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10:疑惑



Japan VCSO Japan branch office



 日本支部の前に座っている迦楼羅と摩醯首羅。金色孔雀は司令役、毘楼博叉と毘楼勒叉の双子は見回りに出払っている。

 ダグザが万が一に備えて、と言ってこれだけの戦力を置いているが、普通に考えれば不意打ちだから万が一があってはいけないはず。この事に気付いているのは少数の人間のみ。それでもダグザなら、と猜疑心を呑み込んだ。


『あれ?誰か来たみたいだよ』


 スピーカーから聞こえる金色孔雀の声、それにより警戒態勢に入る摩醯首羅。しかし、迦楼羅は座ったまま摩醯首羅を見上げて笑う。

 日本支部の塔へと続く道から聞こえる笑い声。徐々に徐々に話し声が近付き、姿を現したのは阿修羅奪還に向かっていた面々。ダグザ、祝融、帝釈天、沙羯羅、モリガン、メルクリウス、ククルカン、アルテミス、ズルワーン、摩和羅女。


「なぜお前らが?」


 最初に口を開いたのは摩醯首羅。今回の任務は阿修羅奪還であり、日本支部の護衛ではない。


「もう阿修羅奪還は終わる頃だろう。それよりも摩醯首羅、貴様に話が聞きたい」


「なんの事だ?」










 2時間前。ダグザ達は天竜を少数に任せ、阿修羅奪還に向かうはずだった大半の人間を引き連れていた。

 日本支部がある山の麓。あと1時間もあれば日本支部に着くというその場所に、どれだけ良く見ても物騒な集団がいた。

 彼らはダグザ達を見ると、一斉に構えた。


「こんな所にピクニックかい?随分と物騒なピクニックなんだね」


 モリガンは殺気を放ちながら、そこにいる全員を睨んだ。想定外の事に焦るあまり、指揮官の指示を聞かずに走り出した数十人。

 モリガンはため息を吐きながら得物を顕現した。得物は2m程の鉄球、名はシヴァ。モリガンはシヴァを上空に投げ捨てた。


「フリーズ」


 モリガンが息を吐くと、暖かな陽気だった麓は一気に氷点下へと下がる。全員が身震いをしていると、吹雪のような風に当てられた数十人は凍り付いた。まるで氷の彫刻のように生気を無くした者達。

