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13:集合



Japan VCSO Japan branch office



 ダグザは妖しい笑みで摩醯首羅(まけいしゅら)を見る。これで詰み。先ほど阿修羅の奪還に成功したとの連絡が入った。神選10階も既に敵ではない。そして、情報をリークしている存在をここで‘消去’する。

 これで自分達がVCSOを敵に回せるだけの材料が揃った。3年前のように手も足も出ずに終わる事はない。

 ダグザは腕輪に触れながら摩醯首羅に近付く。久延毘古が生んだ誤算から、確実に神選10階は劣勢に立たされた。


「殺しはしない。ただ、こちら側の世界から消えてもらう」


「甘い。それではいつか仲間を失うぞ」


「仲間を売る人間がいなければ、誤算は生まれない」


 既に摩醯首羅から逃走の意欲が失われているのは分かっていた。しかし、ここで甘さを見せれば、確実にチャンスを逃す。

 ダグザはサラスヴァティーを振り上げた。


「クゥン!」


 その瞬間、サラスヴァティーに銀色の狼が噛み付く。任務から帰って来た摩侯羅迦(まごらか)だと気付くのは早かった。その時、ダグザの唯一の誤算が、たった一瞬だが摩醯首羅から意識を離した事。


「バイブレーション!」


 摩醯首羅は得物である十字槍、胤瞬を地面に突き刺すと、地震のように地面が揺れだし、地面がひっくり返るように跳ね上がった。


「…………クソ」


 ダグザが悪態をついた時には既に遅かった。全員が自分を守るので精一杯の状態で、摩醯首羅に気を配れなかった。

 揺れは日本支部をも崩す勢い。そして、埃が舞い上がり、全員の視界を遮った。


「日本支部が崩壊してる!気をつけろ!」


 ダグザは崩壊する日本支部の瓦礫に注意を払いながら、摩醯首羅の気配を探すが案の定見付からない。

 揺れが収まると、ククルカンが風で埃を雲散させる。そこは地面がひっくり返り、日本支部が倒壊した惨状。そこには摩醯首羅どころか、摩侯羅迦の姿すらない。


「俺とした事が、まさか仲間がいたとはな」


「ちょっと!これどういう事よ!?」


 阿修羅は顔を青白くしながらダグザに近寄った。


「久しぶりだな、阿修羅」


「なに呑気な事言ってるのよ!なんで摩醯首羅が日本支部を壊してるの!?」


 ダグザは体に付いた埃を払いながら、辺りを見回して現状を把握する。全員呑気なものだ、と内心笑う。それは日本支部の倒壊よりも、阿修羅が帰って来た事に意識を奪われているからだ。



 ダグザは自分の中で今回の顛末を纏めると、3年前の事から今起きた事までの全てをここにいる者達全員に話した。

 それは阿修羅にとって驚きの連続。まさかここにいる全員が、自分のためにそこまでしているとは思わなかったからだ。

 そして、話の間にあったミルだったユスティティアを見る。ユスティティアは堪えきれず、阿修羅に向かって走っていた。


「お姉様!」

「阿修羅ぁ!」


 ユスティティアのみならず、摩和羅女も阿修羅に抱き付いていた。今までは見下ろす存在だった二人も、摩和羅女に至っては確実に自分よりも‘大きい’。それに若干唇を噛み締め、ユスティティアの変わらない幼さに安堵する。


「で、そこの大きいのは誰?」


 阿修羅はニヨルドに向かって指を指す。阿修羅の知っているニヨルドは今のモリガンと同じく小さい。ズルワーンは順当な成長なので違和感を感じないが、阿修羅の記憶の中では190近い逸材はいない。


