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XX:花火

 番外編です!息抜きで自己満足の1話ですが、読んでいただけたら光栄です。




Japan Tokyo



 居住地となっているマンションの屋上にてモリガン、ニヨルド、ズルワーン、摩和羅女、ユスティティア、祝融の6人はサークル状になって手には花火が握られている。

 季節外れな花火をやる理由となったのは2時間前まで遡る。








 陽も暮れかけ、街も空も紅に染まった夕方。摩和羅女は膝を抱えて隅にいた。隣にはユスティティアがいるが、いつになく落ち込んでいる摩和羅女になすすべがなくオロオロしている。

 そこへ扉が開きニヨルドとズルワーンがやってくる。ユスティティアが呼んだのはズルワーンだけだが、ニヨルドがおまけというのは予想の範囲内だった。


「で、摩和羅女さんは阿修羅さん達に置いて行かれて落ち込んでるんですか?」


 そう、今日は珍しく昼過ぎに起きた摩和羅女は、いやに静かなのに気付き理由をユスティティアに聞くと、ユスティティアと祝融以外の女性陣は買い物に出掛け、タナトス、ヘリオス、帝釈天、金色孔雀、迦楼羅は修行中との事。

 そこまでならよくある事だが、問題は阿修羅と沙羯羅が摩和羅女に服を見立てるという約束をしていたという事だ。

 具体的な日にちは決めていなかったが、約束があるが故に相当堪えたらしい。

 そしてふらふらと屋上へと行き、この世の終わりのように落ち込む摩和羅女を見かねてズルワーンに助けを求め、今に至る。

 ズルワーンはとりあえず摩和羅女の前に腰を下ろすが、全く無反応な摩和羅女に困り果ててしまう。


「ニヨルドさん、なんか良いアイデアはないですかね?女性経験だけなら誰よりも豊富でしょう?」


「何か引っかかるけど、こういう時はパァッと遊ぶのが一番だよ!」


「何か案があるんですか?」


「まぁね!ここは僕に任せてよ!」


 ニヨルドはユスティティアの手を握り、意気揚々と降りて行った。ズルワーンは激しく不安になるものの、ユスティティアがいれば大丈夫と踏んで摩和羅女の慰めにとりかかる。


「僕じゃお力になれませんか?」


「………………」


 全くの無反応である。ユスティティアが助けを求めた理由がやっと理解出来たような気がした。

 いつも底無しに明るい摩和羅女なだけに、この落ち込みようはただならぬ危機感を感じる。


「阿修羅さんの代わりとは言えませんが、僕にもお力になれれば嬉しいんですけど?」


「…………………」


 苦笑いを浮かべるズルワーンに摩和羅女は気付くわけもなく、ただ隣に座り直して空を見上げる事しか出来ない。






 何故か意気揚々としているニヨルドが理解出来ず、ただ手を引かれて斜め後ろを歩く事しか出来ないユスティティア。


「どうしてそんなに嬉しそうなの?」


 ニヨルドは満面の笑みでユスティティアに顔を向ける。友達の一大事にも関わらず、この顔に見とれてしまう自分にため息が出たユスティティア。


「だってユスティティアの役に立てるのが嬉しいんだもん!」


 ユスティティアは更にため息を吐く。やはりニヨルドの思考回路は異常としか言えない。誰かがヘリオスに似てきたと言っていたが、下心丸出しのニヨルドの方が遥かに質が悪い。


 ニヨルドはある部屋の前に行くと扉をノック……………否、連打する。本来のノックならば2、3回叩いて終わりだが、永遠とこのまま出てこなければ一生叩いてそうな勢いの連打。

 そして、ユスティティアは足音や怒声よりも先に凄まじい凍り付くような殺気を感じた。本能的に危険と判断し、ニヨルドの手を離して4mほど後退した。それと同時に扉ごと壁が破壊され、そこから2m程の鉄球がニヨルドを壁に叩きつけた。鉄球がモリガンのシヴァだというのは、考える余地もなく理解した。


