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23:略奪



Japan Tokyo



 ニヨルドとユスティティアは街中を二人で歩いていた。何度も何度もこの街を歩いているため、2人は否が応でも道を覚えてしまった。

 ニヨルドは色んな事を教えてくれる。天性の遊び人らしく、知らない文化の遊びもニヨルドはそつなくこなす。ユスティティアはそれに付き合わされ、色んな事を覚えていった。


 今日は生活用品の買い出しという、いつもとは違った用事で来ている。買い出しと言っても、ホーリナーは人の記憶に残らないためタダである。

 ニヨルドは両手いっぱいに抱えた紙袋を持ち、何故か嬉しそうにユスティティアと話す。


「なんか僕たち恋人みたいだね」


「こ、恋人!?」


 その動揺する表情がニヨルドにとってはなによりも嬉しかった。


「からわないでほしいの」


「僕の願望でもあるんだけどな」


「………うぅ」


 ニヨルドにからかわれたと思ったユスティティアはいじけるが、ニヨルドからしたら超が付くほど真剣に言っている。

 ユスティティアの頭に手を置こうと、荷物を地面に置いて、ゆっくりと腕を伸ばすがニヨルドの手は途中で止まった。それはユスティティアがニヨルドを睨んだからではなく、過去に失敗があったわけでもない。

 凄まじい程の殺気。ユスティティアは今までに感じた事のない程の殺気が、ニヨルドの事を射抜くように鋭く突き刺さる。

 ニヨルドは臨戦態勢に入るが、ユスティティアは顔面蒼白。それで全てを理解したニヨルドは、ユスティティアの肩に手を置いた。


「このまま一気に逃げて。少しでも僕たちが離れればダグザは気付いてくれるから」


「でも――――」


「行って!」


 ニヨルドはユスティティアを反転させて背中を押した。ユスティティアは一目散に走り出す。携帯を取り出すだけの余裕がない。震える手足を抑えつけ、早くダグザが気付いてニヨルドの援護に行くのを望むのみ。


 ニヨルドは荷物を路地の脇に置き、人がいなくなった事に今気付き、自分がどれだけ弛んでいたかを後悔する。

 腕輪に手を触れ、得物を顕現する。得物はナイフ、名はティルヴィング。


「エクスペンション」


 二振りの剣となるティルヴィング。そして、ニヨルドは感情が抜け落ちた顔で辺りを見回す。


「出てきなよ」


 その瞬間、ビルの上からニヨルドと同じ歳くらいの少女が飛び降りて来た。それは神選10階のリル。

 両手に持っている双剣、マクリルでニヨルドを押し潰すように斬りかかる。しかし、ニヨルドは片手で受け止め、即座に蹴り飛ばす。

 そして、そのまま後ろにティルヴィングを振るうと、後ろにいたキウンの拳と交差する。キウンの得物はグローブ、名はドルヴァ。

 ニヨルドと同年代の少女リルと、仲間にはいないような大人の女性キウン。本来ならニヨルドは現を抜かすはずだが、ニヨルドは目の前にいる二人をただ“敵”とだけ解釈している。


「任務は僕じゃなくて、ユスティティアの暗殺だね?」


「でもお前も死んじゃうんだよ!血をドバーってだして死んじゃえ!」


「うるさいよ。君は私怨で僕は殺したいだけだろ?それより君だ――」


 ニヨルドは路地の両側にリルとキウンがいるため逃げ道がない。その中で、ゆっくりとキウンにティルヴィングを向けた。


「君の殺気はユスティティアに向けられてた。だから容赦しないよ。

 そこのちっこいのも、僕は約束を守らなきゃいけないから死ねない。邪魔するなら殺すから」


 ニヨルドは頭に血が昇っているのか、二人に向かって宣戦布告をした。

 リルとキウンは一気に間合いを詰め、挟み撃ちにする。ニヨルドは牽制程度のティルヴィングを投げた。リルとキウンはそれを撃ち落としにかかるが。


「ファイヤーワークス、ファイヤーワークス、ファイヤーワークス」


 リルとキウンを避けるようにティルヴィングは分裂を繰り返し、路地一帯をティルヴィングが包囲した。

 3年前、ニヨルドは‘反響のニヨルド’と呼ばれていた。時は流れ、今は‘絶対包囲網’と呼ばれている。海にいる小魚を一匹も逃す事なく取り去る網のように、ここは生きては帰れない檻である。


