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14:苦悩



Japan Tokyo



 ダグザ曰わく、木を隠すには森。沙羯羅の補足で、東京は僻地にはダークロードが少しはいるが、中心地にはほぼ皆無。故にVCSOからの手も伸びにくいとの事。

 今ダグザ達がいるのは日本の東京にあるマンション。結局全員が一ヶ所に集まるという結果になった。

 マンションの2フロアを抑えていて、2人1室の部屋が大量にある。その中には3年前に使われた、仮想空間での戦闘システムまである始末。地下駐車場には各々の乗り物も完備。

 ダグザの黒い部分は相変わらず謎が多すぎるが、突っ込んだところで返事が帰って来ないのは分かっている。




 屋上では摩和羅女を空を見上げ、物思いに耽っていた。夜の真っ暗な空でも、星が見えない程明るい地上。ずっと山での生活の摩和羅女にとっては初めての光景だが、いちいち物事に対して感動を抱く歳は過ぎた。虚しさだけを抱え、ただ夜空を見上げる。

 そこに、ゆっくりと摩和羅女を邪魔しないように入って来るズルワーン。摩和羅女は気付いていてもその視線を外そうとはしない。


「摩和羅女さん、どうしたんですか?」


 3年前までは、まだ子供だった2人。しかし今は、体も心も成長してやっと、ダグザ達と対等になれた。

 だが、当然同年代にしか話せない事もある。

本当なら摩和羅女の事も阿修羅に任せようとしたが、摩和羅女は阿修羅の前では迷惑をかけまいとしてるのが、ズルワーンには分かってしまった。


「いや、何でもない」


 今までの摩和羅女の雰囲気ではない事は一目瞭然。これが3年間、頼る人間がいなかった摩和羅女。


「じゃあ僕が当ててあげますよ。摩和羅女さんは仲間だった人達と戦えるか不安なんじゃないですか?」


「………正解だ」


 悲しそうな背中。ズルワーンは忘れていた事を思い出した。自分が何のために嫌いな戦場に身を置くかを。


「じゃあ仮に日本支部の皆さんと戦う事があるなら、僕が全員相手にしますよ」


「無理だ。日本支部のみんなは凄い強い。アタシだって勝てるかどうか分からない。いくらズルワーンでも、2人以上は辛いぞ」


「僕は大丈夫です。それに、こうやって悩んでる摩和羅女さんは見たくないですからね」


 摩和羅女が振り向くと、ズルワーンは満面の笑みをで笑っていた。そして摩和羅女も思い出す、3年前に泣いていた摩和羅女を笑顔にしたのは紛れもないズルワーンだ。

 あの時からかもしれない。ズルワーンと一緒にいる時の安心感、そして、自然と笑顔になっている自分に気付いたのは。

 ズルワーンと一緒にいた期間は短い。だが、ズルワーンは様々な感動を自分に与えてくれた。そして、ズルワーンはどんな事でも実現していた。


「一つ約束してくれるか?」


「何でも約束しますよ」


 摩和羅女の顔は不安でいっぱいになる。摩和羅女でも確実にこの戦いで誰かが死ぬのは分かっていた。もしかしたら自分、ズルワーン、阿修羅、緊那羅、沙羯羅、誰にでも死の影はある。それが何よりも怖かった。


「絶対に死ぬんじゃないぞ?お前が死んだら意味がない」


「当たり前じゃないですか」


「もう一つ」


 今度は摩和羅女の目に力が入った。


「アタシが間違いを犯したら迷わず殺してくれ」


「それは摩和羅女さんが、堪えきれずに味方を攻撃したら、って事ですか?」


 摩和羅女はゆっくりと頷く。摩和羅女のもう一つの不安は裏切りだった。


「なら僕とも約束してください。そうしたら約束します」


「良いぞ」


「この戦いが終わったら、日本を案内して下さい。摩和羅女さんが好きな所で良いんで。

 素晴らしい国なんですけど、いまいち人が多くて一人じゃ不安なので」


 ズルワーンははにかむ様な笑みを浮かべる。そして摩和羅女は悟った。この約束を守るためには、お互いが何としても生き残る必要がある。つまり、既にこの時点で摩和羅女の2つ目の約束は守れない事になる。