「君はそんなに死にたいのかい?もしかして今のは地獄の門でも叩いてたのかい?」


 殺気を撒き散らしながら出て来るモリガン。ユスティティアは毎度の事ながら、モリガンの逆鱗を敢えて逆撫でどころか剥がそうとするニヨルドの行動が理解出来なかった。

 そして、毎度本気で殺そうとしているモリガンの一発を喰らっても、何事もなかったかのように笑うニヨルドの生命力に感服する。今回も頭から血を流しながらだが、笑顔で出て来るニヨルド。


「モリガン、遊ぼう!」


「通訳」


 ニヨルドの単刀直入かつ、大切な事を難なく端折る会話にユスティティアとズルワーンは通訳としてフォローしている。


「摩和羅女ちゃんが阿修羅さんに置いて行かれて落ち込んでて、ニヨルド君とズルワーン君が慰めようとしてるの。

 モリガン君も協力してくれると嬉しいの」


「嫌だね。帰る」


 2人に背を向けて自分で壊した部屋に入ろうとするモリガンを、肩を組んで止めるニヨルド。

 ユスティティアはその2人の背中を見ると、やはり2人は何だかんだで仲が良いのではないか?と思う。実際に第二次ホーリナーラグナロクの時もモリガンがニヨルドを悪魔から神にしたようなものである。


「あの写真みんなに見せちゃうよ?」


「何の事だい?」


「コレだよコレ。忘れたとは言わせないよ?」


 ニヨルドはポケットから取り出した携帯で、撮った写真をユスティティアには見えないように開く。

 そこにはメルクリウスと抱き合うように寝ている(そう見えるだけ)モリガンがいる。事実は寝ているモリガンの隣に無理矢理メルクリウスが添い寝し、たまたまニヨルドが借り物を返そうとしたら遭遇しただけである。

 モリガンの顔は紅潮の後に蒼白になり、冷や汗が滝のように流れ出す。


「しょ、しょうがない、手伝って、あげるよ」


「ユスティティア!モリガン追加だよ!」


 会話が全く聴こえなかったためにニヨルドがどんな交渉をしたのかは分からないが、モリガンの異常な顔面を見たら聞いてはいけない事と理解した。


 ニヨルドはモリガンとユスティティアの手を掴んで再び歩き出す。トラウマを蒸し返されたモリガンに覇気はなく、ただ怯え続ける子供のようだった。それがいつものモリガンとは違い、可愛く見えてしまうユスティティアは貴重な映像をしっかり網膜に焼き付けた。

 ニヨルドが止まったのは立ち入り禁止と書いてある扉の前。前にコレを無視して入ったヘリオスが、血まみれになり、腕があらぬ方へ曲がり、白目を向いて痙攣して出て来た事件以来、恐怖の部屋として誰も近寄らなくなった。あの漆黒の邪神を半殺しにする部屋、それが目の前にある。家主は当然のセキュリティーと言っているが、過剰防衛というのは馬鹿なニヨルドでも分かる。

 ニヨルドがノックをすると、天井からカメラが出て来て3人を見る。相変わらず過度なセキュリティーは健在どころか拍車がかかっている。


『ちょっと待ってるネ』


 家主のメイドとして知られる祝融の声がスピーカーから聞こえた。そうここはダグザと祝融の部屋であり、この戦争における自分たちのブレーンが全てここにある。 3人は扉とは反対側の壁に背を預けて腰を下ろすと、いつまでも見ているカメラに苦笑いを浮かべる。わざわざ座ったのは経験則から。


 30分後、やっと祝融が顔を見せた。この30分とはタナトスと緊那羅のようにいかがわしい理由ではなく、漆黒の邪神を半殺しにしたトラップを‘必要最低限’解除するのにかかった時間である。


