22:墓標
新展開!
Itary suburbs
ククルカンとアルテミスはイタリアの市街地から離れた、イタリアの街が一望出来る丘にいた。森のような木々がひしめく一帯を抜けると、そこには墓石と様々な得物が刺さっている。
そう、ここは神選10階の墓。ククルカンが最後に来たのは3年前。ホーリナーの最強を決める大会で来たのが最後だ。
目的は当然ユピテルの墓参り。3年前よりも明らかに増えている墓の数に、若干の寂しさを感じながらも、アルテミスとククルカンはユピテルとアストライアの墓に花を手向けた。
もしかしたら今回の戦いでまた仲間が死ぬかもしれない。大切な仲間は充分という程失った。神選10階にしては少ない方だが、何よりも仲間意識が強い今の仲間だからこそ、死んだ時のショックも大きい。
ククルカンは、優しい笑顔を浮かべながらユピテルの墓を見つめている。それでアルテミスは察したのか、ククルカンに背中を向けた。
「時間が必要だろ?アタイは暇つぶししてるから、アンタは気が済むまでユピテルと話してな」
「でもでも、ダグザが単独行動禁止って言ってたじゃん」
「アタイに見られるのも気まずいだろ?サラマンダーを監視に付けとくよ。アタイにはまだ3人分も仲間がいるからね」
「ありがとう」
ククルカンはアルテミスの顔を見て礼を言った。サラマンダーなら万が一の事があったとしても、戦力としては充分だ。
本来サモンは使用者と召喚した者の力は比例する。つまり、仮に神選10階レベルの誰かに襲われても、戦力としては充分である。
アルテミスが去ったのを確認すると、ククルカンはその場に座った。見られてるのはサラマンダーだ。彼はククルカンの過去を知らないし、口外もしないであろう。
「ユピテル、もう3年も経っちゃったね。あのねあのね、今うちらは神選10階の敵になっちゃったんだよ?でもねでもね、うちは間違ってないと思う。仲間のためだし、何よりも間違ってないと思ってるから。
でもでも、これから、………ううん、もう戦争が起こっちゃってるんだ。スッゴく怖いし、スッゴく辛い。うちね、考えただけで逃げ出したくなるくらい怖い。
だけどだけど、ユピテルはそんな事したら怒るよね。うち、敵であろうと誰かを守って死んだユピテルを誇りに思ってるよ。だからだから、うちも全力で、命をかけて誰かを守りたい。死にたくはないよ?ただ、もう誰かが死ぬのは嫌だし、何も出来ないのも嫌だから。
だからだから、うちが無理しすぎて死んじゃってもユピテルは怒らないでね?もし、ユピテルに会えたら褒めてね?うちは、ユピテルに恥じないように誰かを守り抜くから」
サラマンダーは静かに涙を流していた。いつも馬鹿みたいに騒ぎ、明るいククルカンだが、アルテミスもククルカンも語ろうとはしない過去が、今のククルカンから垣間見えた気がしたからだ。
アルテミスは懐かしい街を歩いていた。今や敵の巣窟でしかないが、相手も馬鹿ではない。一般人がいる中で、盛大に戦争を始めるつもりはないだろう。
一匹狼だったアルテミスにとって、ククルカンのように失うものも、ヘリオス達のように守るべきものもない。
それは自分の身すら守れるか危うい事を知っているからだ。確かに遠距離型最強という称号こそ得たが、もうそれは過去の話。既にニヨルドや摩和羅女には及ばないかもしれない。
ただ、今はサモンがある。コレがあれば自分の身一つは守れるであろう。そうすれば、自分のせいで誰かを犠牲にする事もなくなる。それがアルテミスの生き方だ。
サモンは召喚したものと一応は繋がっている。一応というのは、どちらかが干渉しない限りは別の個体という事。逆に召喚されていない時でも、お互い干渉する事は出来る。
アルテミスは心をサラマンダーに繋げ、軽い状況確認をした。しかし、何故かノイズがかかったいるかのように、上手くサラマンダーと繋がらない。
それに対して、アルテミスの緊張は一気に高まる。恐れていた“最悪の事態”が起こっているかもしれない。
『おい!サラマンダー!何があったんだい!?』
『………あ――じ、―きしゅ、う』
途切れ途切れなため、何を言っているかは分からないが、確実にサラマンダーの身に何かが起きている事は確かだ。
そして、ククルカンにもその何かが降りかかっているのは必至である。近くにあった壁を殴り、怒りを爆発させて壁に穴を空けた。
「サモン!シルフ!」
人間の姿の時は小さな少女、しかし今は大きな緑色の鳥の姿をしたシルフ。輝くような緑色をしているシルフからは、心地良い風が発せられている。
「事態は分かったね?」
シルフは首先だけで頷く。それを確認すると、アルテミスはシルフの足に掴まった。