 忘れた頃にシヴァが地に落ちると、振動で全て砕け散った。血までもが凍り、大気に舞う血の氷塵。それは真っ赤なダイヤモンドダストだ。


「あらぁ、凄い綺麗じゃない。私はこういうの好きよ」


 最初に言葉を発したのはお姉口調のホーリナー、オルクス。


「何故貴様らがここにいる―――」


 と言いつつもダグザは薄く笑っている。まるで全てが上手く行き過ぎ、恐れているかのように。


「とは聞かない。最初から俺達の情報をリークしてる奴がいるのは知っていた。

 久延毘古、貴様、まだまだだな」


 ダグザは相手を挑発し、嘲笑う。そう、ダグザはリークされているのを理解した上で、神選10階を引きずり出した。

 そしてダグザは確信した。例え今どの様なイレギュラーが起ころうとも、戦況は変わらない。消化試合と化した今、イレギュラーなど取るに足らない道端の石ころと同じ。


「くくく、君達は大きな誤算をしてるみたいだな!?この僕が踊らされてる?笑わせないでほしいものだよ。

 今僕達、神選10階がここにいるのは日本支部の陥落が目的じゃない。君達の戦力を削るのが目的さ。

 そしてダグザ、僕達を甘く見てるんじゃないのかい?旧式のホーリナーに負ける程落ちぶれちゃいない。コレが新型のホーリナーの力だ」


 その瞬間銃声のような爆発音が聴こえた。しかし、刹那の後、金属音が響き渡り久延毘古の足元に弾丸がめり込む。


「オメテクトリ、奴の得物は猟銃。そして神技は彼が知っている弾の装鎮。

 しかし、摩和羅女の針は弾丸をも凌駕する」


 摩和羅女は胸を張っている。そう、ダグザにとってはイレギュラーに入らない。


「本当に笑えるよ。真っ正面から殺り合えば問題なかったのに。その程度、負ける気がしないね!」


 久延毘古の狂気により、神選10階の面々が散り散りになる。それを追うように、ダグザ達の周りにいた面々も散り散りになった。

 その場に残ったのは久延毘古とダグザ、そして祝融のみ。


「さぁ、始めようじゃないか」


 3人は誰からともなく腕輪に触れた。ダグザの得物は両手のトンファー、名はサラスヴァティー。祝融の得物は三節棍、名は承影。そして、久延毘古の得物は細い糸、名は蜘線。


「君達みたいな体術系には負けた試しがないんだよ。既にここら一帯は僕の糸が張り巡らされてるんだからね」


「祝融、やれ」


「インフェルノ」


 赤く光るように炎を纏う承影。祝融が承影を振ると、いつの間にか張り巡らされていた蜘線が燃える。


「くっくっく、僕を甘く見すぎだ」


 蜘線は導火線のように凄まじい勢いで炎が伝い、炎はダグザと祝融に向かう。


「厄介だな」


 ダグザは薄く笑い祝融を見ると、祝融は自分の炎であった炎を消した。


「くっくっく、やっぱり甘いね」


 蜘線の炎は消えず、むしろ勢いを増して足に絡まっていた蜘線まで燃え移り、そのまま凄まじい爆発が起きた。

 爆発は一瞬で二人を飲み込み、爆竹のようにリズムを重ねる。


「僕達をなめすぎだ!だから死ぬことになるんだよ!」


 久延毘古の叫び声には狂気が混ざっている。そう、確実にダグザ達が神選10階を見誤っていたのは事実。仮にも表では最強クラスの集まり。そう、仮にも、


「最近パソコンの前に向かいっぱなしだったところだ。良いマッサージになった」


「猫騙しだと思ってタラ、コレが起死回生の一発とは驚きネ」


 硝煙が晴れると、そこには無傷のダグザと祝融が現れた。服は多少焦げているが、二人は無傷と言っても過言ではない。

 久延毘古の表情は驚愕に染まる。そう、本来生身の人間があれをくらえば、生きていたとしても致命傷は避けられない。

 しかし、目の前にいる二人は致命傷どころか、傷一つ負っていない。明確な力の差、埋めようのない距離、それがダグザ達と久延毘古の間には横たわっていた。


「一つ言おう。他の奴らはもっとデタラメだ。退くなら今の内にしろ、次はない」


 ダグザがそう言うと、一人、また一人と人が帰って来る。それは神選10階ではなく、ダグザ達日本支部側の人間。それが表すのは、完全なる神選10階の敗北。


「本当につまらない戦いだったよ。手応えがない、こんなの全員対僕でも勝ち目があったんじゃないのかい?」


「貴様の言った通り、殺してはいない」


 そう、ダグザの命令は“殺すな”ただ一つ。それ以上でもそれ以下でもない。つまり、中には今後戦闘どころか私生活すら送れなくなるホーリナーもいるであろう。

 しかし、そんな事は問題ではなかった。あくまでコレはダグザの“データ収集”にしか過ぎないからだ。

 久延毘古は認めざる終えないこの圧倒的な戦力の差に、顔を怒りで歪めた。


「くっくっく、本当に嫌になる!僕達はココで撤退しなきゃいけないのが本当に嫌になる!今僕がこの手でここにいる連中を皆殺しに出来たらどれだけ嬉しい事か!