「どうしたネ?」


「祝融!遊ぼう!」


 祝融はユスティティアに目で通訳を頼んだ。学習能力が著しく欠如したニヨルドにため息を吐きつつ、モリガンにした説明と同じ説明を祝融にもした。

 祝融は相変わらず怒っているような表情で3人を見る。


「別に私が行かなくても良いと思うヨ?」


 ユスティティアとモリガンは最もだと思ったが、ニヨルドはそうでもないらしい。そもそもニヨルドが何をしようとしているのかは誰も知らない。


「だってたまには―――」


「行ってやれ」


 祝融の後ろからダグザが出て来た。相変わらず完璧と言えるほど生活感のない雰囲気を醸し出している。一日中部屋に籠もっているのなら寝癖の一つでも付いてて良いものだが、相変わらずダグザはダグザであった。


「で、でも………」


「たまには肩の力を抜いておけ。それに、祝融が摩和羅女のそばにいれば俺の仕事が減る」


 祝融は激しく悩む。ダグザに仕える事こそが祝融の生きる意味であり、ダグザのそばにいる事こそが何よりダグザのためになると思っていたからだ。

 だが、摩和羅女のそばにいればダグザの仕事が減るのも理解している。故に祝融はゆっくりと頷く。


「分かりました」


「やったぁ!じゃあみんなは屋上に行ってて!僕は部屋に寄ってから行くから!」


 走り去るニヨルド。それをため息で見送り歩き出す3人。ダグザも祝融が会釈をして部屋を出ると扉を閉めた。


「何でユスティティアはニヨルドと一緒にいて平気ネ?私は会話するだけで疲れるヨ」


 首を回す祝融。確かにニヨルドの台風のような勢いは同じ場所にいるだけでエネルギーを消費する。しかし、ユスティティアはいつもニヨルドのそばにいてニヨルドと一緒に笑っている。祝融にはそれが理解出来なかった。


「祝融ちゃんもモリガン君も何か勘違いしてるの。ニヨルド君が言ってたんだけど『みんな頭が良いし今がどういう状況か理解してる。だからこそみんな重苦しい空気になって暗い顔をしちゃう。

 だからこそ僕が少しでも笑顔にしてあげたいんだ。明日死ぬかもしれないからこそ、最後に見る顔は笑顔の方が良いでしょ?』って言ってたの。

 現に祝融ちゃんは凄い疲れた顔をしてる。もっとリラックスしてもダグザさんは許してくれると思うな」


 ユスティティアは祝融に笑顔を見せた。祝融は暗くなった街を覗く窓に顔を映し、酷い顔をしている自分の顔に驚いた。


「モリガン君も、一人ぼっちだと思わないでほしいの。みんな大切な仲間なんだから、少なくともあたしはもっとモリガン君とお話がしたいな」


 モリガンは照れ隠しで顔をそっぽに向ける。ユスティティアは負けじとモリガンの顔を覗き込むが、その瞬間にモリガンと祝融に脇を掴まれて持ち上げられる。


「君は何でそんな恥ずかしい事を言えるんだい?僕には到底理解が出来ないよ」


「ユスティティア、何かニヨルドに似てきたネ」


「ニヨルド君と一緒にしないでほしいの!」


 ユスティティアには見えないが、モリガンと祝融は笑っていた。ニヨルドが台風のように全てを巻き込む勢いがあるのだとしたら、ユスティティアは台風の目のように束の間の安息に穏やかな陽を灯す。

 現に二人はこうやって無理矢理部屋から連れ出され、気付いたら忘れていた穏やかな笑顔をしている。


 二人は屋上に登るとあまりの光景にユスティティアは落としてしまった。ユスティティアは尻をさすりながらズルワーンと摩和羅女を見ると、二人で膝を抱えて俯いている。聞いていた話よりも確実に被害は悪化している。

