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16:約束



Japan Kyoto



 阿修羅、帝釈天、摩和羅女、迦楼羅はダグザに地図を渡され、京都の山を登っていた。

 4人は急にダグザに呼び出され、ここに行けとだけ伝えられた。内容は行けば分かるとの事。


 かれこれ1時間程歩いたが、山道を通り越して獣道になってしまった。摩和羅女が山歩きは得意らしく、どんどん前に行ってしまうが、帝釈天と迦楼羅は精一杯なところがあった。阿修羅ですらなんとか摩和羅女に着いて行ってるレベル。


「迦楼羅、にやけているぞ?」


「本当に?注意しなきゃ」


「ニヨルドが師匠と言う理由が分かったような気がする」


 ニヨルドは迦楼羅の事を師匠と言っている。恐らく、ニヨルドは迦楼羅から自分と同じ匂いを感じるのであろう。


「おーい!なんか大きな石があるぞ!」


 30m程先にいる摩和羅女が大声で呼ぶと、3人は歩調を早めて摩和羅女のいる所に向かう。

 そこは何故か開けた平らな土地が広がり、真ん中には慰霊碑のような大きな平たい岩がある。恐らくコレがダグザの言う目的地であろう。

 定期的に手入れがされているであろう慰霊碑のような岩。綺麗なのだが年代を感じさせる程の劣化をしている。


「阿修羅!なんか阿修羅の名前が書いてあるぞ!」


 摩和羅女の発言に驚き、全員が近寄ると、確かに最後に‘阿修羅’と書かれている。その上には‘火具土’と書いてある。

 摩和羅女を抜いた3人は結論に至った。そう、ここに書いてあるのは阿修羅(あしゅら)ではなく阿修羅(あすら)


「これ、“紅蓮の剣”の墓じゃないの?」


「正解よ」


 阿修羅の問いに返事が帰って来た。4人は慌て後ろを振り向くと、そこには阿修羅に良く似た、赤い着物を着た女性が立っていた。


「あ、阿修羅(あすら)!?」


 迦楼羅はその女性を阿修羅と帝釈天の母親、阿修羅(あすら)と呼んだ。確かに阿修羅に似ているが、どちらかと言えば阿修羅(あすら)の方が妖艶な笑い方をしている。


「何で君がここにいるんだよ!?君はホーリナーラグ━━━」


「誰かタバコもってない?」


 阿修羅(あすら)は迦楼羅の言う事を無視して自分の注文をつけた。帝釈天はそれを聞き、ダグザから預かっていた物を取り出す。

 それは阿修羅(あすら)が欲していたタバコ。最初は渡された意味が分からなかったが、ダグザがこれを予期していたのなら合点がいく。


「さすが私の息子ね。あの馬鹿ゴリラ(毘沙門天)に似なくて本当に良かったわ」


 阿修羅(あすら)はタバコに火を付け、一息紫煙を吐くと紅蓮の剣代々の墓に腰掛けた。

 阿修羅との決定的な違い。それは超口が悪く、超自己中。


「面倒だから簡単に言うわよ。私、ダークロードだから」


 タバコを吸いながら当たり前のように言う阿修羅(あすら)。全員は呆れて言葉が出ない。むしろ自分の事をダークロードと宣言するダークロードは聞いた事がない。


「霊はすべてダークロード扱いでしょ?ならダークロードじゃない。

 重要なのはここじゃないわよ?重要なのは━━━」


 全員が息を呑んで次の言葉を待つ。ダグザがここに寄越したという事は、何か大切な事があるからだ。阿修羅(あすら)がいきなり出てきて、ダークロードだとカミングアウトするドッキリではない。