「エクスペンション」


 ニヨルドは両脇から来るリルとキウンを迎え討つ。3人が3人とも素早い連撃を駆使するタイプだが、ニヨルドは連撃の途中で包囲網にティルヴィングを投げる。ティルヴィングはぶつかり合って思いもよらない所から射出される。それは真っ直ぐとキウンの背中に向かうが、リルがキウンの後ろに回り込んでティルヴィングを打ち落とした。

 その間もまるでキウンは攻撃を繰り返す。リルの死角はキウンがカバーし、キウンの死角はリルがカバーする。

 それでも神選10階2人に対して遠距離型のニヨルドが互角な戦いをしている。

 リルとキウンは徐々に表情が曇っていく。何故かニヨルドは一人なのに、戦っている相手は不特定多数に思える程の力。しかもニヨルドの間合いはこの戦場全て。


「なんのこの子!本当に遠距離型?」


 キウンからは焦りが伺える。ニヨルドは潮時と考え、一気に畳み掛けようとしたその時、リルがニヨルドとの間合いを取った。


「キウン!もうムカついた!リミッター解除してコイツをバラバラにしちゃうね!」


 リルは腕輪にマクリルの柄を叩き付けた。腕輪はガラスのようにひびが入り、パラパラと落ちて行く。

 剥がれ落ちた腕輪の下からはニヨルドが今までに見たことのない腕輪が出てきた。悪魔のものでもない、細い腕輪が。


「行くよ!これでもう血まみれだよ!?」


 キウンも諦めたのか、腕輪を殴った。そこからはリルと同じ腕輪が現れる。

 二人とも得物は何も変わっていない。しかし、リルがマクリルを振ると、何故かマクリルを水の膜が覆った。反対側にいるキウンを見るとドルヴァが発光している。

 ニヨルドは瞬時に気を引き締める。それと同時に二人が走り出した。

 先に攻撃を仕掛けて来たのはキウン。リーチは短いものの、光が筋を残す程の素早いフックで一気に間合いを詰めた。ニヨルドは体を軽く後ろにやり避け、邪魔なキウンの腕を斬り落とそうとするが、何故か残像で出来た光の筋から先に刃が進まない。その間に腹を殴られてしまう。

 しかし苦痛に悶えている暇はない。後にはマクリルを振りあげているリルがいた。ニヨルドは防ぐよりも避けて態勢を整える事を選び、足に力を入れた瞬間、肩口から脇腹にかけて斬られてしまった。転がるように倒れたために致命傷は避けられたが、相手が何をしたのかも分からない今、ニヨルドに対抗する術はない。

 逃げるだけの事は出来ると判断し、タイミングを伺っている時だった。腹にリルに斬られた傷とは別に、鈍い痛みが襲う。腹には何故かマクリルが刺さっていた。


「な、何で、………だよ?」


「うわぁ!キウン!血だよ血!コイツ死んじゃうかな?死んじゃうよね!」


 ニヨルドが久しぶりに感じる恐怖。それは今まで体験した事のない、一秒先にでもあるであろう死の恐怖が全身を支配していた。

 リルがゆっくりとニヨルドに近付き、腹に刺さったマクリルを引き抜いた。そこからはおびただしい量の血が流れ出し、ニヨルドの意識が遠ざかっていく。

 リルはその傷口に指を差し込むと、血をすくい取った。ニヨルドの血をそのまま口に運び、美酒を味わうかのように顔が悦に染まる。


「やっぱり人の血って良いよねぇ!生臭くて、鉄臭くて、命を食べてるみたい!」


 キウンは顔を歪ませ、敵ながらニヨルドに同情する。


「僕を、ころし、……ても、い、み………ないよ」


「ユスティティアを奪ったからだよ!お友達がさらわれたら相手をバラバラにするのは当たり前でしょ?」


 ニヨルドは最後の方が聞き取れなかった。リルが喋り終わるより先に、ニヨルドが意識を手放してしまったからだ。


「この前は本気出せなかったから負けちゃったけど、本気出せばこんなの余裕だよ」


「リル、後は任してもう行くわよ」


 リルは満足したのか、無邪気に返事をしてキウンの後ろに付いていった。そして、物陰から人が現れ、ニヨルドを回収して行った。

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