 ユスティティアは慌てて二人に近寄ると、肩をさすって呼びかけるが案の定無反応。

 そして何かが切れる音と共にモリガンが歩き出す。祝融はそれを堪忍袋と察知するのに時間はいらなかった。


「せっかく来たら二人でなにしてるんだい!?」


 モリガンは二人の頭を掴むと、思いっ切りお互いの頭同士をぶつけた。モリガンが暴力を振るうのはニヨルドとメルクリウス以外まずない。

 ズルワーンと摩和羅女は軽い脳震盪を起こし、意識がはっきりしてくるとモリガンを睨んだ。


「なにするんですか!?」「なにするんだ!?」


「君達がそうやってうじうじしてるからいけないんじゃないか!見ててムカつくんだよ!」


 いつの間にか現れたニヨルドが間に入る。


「まぁまぁ、はい、これ持って」


 睨み合う3人の手に棒を持たせるニヨルド。そしてライターを取り出すと、棒の先端に火を付けた。

 シューという音と共にカラフルな火花が先端から飛び散る。それに3人は驚き、思わず手放し飛び退いてしまう。


「何をするんだい!?」


「いきなり火を付けるなんて何を考えてるんですか!?」


「お前馬鹿だろ!火遊びはダメだってかかさまが言ってたぞ!」


「なら早く拾って。地面に落としたら危ないでしょ?」


 ニヨルドはギャーギャー騒ぐ3人に落とした花火を持たせた。その花火の火を3人に向けられたニヨルドは逃げ出し、それを追う3人。


「みんな元気になったでしょ?」


「ちょっと捨て身過ぎる気がするネ」


 転んだニヨルドに容赦なく火花を向ける3人。そして、ニヨルドの服に引火すると慌てて消すのもまた3人。

 ニヨルドが絡むと全てが喜劇のように見え、自然とみんなが笑顔になる。


「ほら、みんなで花火やろう?」


 ユスティティアが花火を持って来るとニヨルドは勢いよく立ち上がり、ユスティティアの隣に並ぶ。


「10代だけで集まるなんて初めてなんだし、たまにはパァッと騒ごうよ?

 この戦争が終わった時に僕達は生きてるかどうかなんて分からないし、生きてても悪者かもしれないでしょ?

 僕達の世代は戦争ばっかりだったけど、こうやって一緒に笑える時間があるなら笑おうよ?そしたら明日は目一杯戦えるんじゃない?」


 モリガンは軽い笑みを浮かべながらニヨルドの頭を叩いた。ズルワーンは呆れながらもわき腹を小突く。彼らなりの照れ隠しであり、背中を預ける仲間としての信頼でもある。

 ニヨルドのように恥ずかしいセリフを何の戸惑いもなく言う事は出来ないが、ニヨルドのように掛け替えのない仲間を守りたいという気持ちがある。


「早く始めよう?花火がいっぱいあるからすぐには終わらないの」


「私は花火をやるのが初めてだぞ!こうやってみんなでやれるのは良い事だな!うん!」


「僕なんか手持ち花火があるなんて今の今まで知りませんでしたよ。少し楽しみですね」


「花火の火薬で爆弾を作ったことはあるけど、花火を花火として遊ぶのは初めてだよ」


「私の国では爆竹ばっかりネ。派手なの苦手だけどこれくらいなら面白そうヨ」


「僕はユスティティアと一緒にやれるならなんでも楽しいよ?本当ならユスティティアと二人でやろうと思ってたんだけど、たまにはこうやってみんなでやるのも良いよね?」


 全員がユスティティアの持っている袋に手を突っ込み、全員が輪になって火を付けると明るい夜がさらに明るくなり、影になっていた全員の表情がはっきりと見えるようになった。

 その表情は全員が笑顔。生まれた国も、育ってきた環境も、ホーリナーになってやってきた事も、戦う理由も違う6人がこうやって笑っている。それだけで充分だった。


 時が進むと談笑に入る。ズルワーンがニヨルドにわざとドイツ支部の女の子と見た花火はどうだったかと聞き、ユスティティアがへそを曲げたり。モリガンの花火からの爆弾作り方講座が始まったり。祝融が間違って花火の火種をバケツではなく花火の袋に突っ込み大変な事になったりと、何もかもが新鮮だった。


