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15:精霊



Japan Tokyo



 ニヨルドはユスティティアの手を引いて街中を歩いていた。様々なカルチャーが混同する世界でも珍しい都市。初めて見るものばかりで目を輝かせる二人。

 そして、二人がカフェの片隅で休憩している時。ニヨルドは今まで聞いていなかった事を思い出した。

 ユスティティアは過去に例を見ない、ソルジャー育成所時代にホーリナーとして覚醒。あっという間に頭角を現し、16歳という異例の早さでソルジャー入り。その年に純粋な強さで神選10階になる。

 ニヨルドは全然知らなかったのだが、ユスティティアはニヨルドの事を一方的に知っていた事になる。


「ユスティティアは何でホーリナーとして覚醒したの?」


 ユスティティアの顔が悲しみに染まる。しかし、それも一瞬でいつものユスティティアに戻ると、袖を捲って腕輪を見る。


「これは、お友達なの………」


 それを聞いてもニヨルドは顔色一つ変えない。ホーリナーの腕輪は‘特定’の条件を満たすと、自然発生的に装着されている。

 条件は人それぞれで、中にはユスティティアのような他人、つまり誰かの死が条件になっている者もいる。


「僕は、僕が海で溺れた時に助けてくれたお父さんとお母さんなんだ。ちなみにモリガンは自分で親を殺したらしいけどね」


 ニヨルドは苦笑いを浮かべる。確かに親を殺している、と聞くと超極悪人に思える。

 それにニヨルドとモリガンは何だかんだ言ってもお互いを理解している。歳が近いのもあり、ニヨルド、ズルワーン、モリガンはかなり仲が良い。

 しかし3人は全く経歴が違う。ニヨルドは悪魔としてホーリナーを殺していた。ズルワーンは支部に好かれ、その支部で最大戦力として重宝されていた。モリガンは神選10階で、タナトスと並び程の変人扱いだったが、力だけでいったら3人の中で群を抜いて強い。

 それが信頼出来る仲間。ユスティティアにとっても大切な仲間だ。ひょんなきっかけで今は摩和羅女と同じ部屋にいるが、摩和羅女は自分の過去に自信を持っているかのごとく、自分の腕輪になった母親は摩和羅女が殺したと教えてくれた。

 色々な事を思い出していると、何故か3年間引きずっていた気持ちが楽になった。


「あたしね、この世界に入る前は孤児院にいたの」


 ユスティティアは淡々と、思い出すように言葉を吐き出し始めた。


「その時一番仲良かったお友達がいたんだけど、ある日あたしがお買い物から帰って来たら、孤児院とその子が無くなってた。その仲が良かった子はね、アストライアっていうホーリナーだったの」


 ニヨルドは何となく話が読めて来た。しかも、あの悲しみの表情は自分が笑って聞いてられる程無関係ではない事も。


「アストライアちゃんは、第二次ホーリナーラグナロクでルシファーに殺されちゃった」


 ルシファー、それは帝釈天の悪魔だった時の名前。そして、第二次ホーリナーラグナロクの時ニヨルドは悪魔だった。つまり、間接的に自分も関わっている。


「凄い悲しかった。ルシファーはあたしのお姉ちゃん代わりのソルジャーまで殺したから」


 ルシファーと言っているのは帝釈天と別に考えるためであろう。今や帝釈天は背中を預ける大切な仲間の一人だから。


「せめて、アストライアちゃんの死体だけでも見たかったの。でも、ソルジャーですらないあたしが、神選10階の死体なんて見れるわけない。

 だから、夜中に忍び込んで、何とかアストライアちゃんに会えたの。でもその瞬間、アストライアちゃんの腕輪が光り出して、気付いたらあたしの腕に付いてた。

 あたしは孤児院で死んだお友達と、アストライアちゃんの意志を受け継いでここにいるの。だから、みんなを守るのはアストライアちゃんの意志でもあると思ったから、今あたしはここにいる」