「分かった―――」


 摩和羅女は一度俯くと、顔を上げた時にはいつもの笑顔に戻っていた。


「怪我してようが連れて行くぞ!お前が約束したんだからな!うん」


「はい!」






 沙羯羅と阿修羅は同室になり、久しぶりの会話を楽しんでいた。

 女子校時代も阿修羅と沙羯羅は同室だった。なのでこうやって話をするのは5年ぶりになる。

 懐かしさ、まずそれが来る。あの時は箱入り娘の中でもアクティブな生活をおくっていた方だが、まさかここまで自分達がアクティブな生活をおくるとは夢にも思っていなかった。


 そして話は自然と空白の3年間の話題となる。沙羯羅は帝釈天に着いていき、中国の山での生活を3年間過ごしていたらしい。

 阿修羅はほぼ毎日あの暗い牢獄生活。たまに外に出してもらえるものの、あの3姉弟の誰かが監視に着く。最初の数ヶ月は違和感があったが、しばらくすれば諦めから慣れに変わる。お陰で嫌いな密室も何とも無くなった。


「よく死ななかったね?」


 阿修羅の性格を知っている沙羯羅からしたら、阿修羅がそんな生活を出来た事を奇跡だと思った。


「慣れよ。沙羯羅が最後に助けに行く、って言ったでしょ?あれがなきゃ気が狂ってたかもね」


「おぉ!私のお手柄か」


 沙羯羅は一人で悦に浸る。少しでも阿修羅の支えになれた事が嬉しかった。


「それで、ヘリオスが来るっていうサプライズはどうだった?」


 阿修羅は俯き顔を赤くする。沙羯羅は期待通りの反応にテンションが上がり、食い入るように阿修羅の返答を待つ。


「凄い嬉しかった。半ば諦めてたし、来たのがヘリオスだったから」


「素直でよろしぃ!」


 沙羯羅は笑顔でいきなり阿修羅の髪の毛を掻き乱し、二人は倒れ込むようにじゃれあう。

 二人共この平穏が明日にも崩れるかもしれない事が分かっていた。故に限りある時間は楽しもうと精一杯だった。


「沙羯羅は兄さんとはどうなのよ?」


「………兄さん?」


 沙羯羅の疑問符に阿修羅は思い出す、帝釈天の事を兄さんと呼ぶのは本人の前だけという事に。しかし、もう恥ずかしがる事もない。年月と共に変わっていった感情の変化がそこにはあった。


「帝釈天の事よ」


「本当に鈍感で困っちゃうよ!3年間こんなに可愛い女の子が無防備なのに触りすらしないなんて!」


 沙羯羅は怒りながらも顔はにやけている。それを見れば何となく分かった。帝釈天が鈍感だったとしても、沙羯羅の一方通行ではない事が。


「キスはまだなの?」


 その問いに沙羯羅の目が泳いだのを阿修羅は見逃さなかった。


「………キスというか、まぁ唇を、一方的に合わした事なら」


「寝てる時に無理矢理!?」


 沙羯羅は首が外れんばかりに横に振り回す。


「違うから!この話は保留ね。そんな掘り下げても面白くもなんとも―――」


 その瞬間、沙羯羅のダグザ製携帯電話が記念すべき初コールを奏でる。ディスプレイには‘ヘリオス’と映し出されている。

 沙羯羅は何故阿修羅ではなく自分に?という疑問を抱きながらボタンを押した。


『しゃ、沙羯羅!帝釈天がおかしいんスけど!帝釈天どうしちゃったんスか!?』


 一瞬にして沙羯羅の顔が険しくなり、青ざめる。阿修羅にもヘリオスの大きな声が聞こえたために、帝釈天に何かが起きている事は理解出来た。


「部屋の外にいて!すぐに行くから!」


 沙羯羅はそのまま走り出した。玄関を半ば強引に開き、靴も履かずに駆け出しで行く。

 阿修羅もただ事ではない事など分かっていたので、沙羯羅の後ろに着いて行く。

 帝釈天とヘリオスの部屋は1フロア下。沙羯羅は階段を全て飛び降り、ヘリオスが扉を開きながら手招きしているが、邪魔と言わんばかりにヘリオスを突き飛ばして部屋に入った。