「私そこいらのダークロードに気持ち悪い体にならないから」


「はぁ、それだけ?」


「私の娘、良い質問だ。ダークロードだから討伐しなきゃいけないだろ」


 ごもっともな意見だが、阿修羅(あすら)が言うと何故か拍子抜けする。


「だけど何故、ダークロードである私がここまで生きていたか、は気にならないか?」


 再び妖艶な笑みを浮かべ、新たに火を付けたタバコの火種を4人に向ける。今思うと、着物にタバコという滅茶苦茶なスタイルだが、何故か阿修羅(あすら)にはしっくり来る。


「それは━━」


 恐らくコレがダグザの意図であろう。そう4人は思った。確かにダークロードが討伐されないのはおかしい。強ければ神選10階が来るはずだ。

 阿修羅(あすら)はタバコを吸い込むと、吐き出すと同時に4人を見た。


「私も知らない」


 阿修羅は盛大なため息を吐き。迦楼羅はこういう人間だったと再確認する。摩和羅女は既に飽きていた。そして帝釈天は、拳を握り締め小刻みに震えている。


「なんだ私の息子、反抗期か?良いぞ、母親らしい事を出来ずに死んだからな。拳のキャッチボールをしようじゃないか」


 帝釈天の怒りが限界を超え、髪の毛けと瞳孔が純白に染まる。それは“白銀の盾”の力。


「待て!その力はどうした?」


「あったから使ったまでだ」


「さすが私の息子だ。気分が乗って来たから昔話をしてやろう。

 メインディッシュはあとだ。まずはオードブルのそこの親子の話からだ」


 4つ葉のクローバー探しに励む摩和羅女と、横になりながら雲を見ている迦楼羅を見る阿修羅(あすら)