「酷いなぁ!僕だよ!ニヨルドだよ!」


「はぁ、嘘は休み休み言ってよ。摩醯首羅の事すら受け入れたくないんだから。

 私の知ってるニヨルドはモリガンと同じくらい小さいのよ?」


「僕は小さくない!ただニヨルドが無駄に不必要に無意味にデカいだけだ!」


 ニヨルドの主張を全否定。そして、さりげなくモリガンが未だに小さい事に対する嘲笑も入っている。モリガンは殺気を放ちながら阿修羅を睨む。


「阿修羅さん、確かにそこのウドの大木はニヨルドさんですよ」


「まぁズルワーンが言うなら仕方ないわね」


 ニヨルドはズルワーンの主張の方が認められた事に肩を落とし、さりげなくズルワーンが言った言葉に心を抉られる。


「ニヨルド!阿修羅に手を出したらアタシが許さないからな!」


「あたしの純心だけじゃなくて、お姉様を汚さないでほしいの」


 摩和羅女とユスティティアの言葉に阿修羅の眉が動く。そう、確実にユスティティアの言葉には語弊がある。


「ニヨルド、貴方ユスティティアに何したの?」


 ニヨルドは思い知る。コレが戦闘神の阿修羅の怒りなのか、と。いくつもの修羅場をくぐり抜けたニヨルドですら、一瞬で死を感じるその殺気。


「阿修羅誤解だよ!ユスティティアにはまだ何もしてないから!」


「まだ?」


 阿修羅はいつの間にか夜叉丸を顕現していた。そして、髪の毛と瞳が赤く染まり、瞳孔が縦に割れる。これが“紅蓮の剣”の力。

 この中にはこの力を始めて見る者もいる。まさかただの誤解で見れるとは思っていなかった。


「鬼がいるぅ!」


 凄まじい速さで逃げ出すニヨルド。


「ユスティティアと摩和羅女に手を出したら殺すわよ!」


 コレが鬼神と呼ばれた阿修羅の怒り。




 数十分して血まみれになったニヨルドと、肩で息をしている阿修羅が帰って来て、ダグザはやっと本題に入れると、真剣な顔付きで全員を見た。


「尊い犠牲を払ったところでコレからの事を話そう」


 ニヨルドもまだ生きているらしく、何だかんだでユスティティアに治療を受けながら真剣な顔付きになる。


「確実にコレから戦争になる。それについてだが―――」


「ちょっと待って」


 滅多な事では口を挟まない沙羯羅がダグザの言葉を遮った。


「さっきからあの双子が見当たらないよ?」


 全員は驚きここにいる面々を確認するが、確かに日本支部の反乱に直接関わった人間とユスティティアしかいない。つまり、無関係な日本支部のホーリナーはいない事になる。


「金色孔雀、どういう事だ?」


 ダグザは金色孔雀を睨んだ。金色孔雀にいつものふざけた笑みはなく、日本の人間ですら初めて見るような真剣な顔付き。


「悪い、コレは僕の支部長としての失態だね」


「起きてしまった事は仕方ない、話を進めよう」


 全員が頭を切り替えてダグザの言葉に耳を傾ける。


「恐らく、コレから俺達が今まで体験したことのないような戦争が始まる。確実に、この中からも死人が出る。

 そして、VCSOがバカでなければ人海戦術で来るだろう。しかし、そこは漆黒の邪神のお陰で脅威ではない」


 ヘリオスは胸を張るように笑う。全員認めたくはないが、確実ヘリオスがやった事は大きい。


「問題はユスティティア、そして日本支部の人間だ。確実にユスティティアは仲間だったホーリナーを殺さなくてはいけない状態になるだろう。それに堪えられない奴は逃げてもらって構わない。邪魔なだけだ」


 ダグザはニヨルドの治療が終わったユスティティアを見た。


「あたしは大丈夫。それに、今の居場所はここなの。だからもう迷わない」


 ダグザは薄く笑うと、全員へ目を向ける。


「全員コレを渡す」


 瓦礫を掻き分けて金色孔雀が持って来たのは、あれだけの倒壊があったにも関わらず壊れていない重厚な箱。ダグザがそれを開くと、中からは携帯電話が現れた。


「コレ以外の通信機器の使用は認めない。ちなみにこれは他の携帯電話やその他媒体には通信出来ない。そもそも使っている電波や衛星が違うからな。

 これを使っていればハッキングはまずされないだろう。悪いがGPSで全員の居場所が分かる。疑っているわけじゃなく、各々の安全確保のためだ」


 誰も衛星がナンたら、という所にはつっこもうとしない。コレがあればある程度の自由、そして救援が望めるからそれだけで充分だと判断したからだ。


「そして、今まで使っていた通信機器はこの場で廃棄しろ」


 全員ポケットから通信機器を取り出し破壊する。しかし、ニヨルドだけは泣きそうになりながら携帯電話を見詰める。それに気付いたのはダグザとズルワーン。


「ズルワーン、そこのでくの坊はどうした?」


「集めた女の子の連絡先がなくなるのが嫌なんじゃないですか?なんなら僕が壊しますよ」


「それはダメ!せっかく集めたのに!コレだけはダメ!」


 ニヨルドが駄々っ子のように携帯を抱き締めながら叫ぶ。そう、ニヨルドにとってこれは2年間かけて集めた大切なもの。

 それを知ってか知らずか、ダグザは策士の笑みを浮かべてニヨルドに近寄る。


「しょうがない、ニヨルドの通信機器は勘弁してやる」


「本当に!?」


「あぁ、だが―――」


 ニヨルドのガードが甘くなったその瞬間、ダグザがニヨルドから携帯電話を取り上げた。すがるように取り返そうとするニヨルドを、ズルワーンは抑え込む。


「俺が使わしてもらう」


「ダメぇ!支部の女の子ほぼ全員が入ってるのぉ!」


「貴様にしてはでかした。俺が大事に使わしてもらうから安心しろ」


 確実に諜報に使われるであろう。ダグザの笑みがそれを物語っている。

 阿修羅は未だに抱き付いているユスティティアと摩和羅女に顔を向けた。


「ニヨルドはこの3年間に何があったの?」


「きっと変なものでも食べたんだな!うん!」


「思春期を悪い方へ進んじゃったの」


「そういえば悪魔の時はリバイアサンだっけ?なら納得ね」


 リバイアサンは七つの大罪の中では色欲を表す。言わば元々変態の素質があったという事。

 確かに阿修羅から見ても良い男になったが、馬鹿とハサミは使いよう。女性ならばあの顔だけで尻尾を振って着いて行くだろう。


「さて、これからの事だが、とりあえずは解散だ。だが、もちろん単独行動は禁じる。最低でも2人1組で動け。

 そこまでバラバラになられても困るから、日本にマンションを用意しておいた。そこを拠点とするからあまり離れ過ぎるな」


 各々返事をしてダグザの用意した通信機器を受け取る。

 ダグザはこの時既に気付いていた。戦争はこれから始まるのではなく、既に始まっている。この事に勘の鋭い者は既に気付いているが、ダグザの中で一歩踏み出せないというのがあった。

 これで一区切りです!第一章というほど大袈裟なものではありませんが、ココからまた物語が新たな方向へと動き出していきます。

 2作目の悪魔編で出て来た懐かしのあんなキャラやこんなキャラの謎なんかも解けちゃいます。


 それでは第二部とでも言いましょうか?楽しみにしていて下さい。

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