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18:真実



Unkown



「という事があったのさ」


 迦楼羅は当たり前のように話していたが、コレは僅かなズレが更なる大きなズレを呼んだ、誰も救われない悲しい事実。

 何より、全員が産まれて来る摩和羅女のために全てを捨て、摩和羅女一人を守るために大切なものを失った。

 本来ならば3人で幸せになれたはず。しかし、ホーリナーだったがために、それは水泡のごとく呆気なく弾け飛んだ。


 阿修羅(あすら)以外が俯き、次の言葉を探している中、摩和羅女はゆっくりと迦楼羅の裾を掴む。


「迦楼羅が、ととさまなのか?」


「そうだよ」


 そこにあるのは以前の仲間としてではなく、不運な別れを余儀なくされた親子。


「かかさまは毎日ととさまの話をしてた」


「うん」


 摩和羅女は必死に言葉を探しながら、断片化されたもの紡ぐ。


「かかさまはととさまの事が大好きだった」


「…………うん」


「だから、アタシもととさまの事を好きになっても良いか?」


 全員が驚く。特に迦楼羅は泣きそうになり、グッとこらえた。そして、見たこともないような笑顔になる。


「死ななくて良かった」


 満面の笑みで物騒な事を言う迦楼羅。帝釈天と阿修羅は思う、絶対に昔の日本支部の人間はどこかズレている。


「死ななくてってどういう事だ!?」


 摩和羅女は胸ぐらを掴み上げて詰め寄る。迦楼羅は内心、これが反抗期か?と呑気な事を考えていたりする。


「記憶が戻ってさ、乾闥婆が死んだ事とか、娘がホーリナーになった事とか、金色孔雀が一人で頑張ってたのとか、そりゃ気付けば死にたくもなるさ」


 迦楼羅は記憶を取り戻した時、自分の無力さで暴れ出した。記憶を取り戻せたのも、今まで開発してきた技術に加え、沙羯羅の頭脳があったからこそ。

 立ち会った金色孔雀と沙羯羅曰わく、迦楼羅が死ぬ前に自分達が殺されると思った程らしい。


「最後にコレはかかさまの願いだ」


 迦楼羅は何かと期待していると、摩和羅女は一歩下がって拳を振り上げ、全力で迦楼羅を殴り飛ばした。

 迦楼羅は尻が地面に着き、後ろ手に摩和羅女を見る。世界の終わり、全てを失ったと言わんばかりの悲痛な表情を浮かべながら。


「この軟弱者!かっこつけて何も出来ないなら、格好悪くても僕を守れ!」


 確実に乾闥婆の言った事だが、日に日に乾闥婆に似てくる乾闥婆と摩和羅女が重なり、摩和羅女の叫びにも聞こえた。本当に乾闥婆に似た摩和羅女、迦楼羅はやっと父親になる事を許された気がした。


「何か盛り上がってるみたいだけど、いくら乾闥婆に似て大きな胸してるからって、近親相姦は許されないわよ?」


 阿修羅(あすら)は紫煙を吐きながらケラケラと笑う。阿修羅は昔、毘沙門天が言っていた阿修羅(あすら)の、人に懐かない、すぐに引っ掻くというのの意味が分かった。本当に阿修羅(あすら)は自由過ぎる。


「それじゃあ、メインディッシュといきましょうか?」


 阿修羅(あすら)は阿修羅と帝釈天の頭に触れた。そして、3人が淡く光り出すと、一瞬でその場から消えてしまった。

 残された迦楼羅と摩和羅女は、呆然と3人がいた空間を見つめる事しか出来ない。










 3人はいつの間にかバチカンに来ていた。しかし、今の阿修羅と帝釈天にとってバチカンは一番危険な場所。それを知ってか知らずか阿修羅(あすら)は緊張感の欠片も無く、新たなタバコに火を付ける。