「そういえば祝融!ダグザはどうしたんだ?」


「何の事ネ」


「何で一緒に来てないんだ?沙羯羅が言ってたぞ、祝融とダグザは緊那羅とタナトスと同じような関係だ、って」


 それを聞いて全員が大声で笑い始める。祝融はそれを聞いて顔を真っ赤に染め、小刻みに震えている。


「それは僕でも気になるネ。あのダグザの私生活を知ってのは君だけだ」


「男と女が同じ部屋にいて何もないってのもおかしいでしょ?」


「な、何もないネ」


 ニヨルドとモリガンの追撃に明らかに祝融は動揺している。この一連の流れは摩和羅女のせいではなく、沙羯羅が仕掛けた罠である。自分が被害を受けないように摩和羅女という時限爆弾を設置し、今起爆した。


「それじゃあまだ祝融ちゃんの片思いなの!?」


 ユスティティアの純真無垢な追加攻撃が祝融にとっては大ダメージだった。


「それはさすがに可哀想ですね。ダグザさんは祝融さんの気持ちに気付いて知らぬフリをしてるなら最低ですね」


 祝融はズルワーンの事を心の中で腹黒と言うが、決して口に出すだけの余裕はない。


「ダグザは最低なのか!?祝融はダグザに何も言えずにダグザに良いように扱われてるのか!?

 それは許せないぞ!アタシがコレからガツンと言ってきてやる!うん!」


「ダグザ様は凄い優しくしてくれるネ!」


 摩和羅女を止めようと祝融が叫ぶと、女性2人は明るい笑顔を浮かべ、男性3人は後少しで堕ちるとニヤリと笑う。


「でもね、ダグザも男だし愛がなくても優しく出来るもんだしね?」


「ダグザの事だから必要なら何でもすると思うよ?むしろダグザに他人と関わるという能力が備わっているのか疑問だね」


「祝融さん、僕達は祝融さんが心配なんですよ?最近疲れた顔をしてますし、あの部屋で何が起きているかは僕達には分かりません。

 何かあるならちゃんと言って下さいよ?」


 ダグザの事を悪く言えば祝融も黙ってはいないはず、そういう野次馬魂が3人を動かす原動力となっている。あの未知の生物であるダグザの裏側を知ること、それが今回のミッションとなった。

 案の定祝融のストッパーが後少しで外れそうになっている。3人の予想が正しければここで更なる追い討ちがあるはず。


「いくら恩があるからって祝融ちゃんが我慢しなくても良いの。ダグザさんは確かに男の人だから………」


 ユスティティアは目を伏せた。3人の読み通りにユスティティアは動いている。


「おい!アタシ達は仲間だろ!?何でもお前一人で背負い込む事はないんだ!」


 摩和羅女は祝融の肩を揺すりながら真剣な目で訴えかける。そして3人は確信する。この駆け引き、積んだと。


「い、いつも、私、……から、お、お願い、して、るネ。だ、だ、…ダグザ、様、は―――」


プルルルルルルルルル!!


 一斉に6人の携帯に着信が入り、全員が耳に当てる。この携帯は一人から大勢にかけられる優れものらしく。何か緊急事態があるとこういう風に大勢にかかってくる。


『敵が姿を見せた。大至急会議室に集まれ』


 ダグザの淡々とした伝達事項だが、そこから一分一秒を争う事態というのは伝わってきた。6人は今までのお遊びから戦場に向かう顔へと変わる。

 屋上からの階段を飛び降りるように下り、廊下を走って1フロア下にある会議室に飛び込む。いつもふざけているニヨルドすら険しい顔をするのは、戦いが近付いているこの瞬間だけ。

