表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/26

04:襲撃



Unknown



 そこは湖のほとり。比較的温暖な地域で、緑が辺りを埋め尽くす自然には困らない一帯。

 しかし、その湖は完全に凍っている。表面のみならず、水分を一滴も残さずに芯まで凍っている。

 そして、近くにある木に寄りかかり、眠っている一人の少年。その寝顔は歳の割には幼く見える。しかし、その肌は目の前にある氷の湖のように白い。前下がりボブの髪の毛は彼の顔を少し隠している。

 そこに少年よりも年上の女性が現れる。軽くハネた短い髪の毛、身長は女性にしては大きい方だ。少年の顔を覗き込むと、少年はその鋭い目をゆっくりと開く。


「君、近いよ」


「やだなぁモリガンさん!二人だけなんだから照れなくても良いじゃないですか!」


「照れる?僕が君、メルクリウスごときに照れる?そんなに殺されたいのかい?」


 そう、少年の名前はモリガン。そして女性の名前はメルクリウス。あの日本支部の反乱の当事者だ。


「殺されるも何も、モリガンさんの愛を受けてスッゴく強くなりましたから!」


「あれを愛って勘違い出来るなんて、君は幸せだろうね」


 二人は茶番を繰り返しながら目を合わせ、一瞬でその場から消えた。そして、湖の中央に漆黒の邪神が現れた。

 しかし、既に漆黒の邪神を挟み撃ちにしていた。モリガンの得物は巨大な鉄球、名はシヴァ。メルクリウスの得物は刃の付いた靴、名はソルシュ。

 既に両方から攻撃を受けている漆黒の邪神。そのまま跳んで避けると、メルクリウスの蹴りとシヴァがぶつかり合い、凄まじい衝撃が氷を砕く。

 そして、シヴァを足場にしてメルクリウスが飛び上がる。漆黒の邪神は純白の剣を構えたその瞬間、漆黒の邪神の防御を剥がすような力強い蹴りの連撃が始まる。


「グラビテーション」


 メルクリウスは軽くなったように上昇し、シヴァが真っ直ぐと漆黒の邪神に向かう。

 何とかシヴァの一撃を去なすが、上空から重量が増したメルクリウスのかかと落としが降って来た。漆黒の邪神は純白の剣で防ぐが、防御もろともたたき落とされる。

 漆黒の邪神は氷の湖に突っ込むと、舞い散る粒子で身を隠す。モリガンが重量の力で粒子を雲散させる。


「逃げられちゃいましたね」


 モリガンは落ちている黒い封筒に気づき、拾い上げて開く。中にある物を読むと、そのまま投げ捨てた。メルクリウスがそれを拾うと同時に、モリガンは歩き出す。


「やっとだよ。長かったね」
















 そこは街中。長身の少年から脱したような男性の隣には大人の女性。短い髪の毛に整った顔立ち、長い手足はモデルを彷彿とさせる。


「ねぇ、次はいつ会いに来てくれるの?」


「分からないなぁ。でも待っててね?僕はこの一時のために頑張ってるんだから」


 男性と女性が向かう先には一人の青年が立っている。雰囲気は柔らかい雰囲気で、その表情から優しさが伝わって来る。


「ニヨルドさん、そろそろ終わりですよ?」


 長身の男性の名前はニヨルド。日本支部関係では一番幼いと言われていたニヨルドも、今は立派な?青年となっていた。


「もうそんな時間なんだ。もうちょっと良いでしょズルワーン?」


「ダメです」


「ちぇ」


 ニヨルドは口を尖らせながら女性の手を離した。そして柔らかい雰囲気の青年はあのズルワーン。二人ともホーリナーとしても、一人の男としても一人前になっていた。


「そろじゃあさようなら」


 ニヨルドはそのまま女性に口付けをしてズルワーンの方へ向かう。女性は頬を赤く染め、ズルワーンは呆れながらニヨルドに帽子を渡した。ズルワーンとニヨルドは同時に帽子を被り、人混みの中へ消えて行った。