 そして一息吐くと、居住棟の恐らく神選10階の一室から、人が落ちて来た。その人物は否が応でも分かる。今や敵となってしまった毘沙門天だ。

 再び飛び出して来た窓を見ると、紅蓮の剣の力を使った阿修羅、ではなく阿修羅(あすら)がいる。手に持っているのは阿修羅と同じく、身の丈程の刀、名は夜叉光。


「極夜叉光・焔」


 阿修羅(あすら)が飛び降りるのと同時に、夜叉光から炎が現れた。それには阿修羅も帝釈天も驚く。あれはどう見てもインフェルノと同じ。

 火だるまになりながら逃げ回る毘沙門天など既にどうでも良かった。阿修羅(あすら)が使った力、あれだけが気になってしょうがなかった。


「気になる?」


 阿修羅(あすら)はタバコをくわえながら、妖しい笑みを浮かべて問う。阿修羅と帝釈天はいつになく真剣な面持ちで頷いた。


「あの時、私はあんたらが産まれて1週間しか経ってないのに、あの馬鹿は新しい子供を作ろうとか言い出して。あれは本気で殺しにかかってるわよ」


 阿修羅と帝釈天は目で訴える、そうじゃないと。知りたいのはそれじゃないと。


「もしかして、何でできたかって事?」


 阿修羅はゆっくりと頷いた。あれがどの様な力かは分からない。もしかしたら紅蓮の剣の力を持っている自分なら、あの様な力を使えるかもしれない。


「私でも良く分からないのよ。気付いたら出来てたからしょうがないじゃない」


 真剣に聞き入る阿修羅。しかし、帝釈天は嫌な予感が先程から拭いきれない。何故か不安だけが渦巻く。


「あんたらが出来たって事はあの馬鹿とやったんでしょ?考えらんない。何を血迷えばあの単細胞のアウストラロピテクスに体を許せるのか、私が一番教えて欲しいわよ」


 必死に吐き気と戦う阿修羅(あすら)をよそに、阿修羅はゆっくりと、静かに腕輪に触れた。そして、阿修羅(あすら)の首もとに切っ先を突きつける。


「おっ?反抗期か?私は親らしい事が何一つ出来なかったからな。たまには魂と魂のスキンシップってのも良いかもしれないわね」


「はぁ、あの力は何?」


 阿修羅は頭痛が酷くなる。確実に阿修羅(あすら)は毘沙門天に似ている。人の話を聞かないところや、空気が読めないところは否定の余地がない。


「もっと自分を理解しなきゃ出来ないわよ。聞いちゃえば誰だって出来るしね。

 母親からありがたい涙モノのヒントをあげるとしたら、アブソルペーションは紅蓮の剣しか遣えないって事くらいね」


 その言葉で阿修羅の中で殆ど結論は出た。後は感覚的な問題。いくら頭で理解しても実戦で出来なくては意味がない。ましてや教わっているのだ、それでも出来なければVCSOを潰すどころか、これからの戦いに生き残る事も出来ない。


「あんたは天竜にいなかったから教わってないのは当たり前なんだけどね。むしろ霊体以外も吸収出来るって知ってるだけでも凄いと思うわよ」


 本当に思っているのか、と聞きたくなるくらいにどうでも良さそうに言う阿修羅(あすら)


「世辞抜きに思うのは、あんたら二人は天竜史上トップクラスの天才よ。私なんかガキの頃からクソババァに死ぬ気で特訓させられて、やっとの思いで紅蓮の剣を手に入れたんだから。

 帝釈天に至っては規格外。白銀の盾の力は発動しただけで普通ならぶっ倒れるくらいの強力な力なのよ?あの毘沙門天ですら力が足りなくて発動どころか、その素質すらなかった。だからあんたの発作なんてまだ可愛いものよ」


 元から二人は天竜を敵にまわしていた。しかし、血が濃いのか普通に力を使っている。それが阿修羅(あすら)に言わしたら凄い事らしい。

 イマイチ実感がないが、どちらも生命を削る力なために、本来なら力に押し潰されてもおかしくない。そう思えた。


「あと、その力が何のためにあるか考えた事なんてないわよね?」


「確かに、言われれば不思議だ」


「はぁ、むしろ私からしたら疫病神ね」


 帝釈天は考える。剣と盾。それは得物としては要でもある。二人の力は極限まで高められた剣と盾。そのような力を求める理由はただの探求心、もしくは偶然の産物、そして止む終えない理由から。

 阿修羅(あすら)の口振りからは確実に何かがある。


「簡単な話しよ。その力は最後の砦ってやつよ」


 二人は最悪の事が頭に浮かんだ。敵はVCSOではなく、さらに後ろにいる何かの存在。


「じゃあホーリナーよりも強い存在と言えば?」


「いるのなら、神だ」


「話が早くて助かるわね」


 阿修羅(あすら)はタバコに火を付けながら上機嫌になる。後ろでは頭に夜叉光を突き付けられた毘沙門天が土下座をしていた。


「ここからは簡単な歴史のお勉強よ。天竜家やクロス一族みたいにイリーガルな力を持った集団を四神族と呼んでる。四神族の祖先がホーリナーの力である、ディアンギットの腕輪を作ったんだから、“紅蓮の剣”みたいのも作れてもおかしくないわね」