 しかし、急いで飛び込んだ会議室の灯りはなく、真っ暗で明らかにいつもとは違う陰湿な空気をしている。


「「「誕生日おめでとう!摩和羅女!」」」


 クラッカーの弾ける男と共に灯りがつき、6人の目の前にはパーティー仕様になった会議室。そして、大きなホールケーキには‘誕生日おめでとう。摩和羅女’と書いてある。

 摩和羅女を含め6人は完全に思考回路がショートする。敵が現れたと聞きここまで来たら、全員がクラッカーを持って笑っている。


「なに固まってるのよ?」


 阿修羅が摩和羅女に近寄り、摩和羅女の頭を撫でる。阿修羅の後ろから沙羯羅が顔を覗かせると、いつもの明るい笑顔を6人に見せる。


「金色孔雀の馬鹿が昨日になって摩和羅女の誕生日を思い出してね、今日大急ぎで準備してたんだ」


「アタシの、誕生日?」


 摩和羅女は放心状態をキープしているが、他の5人はようやく理解したらしい。祝融に至っては最初から知っていたが、先程の集中砲火によりすっかり忘れていたらしい。


「あんた誕生日なんて知らないって言ってたわよね?それはあの馬鹿(金色孔雀)が忘れてただけ。本当は乾闥婆の手紙に書いてあったらしいのよ」


 緊那羅が馬鹿と言った金色孔雀はがっつり凹んでいる。恐らくこの3人がボロクソに責め立てたのであろう。

 沙羯羅は紙袋を持って来ると阿修羅に渡す。


「飾り付けやら何やらで包めなくて悪いんだけど、誕生日プレゼントよ」


 摩和羅女は中を覗き込むとそこには服が入っていた。それを見て摩和羅女はボロボロと涙をこぼし始め、ゆっくりと阿修羅に抱き付いた。

 3人は分かっていたかのように苦笑いを浮かべる。しかし、釈然としないのがユスティティア、ズルワーン、ニヨルドの3人だった。

 それを察したのか沙羯羅が3人の前に行く。


「何で自分たちに教えてくれなかったの?って顔してるね?

 でも、ユスティティアとズルワーンに摩和羅女を落ち込ませるような事は出来ないだろうし、ニヨルドなんかは口滑らしちゃいそうじゃん?

 まあ3人なら落ち込んでる摩和羅女を慰めると思ったから、摩和羅女の監視という大事な役目を知らず知らずに実行してたわけよ!

 モリガンと祝融を誘ってどんちゃん騒ぎするのは完全に予想外の出来事だったんだけどね。

 …………そういえば祝融は?」


 祝融を探すとダグザの後ろに隠れてニヨルド、ズルワーン、モリガンの3人を睨んでいる。ダグザはそれが全く理解出来なかったが、沙羯羅は自分が設置した時限爆弾がついに爆発したのを理解した。


「収穫はあったの?」


 沙羯羅が悪い笑みを浮かべて3人を見ると3人もまた悪い笑みを浮かべている。


「あと少しだったんですけどね」


「あれでガードが堅くなったのは確かだよ」


「僕の勘だとあの部屋で何かがあるのは確かだよ」


 ダグザは珍しく祝融が怯えているのを見て、柄にもなく本気で心配になり、祝融の頭に手を置いた。


「何かあったのか?」


「い、いえ!何もありません!」


「そうか」





 こうして摩和羅女へのビッグサプライズが終わり、ダグザと祝融の私生活も闇の中へと消えていった。

 いかがでしたでしょうか?10代ホーリナーは阿修羅達と違ってシリアスまっしぐらだったので、こういう10代らしい一面を見せたかったんです。

 実際にみんな中学生くらいの時から戦ってる事になりますからね。ニヨルドなんかはあんな明るいキャラですが、やっていたのは超悪者なのでこういうのもありかと思います。


 次回からはちゃんと本編に戻りますので心配なさらずに!またシリアスまっしぐらですよ!

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