「ニヨルドさん、女遊びが過ぎるんじゃないんですか?」


「だってコソコソするのつまんないんだもん。たまには女の子と遊んでも良いじゃん」


「たまには、って」


 ズルワーンは呆れてため息を吐く。


「今は親密な女性が何人いるんですか?」


 ニヨルドは上を見ながら考える。それ程相手がいるという事。


「分かんないや!30はいるんじゃない?」


「じゃあ恨まれる心当たりは?」


「そんなへましないはずなんだけどなぁ」


 二人はそのままビルの壁を駆け上がって行く。その間に得物を顕現した。ニヨルドの得物はナイフ、名はティルビング。ズルワーンの得物は掻き爪、名はネイト。

 ビルの屋上に行くと漆黒の邪神がいた。漆黒の邪神は既に大量のティルビングに包囲されていた。ティルビング同士がぶつかり合い、ドーム状に包囲している。


「女の子じゃないよ?」


「とりあえず逃げるタイミングを作りましょう。こんな殺気を出してるって事は、僕達を殺す気らしいですよ」


「りょぉかい」


 二人が漆黒の邪神から注意を離したその瞬間、漆黒の邪神は二人の背後をとっていた。ティルビングは均衡が破られ、全てが落ちて行く。

 しかし、二人は背後にいる漆黒の邪神の首もとに得物を突き付けていた。


「消えて下さい。少なくとも僕達二人が本気出したら、貴方は勝てません」


「無闇な殺生禁止でも正当防衛ってのがあるしね」


 二人が振り向くとそこに漆黒の邪神はいなかった。完全に気配が消えている事から、漆黒の邪神が手を引いたと判断する。

 二人は漆黒の邪神が落として行った黒い封筒を見付け、ズルワーンが手に取り封筒を開けた。


「ラブレターかな!?」


「あの状況でラブレターなら、ニヨルドさんは変な人に好かれましたね」


 二人は中を取り出して口角を上げる。ズルワーンは細かく切り刻むと、その場にバラまいた。


「行きましょうか?」


「デート出来なくなるのは寂しいけど、しょうがないか」



















 そこは人々から遠ざけられた廃墟。廃れたその風景は不気味な雰囲気を醸し出している。

 漆黒の邪神はこの馬鹿みたいに広いこの中から、たった二人の探し人を見付けるのは至難の業。しかも、ここの住人は用心深いらしく、至る所にトラップがある。

 漆黒の邪神が階段を登ると、そこには腕組みをしている女性が一人。暗い室内でもその金色の肩口で揃えられたボブヘアーは輝いて見える。女性は得物である全体に刃のナックルガードが付いた槍、ルドラシスを構えた。


「誰誰?まぁ侵入者らしいからこのククルカンが成敗してやる!」


 ククルカンは地面を蹴ると一気に漆黒の邪神との間合いを詰める。しかし、漆黒の邪神はククルカンの上を飛び越えて行く。

 ククルカンは振り向き様に横なぎにルドラシスを振るう。漆黒の邪神は防御するが、軽々と吹き飛ばされてしまった。壁を破壊しながら何とか止まる。


「甘い甘い!うちに喧嘩売ったのが間違いだったね」


 漆黒の邪神はククルカンに切りかかるが、ククルカンは片手で止めてしまう。そのまま口角を上げるククルカン。


「バキューム!」


 漆黒の邪神が後ろを振り向くと、そこには目一杯の炎があった。漆黒の邪神は純白の剣を炎に向ける。そのまま、凄まじい炎はククルカンもろとも漆黒の邪神を飲み込む。ククルカンは真空のベールに包まれ、炎を拒絶している。

 炎が止むと、そこには全く無傷の漆黒の邪神がいる。漆黒の邪神の視線の先にはバンダナを付けた黒髪、そして黒い肌の長身の女性がいる。


「う、嘘嘘。アルテミスのサラちゃんの炎だよ?」


 アルテミスの隣には巨大なトカゲがいる。赤いウロコに体が覆われ、鋭い牙が見え隠れする。トカゲというよりはまるで竜のようだ。

 漆黒の邪神は二人を交互に見ると、そのまま壁を突き破り逃げて行った。漆黒の邪神が逃げた跡には黒い封筒が一つ。


「なんだなんだ?」


 ククルカンが黒い封筒を拾い上げると、トカゲの上に乗ったアルテミスが近寄る。


「何だいそれは?」


「落とし物っぽいよ」


 ククルカンは黒い封筒を開き、中身を取り出した。そのままニヤリと笑うと、それをアルテミスに見せる。アルテミスはそれを見てククルカンと同じように笑う。


「乗りな、ククルカン」


「OKOK!」


 ククルカンがトカゲの背中に飛び乗ると、トカゲは壁を貫いて外へ飛び出して行った。

 遂に日本支部の反乱の関係者が出てきましたね。設定はあれから3年後なので、子供だったニヨルドやズルワーンは青年になりました。

 コレから空白の3年間が語られたり、語られなかったりです。楽しみにしていて下さい。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