 そこまでの話は確かに歴史のお勉強である。そんな事を言われてもイマイチピンと来ない。


「それなら、紅蓮の剣以外にも、イリーガルな力はあるのか?」


「あんた頭の回転早くて助かるわよ」


 阿修羅(あすら)は上機嫌になりながら帝釈天の頭を撫でた。その時帝釈天は思った、こいつに母親として育てられなくて本当に良かったと。


「詳しくは知らないんだけど、全ての始まりから今までを知ってる力とか、戦を支配する力とか、全ての概念を変える力とかね。天竜は全て概念を支配する力よ」


 確かに一人で強大な力を誇っている。恐らく天竜と同じように情報が全くないのであろう。実際に阿修羅自身もまだ天竜の力を使い切れてない。


「それで、何でこんな力があるのかというと、万が一にも強大な力を持った神が現れたら?それが私たちを滅ぼそうとしたら?」


 それが最後の砦の意味。しかし、それでは一つ疑問が浮かぶ。


「はぁ、それならホーリナーじゃなくて、神様が自分でやれば良いじゃない」


「やっぱり私の子供は頭が良くて助かるわよ。あのミトコンドリア以下の馬鹿に似なくて本当に良かった」


 今度は阿修羅に抱きつく阿修羅(あすら)。そして阿修羅も孤児で本当に良かったと思う。


「簡単な事よ、神が必要なくなったから。神は世界の均等を守るためにいたんだけど、その世界が人を中心に回り始めたから消えたのよ。

 ただ、再び均等が崩れれば神が生まれると思ったんじゃない?その時は子孫に任せる、っていう身勝手な話よ。未来もダークロードも人に任してとんずらよ」


 神が世界を作り、世界を人が動かし始めた。しかし、今や人がその世界を壊している。このままでいけば再び神が現れ、世界をリセットする。


「でも世界の均等が崩れたのなら、不必要なのは人だなんて簡単に想像出来るじゃない」


「そんなの簡単よ。この世界を壊すのも、人が争うのも全てお見通し。なら、その末に人が全てを取り戻すのもお見通しって事」


 そう、神は人に自分達の全てを与えた。世界を壊す力も、世界を救う力も、そして何よりも大切な何かを学ぶ力も。


「その神は誰なんだ?」


「神は一人一つずつ人間に自分が思う大切なものを与えたのよ。そしてその神はキリスト、アッラー、ブッダ、イザナギ。

 キリストは愛情を与え、アッラーは悲哀を与え、ブッダは道楽を与え、イザナギは闘争を与えた。仮にどれか一つでも欠けてたら人間は滅んでるわよ?」


 愛情がなければ人は他人を思いやらず悲哀に呑まれ、悲哀がなければ人は愛情を忘れ、道楽がなければ闘争に染まり、闘争が無ければ真の道楽が生まれない。そして、全て人間のみが持つもの。


「天竜はイザナギの子孫になるわね。ここからが本題よ。単刀直入に言えば天竜はイザナギを復活させようとしてる」


 阿修羅と帝釈天は驚きに顔を染める。そう、人を作り出した神を、人が作り出そうとしている。

 馬鹿な話だ。古来から人は神に近付こうとしたが、神を作りだそうと考えた者は誰一人としていない。


「あら、無理とか思ってるんじゃないの?」


 二人は迷わず頷いた。決して人間の踏み込める領域ではないからだ。


「天照、素戔嗚、月夜見は不完全ながらに神よ。あの3人の力を見れば分かるじゃない?」


「奴らは普通の人間じゃないか!」


 帝釈天が声を荒げた。そんな馬鹿げた事があるにも関わらず、誰も知らずに今の今まで暮らしてきた。そして、それを抑えるはずの四神族が何もしてこない。


「外は人、中は神、だから不完全なのよ。そして既に神は作り出せる段階なんじゃないの?

 第一次ホーリナーラグナロクはそれに反抗しようとしたホーリナーが起こしたもの。その時のルシファーはカリルドールの頭首様よ。

 ちなみにこの3日後、私は悪魔になった」










 ここでやっと伏線の謎の片鱗が露わになったんですが、………いやはや遅い。実に遅い。やっと四神族に触れてくれました。

 阿修羅と帝釈天は阿修羅(あすら)の過剰なスキンシップを嫌がっていましたが、仮に阿修羅(あすら)に育てられていたらどうなっていたんでしょうね?まぁ今でも阿修羅(あすら)の動じない性格は二人とも受け継いでるとは思いますが。

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