 迦楼羅と摩和羅女は無反応だが、帝釈天と阿修羅は驚愕に顔を染めた。その表情を見て迦楼羅は、観念したかのように苦笑いを浮かべる。


「なんだ、まだ自分の事を話してないのか?」


 阿修羅(あすら)は呆れ顔と、してやったりの笑みを同時に浮かべる。


「どうした?何かあったのか?」


 摩和羅女は並々ならぬ空気に4つ葉のクローバー探しを止め、ゆっくりと近付いて行った。


「胸の大きさだけは乾闥婆似だな。後は口調も似てなくはない」


 摩和羅女を舐め回すように見る阿修羅(あすら)。まさか自分の子供と仲間の子供が一緒にいるのが面白い光景だった。


「しょうがないな、僕から話さしてもらうよ」













20年前

Japan VCSO Japan branch office


 第一次ホーリナーラグナロクが終わり1年。衝撃的な幕切れをした大戦。日本支部にとっては信じたくもない事実だった。

 同時の日本支部は迦楼羅と乾闥婆の神選10階レベルのホーリナーを有し、新人として頭角を現した金色孔雀のお陰で安定していた。

 そして迦楼羅と乾闥婆が仲間としての一線を越えた事は、本人達と何かと付きまとう金色孔雀しか知らない。


 平和を維持していた毎日。問題などないと思った毎日。それに陰りが訪れた。しかしそれは、3人にとっては幸せでもあった。

 迦楼羅と金色孔雀が任務から帰って来ると、迦楼羅だけが乾闥婆に凄まじいスピードで連れ去られた。残った金色孔雀は自室に戻り、報告書と向き合う事にした。

 迦楼羅は乾闥婆の部屋に入ると、困ったような表情で、息を切らしている乾闥婆を見た。


「いきなりどうしたんだよ?」


「お、驚くなよ?絶対に驚くな?何があっても冷静でいろ」


「それは驚けって振りなのかな?」


 乾闥婆は迦楼羅の場違いな笑みを無視して、息を呑み込むと真剣な目で迦楼羅を見る。


「………こ、子供が出来た」


「………………………は?」


「だから、僕と迦楼羅の子供が出来たんだ」


 迦楼羅は一度思考が停止し、数秒の後に驚き→納得→喜び、という順に表情が変わった。


「おめでとう!」


 迦楼羅は乾闥婆の手を掴み飛び跳ねる。乾闥婆は困った表情を浮かべながらも、一応は喜んでいるらしい


「これは良いことなのか?」


「当たり前じゃないか!僕達の子供なんだよ?こうしちゃいられない。金色孔雀に報告しなきゃ!」


 迦楼羅は慌てて部屋を飛び出すと、すぐそばにある金色孔雀の部屋に入って行った。

 報告書を書いていた金色孔雀は音量の大きさに驚き、迦楼羅を睨むように見た。


「金色孔雀!僕パパになるんだって!」


 金色孔雀はすぐさま扉を閉め、蹴り飛ばすように迦楼羅を部屋の奥に押し込んだ。


「これ以上説明が無くても事情は分かったよ。それで、………迦楼羅は危機感がないの?」


 迦楼羅は金色孔雀が言わんとしてる事が理解出来ていない様子。金色孔雀なら一緒に喜んでくれる、そう思ったからだ。


「そんなのが部長とか毘沙門天だっけ?まぁそこら辺にバレてみなよ。迦楼羅と乾闥婆の子供なら確実に優秀な子供になる。そんな子供をVCSOが放っておくと思う?

 既に親としての愛情があるんなら、自分の子供がこんな世界に入るのを指をくわえて見てる事が出来るの?

 じゃあ極論を言おう。あの阿修羅(あすら)の息子の帝釈天は生まれて間もないのにホーリナーになって、今は戦いの道具になるために育てられてるようなもんだ。それに堪えられるのかい?」


 そう、ホーリナーの子供はホーリナー。今は支援者に育てられている帝釈天も、時が経てば幼くしてホーリナーとして戦わされる。人の親ならばそのような事は絶対に出来ないはず。


「とりあえず乾闥婆も呼んで来る」


 金色孔雀は部屋から出て行ってしまった。迦楼羅は冷静なって考えると、自分がしてしまった事の重大さを自覚した。

 しかし、二人の子供が見たくて仕方がないのも事実。これは二人にとってのこの上ない幸せ。

 今の迦楼羅にとって、幸せに埋まっている頭を使う事は至難の業だ。

 何も考えられないまま、金色孔雀が乾闥婆を連れてきた。床に座っている迦楼羅の隣に座ると、金色孔雀は二人の前に仁王立ちする。

 いつもはふざけていて掴めない男だが、今は二人が初めて見るような表情をしている。それは憤怒と悲哀。


「それで、どうするの?」


「僕は一人でも産むぞ」


 乾闥婆の意志は固まっていた。後は迦楼羅だけ、と二人は迦楼羅を見る。

 申告な顔をしている迦楼羅。それだけ迦楼羅にとって乾闥婆との子供は大切という事。


「………逃げよう」


 その言葉に金色孔雀と乾闥婆は言葉を失った。

VCSOから抜けるという事は即ち死を意味する。


「今話してるのは産むか産まないかの話だよ!?」


 金色孔雀が呆れ半分、怒り半分で声を荒げた。


「子供は産む、でもホーリナーにはさせない」


 迦楼羅からは確固たる意志が伺える。しかし、VCSOを敵に回したら確実に殺される。特に今の日本支部、VCSOの態勢は奴隷に近い。


「本気で言ってるの?」


「当たり前じゃないか」


 金色孔雀は呆れたように笑った。猪突猛進の迦楼羅に何を言っても分からないからだ。


「じゃあ、10年くらい時間を頂戴。僕が支部長になったら、3人を歓迎するよ」


「お前に支部長は無理だ」


「うん、無理無理」


 二人は口では否定しているものの、その僅かな希望を信じていた。今の日本支部を変えられるのは自分達ではない、金色孔雀しかいないと思っていたからだ。


「じゃあ決行は深夜で良い」


「夜逃げだな」


「僕は内側からどうにかするよ」


「OK、それじゃあ━━━」


「「「10年後に」」」










 やっと阿修羅の母である阿修羅(あすら)や乾闥婆を出せました。激闘編で言っていた先代の迦楼羅、と呼ばれていた時代まで戻ります。

 設定では迦楼羅はむっつりスケベタイプなんですが、実にいじりづらいキャラの一人です。ってか金色孔雀も迦楼羅も無個性の中に色々隠しているタイプなので個人的なキャラに比べて難しいんです。

 若者3人衆のニヨルド、モリガン、ズルワーンくらい個性的なら見せ場も増えたんでしょうが……

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