 まぁ良いさ。ダグザ、君は新世代のホーリナーの力を甘く見ている。僕の研究は君ではどうにも出来ないところまで来ているのさ。僕の科学は神の力をも征する」


 久延毘古はそれだけ言うと、3年前に悪魔が使っていた空間を裂く黒い穴が現れ、その中へと入って行った。

 ダグザが後ろを向くと、全員が無傷でそこに立っている。全てがダグザの計算通りに動いている、怖いくらいにズレていなかった。


「ねぇダグザ、何で私達が今日動くってバレてたの?」


 沙羯羅の質問に全員がそういえばと思い出す。今日の事は全て昨日決まった事。つまり、情報がリークするにはあまりにも早すぎる。更に加えて言うならば、ダグザは情報をリークしている人間を知っていて、その人間にバレないように沙羯羅達をココまで連れて来た。


「3年前から情報はリークしれていた。それを知らないふりをして、今日までリークさせていた。ただそれだけだ」


「じゃあ、誰が犯人なの?」


 沙羯羅は顔を強ばらせてダグザを見た。薄々気付いている、日本支部の“誰か”という事は。しかし、仲間がこんな事とをしていたなど、信じたくないのが現実だ。


「音楽神様、とだけ言っておこう」


「まさか緊那羅なのか!?」


 摩和羅女が泣きそうな顔でダグザにしがみつく。しかし、沙羯羅と帝釈天からは焦りの色など全く見受けられない。


「沙羯羅、それはないから安心して良いよ」


 沙羯羅は摩和羅女に微笑みかけた。


「緊那羅は全くの機械音痴な上に、おおざっぱな性格だから密告者など不可能。むしろそれが演技だとしたら、相当の手慣れだ。しかし、今の緊那羅は………」


 そこで帝釈天は言葉を濁した。帝釈天にとってはずいぶん言いにくい事らしい。帝釈天を沙羯羅が押しのけ、摩和羅女の頭を撫でる。


「緊那羅はタナトス以外見えてないから。今の緊那羅はタナトスに不利になる事は絶対に出来ないよ。

 それこそもうめっちゃ乙女だもん!良い歳して男以外何も見えてないのもどうかと思うけど。あれはタナトスが死んだら死んじゃうんじゃないか?って惚れっぷりだから大丈夫だよ」


「そうだな!緊那羅はタナトスが死んだら死んでしまう!うん!」


 沙羯羅と帝釈天は必死につっこみたい衝動をこらえていた。ここでつっこんだら一から説明しなくてはいけない。それは至極面倒な事だからだ。しかも一度で終わるわけがない、何度も説明しなくてはいけない。沙羯羅と帝釈天は目を見て頷くと終わらせた。

 しかし、勇者はいた。ズルワーンが完結して悦に入っている摩和羅女の肩を叩いた。


「摩和羅女さん、違いますよ。緊那羅さんは―――」


「なんだズルワーン!緊那羅はタナトスの事が好きじゃないのか!?」


「いや、好きだとは思いますよ。ただ―――」


「なら緊那羅は“すぱい”なのか!?いくらズルワーンでもそんな事を言うのは許さないぞ!」


 ズルワーンは疲れた顔で沙羯羅と帝釈天を見た。沙羯羅は苦笑いを浮かべ手を振り、帝釈天は険しい顔をして目を逸らした。

 ダグザは呆れて歩き出してしまう。それに従うようにぞろぞろと歩き出すが、摩和羅女はそれに気付かずズルワーンと問答をしている。ズルワーンは半泣きになりながらダグザ達を見た。皆、見てみぬふりをしている。

 そしてズルワーンは心の奥底で思った、自分の優しさはココでは無用、と。

 七夕も終わってしまいましたね?皆さんは短冊に何か書きましたか?暁は書いていません。

 今短冊に何か書けと言われたら皆さんの声が聞きたいと書くでしょうね。

 純粋に皆さんがどういう風に感じてるのか気になります。

 拙い文章ですが、皆さんが足を止めて読んでいただいている以上全力でやらしてもらってます。


 わがままは言わないので、強いて言うなら最後までお付き合い下さい。

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