シルフは一気に急上昇し、凄まじいスピードで飛行を始めた。しかし、アルテミスにはシルフが風を操っているため、全く風圧というものが感じられない。
シルフはアルテミスが1時間かけて歩いた距離を、ものの数十秒で移動した。
アルテミスはシルフから離れると、シルフの風に守られながら着地した。
そこには血まみれのサラマンダーとククルカン、そして赤黒いローブを羽織った人物が確認出来た。
アルテミスは一気に頭に血が上り、赤黒いローブを羽織っている人物に殺気を浴びせかけた。
「問題だ、貴様が戦うべき相手は我か、そこにいる奴らか、どちらだ?」
アルテミスは何か違和感を感じながらも、赤黒いローブを羽織った人物の指差す方向を見た。
そこにはダークロードのように大きな体をした男性、アグニ。そして褐色の肌に痩せた体に布を巻いただけの男性、マサライの二人がいる。
「………神選10階」
そう、最悪の事態が起きていた。しかし、たかだか神選10階2人で対大量戦術に特化したサラマンダーとククルカンをココまで出来るはずがない。
「相手の力量を見誤った結果だ、実に愚かだ」
赤黒いローブを羽織った人物は人を見下すような口調。しかし、この2人を助けたのも事実。
「ま、マサライ、知らない奴、強い」
「術者がいないサモンは相手じゃないが、この二人は厄介じゃな」
「神選10階の貴様らに問題だ。ここで我々と戦うのが利口か、最低限で帰還するのが利口か、どちらだ?」
マサライとアグニは何も言わずにその場から消え去った。そして、アルテミスはサラマンダーを一旦戻す。サラマンダーはサモンによる精霊なので、一度戻してしまえば傷は癒える。
「サモン・ウンディーネ」
青い髪を巻いている女性がウンディーネ。ククルカンが倒れているのを見て、アルテミスに目をやるが睨まれて言おうとした事を黙殺された。
使役されている以上、主には絶対服従というのは変わらないらしい。
ウンディーネはククルカンを水で包み込み、治療を開始する。その間にアルテミスは赤黒いローブを羽織った人物に目を向ける。
「とりあえずアンタに礼を言うよ」
「少しは賢くなったようだな」
その瞬間、アルテミスの中で引っ掛かっていたものが一気に弾け飛び、一つの結論に至った。
目の前にいるのは亡霊。ここにいてはいけない人物。
「ま、まさか、アンタはベルゼブブなのかい?」
鼻で笑う声が聞こえ、目の前にいる人物はローブのフードに手をかける。
ローブを外すと、まず目に映ったのは美しい肩口で揃えられた金色の髪の毛。そして、片目は鋭く、もう片方は眼帯が着けられている。
アルテミスは恐怖よりは驚愕により一歩退く。
「貴様にしては上出来と言えよう。正解だ」
そこにいるのは3年前の第二次ホーリナーラグナロクにて死んだはずのベルゼブブ。それが何故か今ここにいる。しかも、敵であった自分達を救って。
「何でだい!?アンタは3年前に死んだはずだよ!」
「死んでなかったからここにいる。こんな簡単の事も分からないのか?」
アルテミスの剣幕にウンディーネは恐れすら感じていた。他人に対してあそこまで声を荒げる主を初めてみたからだ。
アルテミスは怒りや恐怖から声をあげているのではなく、ただ思考回路が現状に追い付いてないだけ。
「アンタは仲間なのかい?」
「難しい問題だ」
ベルゼブブは頭を抱える。そして、暫く適切な答えを探し、ゆっくりとアルテミスを見る。
「我は今も昔もルシファー様、………今は帝釈天様に付き従うのみ。故に、帝釈天様ならこうするであろう、と判断して奴を助けたまで」
「なら、何で今更現れたんだい?」
「それは簡単な問題だ。今まで帝釈天様が生きている事を知らなかったから、ただそれだけだ」
人を小馬鹿にするような話し方が少々ムカつくが、アルテミスは今目の前にいるのは、過去のベルゼブブではなく、自分達の戦力となるやもしれない‘バアル’だと判断した。
「じゃあアンタに、ベルゼブブとしてじゃなくてバアルとして頼む。帝釈天が目当てでも良い、だからアタイらに力を貸してくれ」
バアルは治療が終わり、一応傷が癒えたククルカンを肩に担いだ。
「貴様に及第点は多いが、合格だ。元々我は元帥に恨みがあったから、利害の一致だ」
「アンタに試された覚えは最初からないよ!」
最後の最後に遂にキレてしまったアルテミス。バアルは全く相手にせず、目の前に黒い穴を作るとそこに入って行った。アルテミスはバアルを罵倒しながら黒い穴に入る。
懐かしい奴が出てきましたね。死んだはずなのに生きてました、的なのは作者自身初めてのことなのでやるかやらないか迷いました。でも好きなキャラだったので出しちゃえ!ってことでの再登場です。
ストーリーも大きく動きまして、やっと複線を回収してまいりたいと思います。