11:再開
Japan Tenryu's home
ヘリオスの任務は混乱に乗じて中央にある屋敷、その地下にいる阿修羅を助け出す事。祝融とダグザは何故かいなくなってしまった。一人で頼む、との言葉のみを残して。
しかし、敵の巣窟に一人で忍び込むなど本来なら自殺行為。いくらヘリオスと言えど、命の危険がないわけではない。
今手元にあるのは地図のみ。何度も頭の中でシミュレーションする。阿修羅までの最短ルート、そして脱出してからのルート。
森の中からでも分かる凄まじい怒号、断末魔、悲鳴。様々な音がヘリオスの鼓膜を叩くのと同時に、ヘリオスの体は動き出していた。
技名破棄のベロシティで、神選10階ですら確認しきれないスピードで戦場を真っ直ぐ駆け抜けた。
ビックリする程何事もなく、今ヘリオスは天竜家の目の前にいた。
腕輪に触れて臨戦態勢に入るヘリオス。右手には純白の直剣、エクスカリバー。左手には赤黒い片手剣、レーヴァテイン。
ヘリオスは息を整え、構えたまま扉を蹴り破った。しかし、中には人の気配が全くない。本来ならここで罠か何かと勘違いするものだが……
「俺ってめっちゃラッキースね!これならすぐに帰れそうッスよ」
本当に誰もいない屋内。ヘリオスは悠々と地図を見ながら歩き、一つの障子の前で止まった。ヘリオスは前後左右を確認すると、ゆっくりと障子を開けた。
「真ん中から東に2枚目の畳ッスね」
ヘリオスは地図から部屋に視線を移すと、あまりの光景にその場にへたり込んでしまった。
そこにはおよそ200畳の大広間。畳、畳、一面井草の香りが覆う畳の世界。
「ま、真ん中ってどこッスか?」
久しぶりに絶望というものに支配されるヘリオス。ウロウロしてみるが、全くどうしたら良いのか分からなかった。
「あんまり派手な事言われたけど、これはしょうがないッスよね」
ヘリオスは真ん中あたりまで歩くと、体の力を抜いて目を瞑った。
「インフェルノ」
ヘリオスの炎は一気に畳を焼き去り、灰の山を築き上げる。全て焼ききる前に、神技を解除すると、案の定一カ所だけ穴が空いていた。
「大正解ッスね」
ヘリオスはハシャぎながら穴を覗き込んだ。そこは階段になっていて、明らかに地下がある雰囲気だ。
ヘリオスは迷わず階段を下り始める。
「インフェルノ」
純白の炎が辺りを照らし、地下の無骨な壁が露わになる。明らかに手で掘ったとしか思えない。しかし、何故か埃臭さやカビ臭さ、地下特有の湿気も全くない。暗くて無骨以外は特異な所はない。
階段を下り終わると、目の前に儚いろうそくの炎と思える揺らめきがあった。薄暗く照らしているだけで、まるで照明としては役立たずのろうそく。それが牢の奥で着物を着た女性をほの暗く照らしていた。
「はぁ、何か今日上がうるさくない?」
ヘリオスは涙を流し、その場にエクスカリバーとレーヴァテインを落とした。
「……あ、……しゅら」
女性はヘリオスを見るが、女性の方からでは暗くてよく分からない。分かるのは無駄に明るい金色の髪の毛だけ。
「誰?」
ヘリオスは慌てて自分が得物を手放し、真っ暗になっていた事に気付いた。
手のひらを上に向けると、牢と同じような儚い炎が灯る。それにより女性はやっと目の前にいるのが誰だか判断出来た。
「…………ヘリオス」
「阿修羅!」
牢の中にいる女性は今回の目的である阿修羅。ヘリオスは走って牢に近付くと、格子の間から手を伸ばし、手枷を付けられている阿修羅の手を握った。
「阿修羅、久しぶりッスね」
「遅いわよ。………もう来ないかと思った」
「ごめん。今これ外してあげるッスよ」
ヘリオスは涙を流しながら、阿修羅の手枷を燃やした。普通なら阿修羅の腕も燃え落ちているはずだが、太陽神に近い阿修羅にヘリオスの炎は通じない。
阿修羅は手が自由になると、肩を回しながら体を動かした。その間にヘリオスは背負っていたリュックを牢の中に入れる。
「これは沙羯羅からッスよ」
阿修羅はリュックの中を見ると笑う。リュックの中身は今の阿修羅の格好を分かっていたかのごとく、比較的動きやすいであろう服。
「ヘリオス、着替えるから向こう向いてて」
ヘリオスは阿修羅に背を向けた。それと同時に、布が擦れる音が狭い地下に広がる。
「今VCSOはどうなってるの?」
「神選10階は総入れ替え、あの事件は俺らが悪者で“日本支部の反乱”って言われてるんスよ。
あと、“漆黒の邪神”っていう正義のヒーローが悪い奴らをボコボコにしてるんスよ。そいつはめっちゃ強くて、今の神選10階が2人がかりでも倒せなかったんスから。で、その漆黒の邪神の正体は―――」
「はぁ、ヘリオスでしょ?相変わらず分かり易いわね」
―――ガン!ガン!ガン!
