”そんな事”の理由は、こちらにないですね
年を越えたばかりというのに、大凶みたいな予感。
「ですから、このお荷物はこう出されていたため、配達をしたわけです」
『なんで”そんな事”になっているのよ!?どーいう仕事してんの!?自覚あんの!?』
「”そんな事”になっている理由ですか、なんでですかね?こちらじゃ分かりません」
回答の仕方が悪い。そう思われても仕方ないのだが、それ以外にどのような回答があるのか。
正直、教えて欲しいと思う。
さっきから無限ループに嵌って出られない。
「そーいう事情だったんですね。分かりました、では。そのように配達を」
よし、終わるな。って思った時、
『なんであんたみたいな奴が決めてんのよ!?』
「は?」
『”そんな事”になった理由を答えなさいよ!!責任とってよ!』
「……すんません(?)。理由は分かりましたんで、配達かけますので」
『警察呼ぶわよ!!あんた達、私の荷物を盗んでやったんでしょ!』
めちゃくちゃなフリで無限ループからの脱出を逃さない。新人、森橋くんはこのクレームに苦労をしていた。かれこれ、1時間以上。こんなループを繰り返している。
【
どのような事情ですか?
”A”
申し訳ございません。
こちらのお荷物はこのようになっているため、このような事になっております。
そーいう事情だったんですか。分かりました。では、そのように配達いたします
え?遅れた責任をとれ?どーしてそうなったか、説明をしろ?それはその……
”A”に戻る……。
】
なんで同じ事を4回も、5回もループしているんだ。正直、受話器を離して聞いている。
解決しやすい申告だというから、挑戦したのだが。なんか思ったより深~い話らしい、申告者としては。そんな電話対応を眺めていたのはこの仕事のベテラン、木下。それと、先輩の実であった。
「なんの申告だよ?」
「荷物が違うところに配達されたって言ってるんだが、森橋くんに落ち度がないんだよね。だから、任せたんだけど」
ネタバレ回避のため、実は濁すように言ってくれた。
「ですから、この荷物がこのように到着していたため、そちらの方に配達をしたんです」
『なんでそーなってるのか、説明しろって言ってんでしょーが!!役立たず!!』
「え?まぁ、いいですけど」
『責任をとりなさい!!今すぐ配達しに来い!』
「ですから、回収しに行きますから」
よし、終わる
『説明が先だろうが!!順序も分からないの!?この馬鹿!!』
なんで終わらないんだーーーー!?さっきから説明してるじゃんか!
もう、マジ無理!そんな表情で先輩の実に助けを求める。時折、上司を出して来いとか。もう怒りMAX状態なのだ。しょうがなく、実が代わりに電話に出る。
「代わりました。配達地域、責任役の実です。この荷物なんですけれど」
轟音のような電話の声に、もうタジタジの森橋くん。
木下はベテランらしく森橋をフォローしてあげる。
「よく頑張ったぜ。間違ってねぇよ、お前はよ」
「は、はい……」
正直、自信をなくすのだが。それより、説明を理解してくれない相手に苦悩する。
なぜならその荷物は……
「出してる本人が、”お届け先”と”依頼主”の書く欄を逆にして記入してるのに……。なんで俺の間違いに?」
「……客はそーいうもんだ。自分はそれでも間違えてないと思ってんだよ」
「でも、手元に荷物あって。自分で記入しといて、それないでしょ……もう一回、出してくださいって。百歩譲って、回収して出してあげてもいいのに」
「まぁまぁ。よく頑張った」
ガチャッ
「まぁ、なんとか終わったよ。災難だね、森橋くん」
森橋くんは4,5回は同じ事を言っているのだが、上司という立場のおかげで客も納得した模様。もう一度、その荷物を間違いないよう出すという。