 ニヨルドは優しい笑みでユスティティアを見つめる。めったに見せないその表情に、ユスティティアは心拍数が急上昇したのが理解出来た。


「じゃあ、僕が3人分まとめて守ってあげるよ」


「でも―――」


「死なないから大丈夫。何だったらユスティティアの好きな人全員でも良いよ?」


 ユスティティアの表情が歪む。確かにニヨルドは強い。間違いなく遠距離型で1対1をやらせたらニヨルドが一番強い。

 しかし、戦争において誰も死なせないというのは不可能という事はユスティティアも理解している。


「………無理だよ」


 ニヨルドの事だから本当に守ろうとするであろう。しかし、それではニヨルドの身に危険が及ぶ。それでは意味がない。


「100%なんてあり得ない。1%でも望みが残ってるなら、僕はそれに賭けてみるよ」


 ユスティティアには分かる。コレは女の子を口説くタメではなく、ニヨルドの本心だと。

 ユスティティアにはニヨルドがズルワーンの言う程悪い人間にも思えなかった。ただ自分に素直なだけ。ズルワーンから言わしたらそれが諸悪の根元らしいが、それならユスティティアは悪くはないと思った。


「ありがとう。でもあたしは何も出来ないよ?」


 ニヨルドは何かを思い付いたらしく、ズルワーンの言う‘悪い方のニヨルド’が出てきた。 


「じゃあ、この戦いでみんな生き残る事が出来たらキスね」


「え?」


「なんか俄然燃えてきた!」


 ユスティティアの意見を聞かず、半強制的にご褒美が決まった。







 阿修羅、ククルカン、、メルクリウスは阿修羅の部屋で話していた。ヘリオスとモリガンが手合わせ中で阿修羅とメルクリウスは暇を持て余し、アルテミスが寝ているためにククルカンが集まった。

 話は自然とモリガンとメルクリウスの3年間となる。あのモリガンと一緒にいて、生きて3年間過ごせたメルクリウスは勇者と言えよう。

 しかし、メルクリウス本人は全く危機感がなく、むしろこの3年間をメルクリウスなりに楽しんでいた。


「ねぇねぇ、モリガンにどれくらい殺されかけたの?」


 物騒な事を言い出すククルカン。しかし、確実に殺されそうになっているであろう。


「殺されそうなんてそんな物騒な!モリガンさんの愛のお陰でスッゴく強くなれましたよ」


 阿修羅とククルカンは言葉を失った。メルクリウスの言う愛こそモリガンの殺意。それで3年間生きていたメルクリウスはさすがと言えよう。


「それにモリガンさんと二人なら誰にも負けない自信がありますよ!私のリズムに今まで着いて来れたのはモリガンさんと阿修羅さんだけですからね」


 リズムとは一定範囲内の敵に対するテンポを一定にする神技。本来戦いのテンポというのには個体差があるが、それを無理矢理同じにすると相手は戦い辛くなる。


「確かにモリガンとメルクリウスがいてあの神技と真っ向から戦うのは無理ね」


「うちには絶対に無理!」


 阿修羅は相手のリズムを崩すような不規則な戦いをするため、力が充分に発揮出来なかった。ククルカンの戦い方は戦法、戦略など完全に無視した力でごり押しのため、仮にメルクリウスと1対1だったら間違いなく勝てないであろう。


「うちもアルテミスと二人なら絶対絶対、負けないけどね」


「そういえばあの真っ赤なトカゲはなんだったんですか?」


 アルテミスとククルカンが合流する時に乗っていたトカゲ。ダークロードと見間違えても不思議ではない。


「あれはあれは、アルテミスの神技だよ」


「その前にトカゲって何よ?」


「あんな感じのトカゲですよ」


 メルクリウスが窓の外を指差すと、真っ赤な鱗をしたトカゲがベランダから顔をだしている。

 阿修羅はその光景を見て、全身から力が抜けていくのがわかった。しかし、それはあの奇妙な光景にであり、トカゲに対してではない。


「あれがサラマンダーのサラちゃん!」


「姐さん、そのサラちゃんというのはあまり好みません」


「「喋った!?」」


 さすがにコレには驚いた阿修羅とメルクリウス。サラマンダーのそのそとベランダに少しだけ体を入れると、背中からはアルテミスが現れた。そしてサラマンダーは、一瞬眩い光を放つと人の形となった。