凄まじい金属音と共に、何かが落ちる音が鳴り響く。ヘリオスは慌てて後ろを振り向くと、格子が切り刻まれ、得物である身の丈程の刀、夜叉丸を持っている阿修羅がいる。
沙羯羅が持たせた服は胸元が空いたTシャツにアーミーのロングコート。スキニーデニムにブーツだ。
阿修羅は得物を消すと、そのまま飛び付くようにヘリオスに抱き付いた。3年ぶり、ヘリオスにとっても阿修羅にとっても長い3年間だった。
「待たせて悪かったッスね」
「長すぎよ。3年も待ったのに気の利いたセリフの一つもないし」
「ならこんなのはどうッスか?
もう離さないッスからね。誰の手にも阿修羅は渡さないッスよ」
「……………馬鹿」
阿修羅は顔を赤くし、ヘリオスから離れると出口に向かい歩き始めた。ヘリオスも阿修羅の横に行き、お互いに笑顔を交える。
2人が外に出ると戦いは終わっていた。しかし、何故か安心出来ない。まるで、すでに自分達は術中にはまっているかのごとく。
しかし、二人は歓喜していた。今から始まるやもしれない戦い。それが二人にとってはお互いを確認する作業であり、ホーリナーにとって戦場とは居場所だからだ。
「ヘリオス、貴方派手なの好きよね?」
「カッコイイじゃないッスか」
「なら、派手な狼煙上げようよ」
「OKッスよ!」
二人は腕輪に手を触れた。阿修羅の得物は身の丈程の刀、名は夜叉丸。ヘリオスの得物は右手は直剣、名はエクスカリバー。左手は片手剣、名はレーヴァテイン。
「俺、めっちゃ強くなったんスよ。阿修羅の敵を残せなかったらごめんスよ」
「大丈夫、私だって無駄な3年間は過ごしてない。色んな事を試したいから先を越されないように頑張るわよ」
阿修羅は着物の帯紐で後ろ髪をまとめ上げた。その仕草にヘリオスは心臓が動くのを感じた。
たった3年で大人っぽくなった2人。それは内から変わった証であり、何かを背負う覚悟が出来たから。
「インフェルノ」
エクスカリバーは純白の炎を、レーヴァテインは漆黒の炎を纏う。ヘリオスの得物が増えた事など阿修羅は聞かない。何故なら、その美しい炎とまがまがしい炎を見れば分かるから。
「アブソルペーション」
大気の霊体を吸収し、一瞬で真っ黒に染まる夜叉丸。3年前までは時間をかけて、やっと牽制程度の霊体が溜まる程だった。しかし、今はたった一瞬で限界まで溜めている。
「じゃあ、行くッスよ!」
純白の炎が一瞬で家を炎で包んだ。その中にいるにも関わらず、ヘリオスと阿修羅は熱さを感じさせずに歩を進める。
長らくお待たせいたしました!
学生にとって師走もとい子走は年に2回も訪れるものなので、少し本業重視で小説の方は疎かになってしまいました。申し訳ありません。
いざ確認してみたら大変な所で止まってましたね(汗
次回は阿修羅とヘリオスの戦闘シーンです!今回は前回の戦闘重視と違い、物語重視なので戦闘は物足りないかもしれませんが、楽しみにしていて下さい!