 ヘリオスは後ろ手を着き、驚きながら沙羯羅を見ていると、阿修羅が横に並んで来た。

 沙羯羅は冷蔵庫からペットボトルの水を取り出し、バッグの中から小瓶を取り出す。その時阿修羅は初めて気付いた。帝釈天が凄まじい形相でうめき声を上げている事に。

 沙羯羅は小瓶の中にある薬を帝釈天の口に押し込むと、無理矢理口に水を流し込む。しかし、帝釈天はすぐに吐き出してしまう。

 沙羯羅は慣れた手つきで、口に薬と水をあっという間に含むと、馬乗りになって帝釈天の顔を両手で抑えて唇を合わした。

 阿修羅はその時気付いた。沙羯羅が言っていた唇を合わせる行為とはこの事だと。その間も沙羯羅は帝釈天を抱き締めるように押さえ込む。沙羯羅の反応の早さ、対応の手際、そしてこの落ち着きを見れば一度や二度じゃない事など容易に想像出来る。


 二人は廊下で沙羯羅の事を待っていた。お互い言葉が出ない。部屋割りを決める時、帝釈天は沙羯羅に阿修羅と一緒になる事を勧められたが、沙羯羅は頑なに拒み続けた。最終的には、少しの間だけ、と言い受け入れたが、理由はこれだったらしい。


「沙羯羅は3年間あの帝釈天を支えてたんスね」


「あんなの、普通は出来ないわよ。沙羯羅の体に傷があったの気付いた?」


「もしかして、修行じゃないんスか?」


 阿修羅は悲しそうに頷く。阿修羅も何も知らなければ鍛えるため、と思えた。


「多分、兄さんが苦しみのあまりに………」


 阿修羅はそこから先の言葉が出なかった。ヘリオスも黙ってしまう。

 再び沈黙。当然と言えば当然だが、こんな事実を受け入れるのは容易ではない。それに沙羯羅はたった一人で堪えてきた。


「帝釈天、死んじゃうんスか?」


「あれくらいじゃ死なないよ」


 阿修羅とヘリオスが玄関を見ると笑顔の沙羯羅がいる。沙羯羅は廊下に出ると、背中で押すように玄関を閉めた。


「もう落ち着いて寝たから大丈夫。変なもの見せちゃってゴメンね」


「何で謝るんスか?何で笑ってられるんスか?」


「慣れだよ、慣れ。3年前からずっとだからね」


 沙羯羅は表情豊かに困った笑みを作るが、そのたびに辛そうに笑う。


「あれは、何だったの?」


「“白銀の盾”、それが帝釈天の天竜の力の名前。だけどあの力はストッパーを無理矢理外して引き出す力らしいから、体が堪えきれてないんだって。

 元々危ないからストッパー掛かってるのに、無理矢理外しちゃうから自業自得なんだけどね。 ヘリオスはあんなのと一緒じゃ嫌でしょ?阿修羅と一緒になれるんだから変わってね」


「でも―――」


「コレは私の役目だと思ってるから」


 ヘリオスの言葉を遮って沙羯羅の顔が険しくなる。それは覚悟とも、絶望とも思える。


「あれは不定期に来るんだ。1ヵ月何もない時もあれば、1日に何回も来る時もある。あの力を使ってる時だけは何故か大丈夫だけど、使えば使う程あれの回数が増える。

 だから私が治るまでずっと一緒にいるって決めた。コレは帝釈天に対する同情でも、無意味な使命感でもない。ただ私がそうしたいからそうしてるんだ。

 ヘリオスも阿修羅も気にしなくて大丈夫だよ!この傷よりも、あんなに苦しむ帝釈天を放っておく方が辛いから」


 沙羯羅は笑いながら玄関のノブに手をかけた。少しだけ開き、二人に顔を向ける。


「ヘリオスの荷物は明日持ってくから」


 沙羯羅はそのまま入って行った。阿修羅とヘリオスはその場に立ち尽くし、沙羯羅と帝釈天がいる部屋を見ている事しか出来なかった。

 投稿が空いてしまい申し訳ありません。

 この後の流れなどを練っていたらいつの間にかこんなに空いてしまいました。

 またサイトが変わってビックリしてしまいました。我々作者のページも変わっていたので更にビックリです。

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