「只今ご紹介にあがりましたサラマンダーと申します。主共々よろしくお願いします」


 サラマンダーは赤いクシャクシャな髪の毛を後ろで纏め、真っ赤なローブを羽織った青年。


「それ、サモンでしょ?」


「正解だよ」


 阿修羅はアルテミスと同じ神技が使えるホーリナーをもう一人知っていた。


「あの月夜見も同じ神技を使えるけど、人間にはなれなかったわよ?」


「自分を含め4人は精霊故、あの様な獣と人の姿を持っています」


「なんなら呼んでやろうか?」


 その瞬間ククルカンの顔が険しくなった。誰が見ても分かるくらいに険しくなる。

 アルテミスはそれに気付いていたが、構わずに神技に入った。


「サモン・ウンディーネ・シルフ・ノーム」


 アルテミスの足元に紋様が現れ、それは3つに別れた。3つとも別々の色で、青、緑、茶の3色ある。

 そして紋様が光り出し、そのまま浮上する3人の人型の精霊が召喚された。


「いきなり何よ?大事なティータイムを邪魔して、下らない理由だったら容赦しないわよ?」


 青い髪の毛にウェーブがかかり、美しい女性は使役されているにも関わらず、かなりの上から目線でアルテミスに問う。


「大した理由じゃないよ。ただあの天竜気の巫女様がいるから挨拶したいかと思っただけさ」


 その瞬間、サラマンダーを含め4人の目の色が変わる。この中で日本人なのは阿修羅のみ、すぐに阿修羅が“紅蓮の剣”だという結論にいたる。


「あら、あんたがあの有名な天竜の“紅蓮の剣”?」


「はぁ、阿修羅って呼んで。私は天竜の血が流れてても、あの家の敵だから」


「では高貴な血を受け継ぐ阿修羅には、このウンディーネの事を名前で呼ぶことを許可しよう」


「馬鹿じゃん馬鹿じゃん、名前呼ぶのに許可が必要とかおかしいし」


 ククルカンはそっぽを向きながら、明らかにウンディーネに喧嘩を売った。そしてウンディーネもククルカンの事を真っ向から睨み、喧嘩を買った。


「だってそうでしょう?あんたのような下品な生き物に、このウンディーネの名前を呼ばれるのは腹立たしいだけですわ」


「良い歳していつまでもわがままに生きてるおばさんには、うちの事がすごく下品に見えるのかな?」


「お、おばさん!?」


「おばさんおばさん、さて人間にで言ったら何回分の人生を生きられるのかな?うちの何十倍生きてるのかな?」


 ウンディーネは悔しそうに唇を噛んだ。その剣幕を見て、泣きそうになる緑のボブヘアーの少女。

 阿修羅はバッグのポケットからあめ玉を取り出し、ボブヘアーの少女の前まで行くと、しゃがんで頭に手を置きながら手のひらにあるあめ玉を差し出した。


「いる?」


「ダメダメ、シルフはいつも泣いてばっかで、━━━ってえぇ!?」


 シルフと呼ばれた少女は、阿修羅の手からあめ玉を受け取り天使のような笑みを浮かべた。

 それに驚いたのはククルカンだけではなく、アルテミス、そして他の四精霊も驚愕の表情を浮かべている。


「アルテミス共々、よろしくね?」


「お願い?」


「アルテミスを守ってほしいのはお願いかな?」


「なら、守る」


 そしてシルフは顔を強ばらせてアルテミスを見た。アルテミスは顔をひきつらせながら、シルフに軽く挨拶した。


「素晴らしいです阿修羅様。あのシルフを懐かせるとは、感服致しました」


 サラマンダーはお辞儀しながら阿修羅に礼を言う。本当にアルテミスの執事のような男性である。


「昔から小さい子からの受けは良いからね」


「アタイからも礼を言うよ。あとそこで酔いつぶれてるのがノーム」


 阿修羅がアルテミスの指差す方を見ると、酒瓶を持ちながら寝ている小さいおじさんがいる。長い髭が暑苦しいおじさん、それがノームである。


「一応接近戦だとノームが一番強いだけど、いつも飲んだくれてるんだ。サラマンダーは大量戦術、シルフはサポート系、ウンディーネは治療専門だ」


「阿修羅なら困った時にこのウンディーネが助けてあげても良いわよ。そこのクソガキはむしろくたばりなさい」


「おばさんと違って怪我してもすぐに治るから大丈夫だよぉだ!」


 ものすごい我が強い精霊達だが、その表情からは絶対的な忠誠心が伺える(ノーム以外)。

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