今日の探索が楽しみだったのか。ご主人との散歩が楽しみで仕方がない犬のようだ。
狼だけど。
この世界に迷い込んで5日目。
いろんな困難が……危険の一つもない平和な日々を過ごしていたけど、ついに本格的な探索が始まる。
最終目標は人里を見つけることだが、今日は果物や調味料として使える植物を見つけることを目標にする。というのも昨日の蛙肉を食べてから血生臭い、焼いただけの食事が嫌になったのだ。サバイバル中でそうも言っていられないのも分かるが、味の変化が欲しい切実に。
狼に伏せてもらい、落ちないようにしっかりと背中に乗る。
探索場所はクレーターからなる森の上。つまり崖上の森を探索する。
狼の背に乗って崖を駆け上がり、狼の鼻を頼りに森を探索していく狼ありきの行動だが、既に狼に負んぶに抱っこ状態なのだ。今更気にする必要がない。
食事は狼が狩ってきたものを食べる。いつもと変わらない。
果物があることを願う。
横穴を出て、崖を駆け上がる狼。
俺は落ちないようにしっかり掴まる簡単なお仕事。
一度登った時とは違う場所から登ったが、景色は変わらず木々が生い茂る森である。
ただ説明しずらいけど雰囲気がちょっと違う。クレーターの森はすべてが生きている! て感じの森に対して、こちらの森は地球の森と大して変わらない感じがする。
狼にゆっくりと移動してもらい、流れる景色を見ながら食材を探す。
「わ! 突然どうした!?」
突如走りだす狼。
突然の事で落ちそうになるのをしっかり掴んで耐え抜く。
暫くして狼が走りだした要因がそこにあった。
整備され、間隔を空けて植えられている木々。その木々は背が低く薄緑の実が生っていた。
「果物だ!? しかも人の手が加わってるという事は、近くに人が住んでるかも!」
人里があるかも知れない。絶対とは言えないが、この果樹園? を見る限り放棄はされてないと思う。果樹園を何度か見たことがあるから何となくわかる。
村なのか個人の所有物なのか判らないけど、人がいるのは確かだ。
狼に果樹園の周りから少し離れた場所に移動してもらう。
近くに人がいることを考慮して観察する。3メートルもある巨大な狼が突然現れたらパニックが起こるだろうから慎重にいかないと。
果樹園の大きさ的に個人ではなさそう。村で世話をしているのかも。
離れた状態で果樹園を一周したけど村は発見できない事から、隠している場所の可能性がある。舗装された道がないのでそう予想した。
もう少し離れた場所に村があるのかもしれない。
ここは狼の鼻を頼りに探すとしよう。
慎重に進む事を徹底して探してもらう。さっきみたいに突然走りだされても困るので理解しているかわからないけど何度もお願いした。
果樹園から大分離れた所で狼に反応があった。
こちらを見つけたよ! みたいな感じで見てくる狼に頷いて返事を返す。
そして……
「なんでだよ!」
狼は走り出した。
あれほど説明したのに、やはり狼は言葉を理解していない。俺が頷いたのを恐らくGO! みたいな感じで解釈したのかもしれない。
猛スピードで走る狼に静止の声をかけるが止まる様子はない。このままだと人里に乗り込んでしまう。
躾ができない悪い飼い主だと思われるのは別にいい。飼い主じゃないから。だが、狼が人を襲いでもしたら殺人事件で捕まり異世界生活終了だ。
俺は如何にか出来ないかと頭を働かせる。しかし10歳の自分に何かできる力はない。ただ祈るしかないのだ。
ああ、第一印象が最悪になってしまう。
狼は自身の身長以上の高さまでジャンプし、それを叩き落した。
2メートル無いぐらいの大きな鳥。それを狼は前足で地面に叩き落したのだ。
地面に落ちた鳥はまだ息をしているが羽根が折れたのか飛ぶことができない様子。そこにまだ空中に居た狼が全体重をかけて圧死させた。
「……人里を見つけたんじゃなくて食事を見つけたのね」