赤い羽根と愛の愛
エルフ教室豆知識
ヴァンパイアの惑星は主に男性優位社会であることが多い
ヴァンパイアの貴族は許嫁制度が主流であり、爵位の段階は絶対である
ヴァンパイアにおいて、子作りは跡取りを作るための行為という認識が多く、愛情表現は口付けの方が高位であるとされる、実際、許嫁で結婚したもの同士は一度も口づけを交わしたことがないと言うのはよくあること。
「起きなさい、鈴」
ゆさゆさと、肩を揺さぶられ、鈴は目覚めた。
「朝ごはんの支度ができましたわ」
「わかった、起こしに来てくれてありがとう、愛」
愛の家族と朝食を済ませ、愛は晩ご飯後に仕事をしてもらうと告げ、用事があるらしく朝食後すぐに家を出た。
夜まで何もすることがなくなった私は、この世界のことを知るために、愛の屋敷の中にある図書室のような本や資料がたくさんある部屋に、メイドさんに案内してもらった。おかげで、晩ご飯までにある程度世界のことを理解した、私は俗に言う異世界に転生したのだなと確信した。とはいえ見た目も性別も変わってない。
「私が見た目も性別も変わってないんだから、凛だってきっと変わってない、はず、それより、早く凛を見つけてあげないと、どこかでひどい目にあってるかも、もしそうなら、ひどいことしたやつに、私が生まれたことを後悔させてやる」
そんな、妄想を鈴は膨らませていた
愛と愛のお父さんがが帰ってくるとすぐに晩ご飯の支度が始まり、食べ終わると愛の部屋に呼び出された。
「しつれいします」
愛の部屋を開けると、パジャマ姿の愛が出迎えてくれた。
「何かしら?この服がおかしくて?」
「いや、羽生えてるのにどうやって寝るのかなって、寝るとき絶対邪魔でしょ」
「問題ないですわ、うつ伏せで寝れば。寝返り打って朝起きたとき、羽が痛いことがあるぐらいですの。そんなことどうでも良いですわ、あなたに仕事を頼みます・・・」
急に黙り込んだ愛
「仕事って何?私ができることだと良いんだけど」
「・・・私とお話ししなさい」
「え?」
「だから、私と話すの」
「どういうこと?」
少し頰を赤らめる愛
「私はあなたの言っている凛という人について興味がありますわ、昨日砂浜で叫んでいたではありませんか。私も同性愛者ですから実際同性愛が成立した方の話を聞きたいんですわ」
「それだけでいいの?」
もっと、やばい事言われるのかと思ってた、同性愛者だって言ってたし、多種族でも歓迎って言ってたから、付き合えとか言われるのかと。
少し目をそらす愛
「私、家が貴族ですから、生まれてから、友達なんてできた事ないし、お父様やお母様とも滅多に話せませんの、話し相手ができるというのは、それだけで、嬉しいのですわ。あまり恥ずかしいことを言わせないでください」
おお、なんだろう、凛一筋だけど、愛、結構かわいいな。
「そのくらいだったら、いくらでも話し相手になるよ」
「そう、では早速聞かせてください」
それから寝るまで凛と出会った大学の話とか、同性愛について愛と語り合った。
時間になると、自分の部屋に戻って眠りについた
この世界に来て三日目、昨日と変わらず、朝食をとり、図書室へ行く。何の本にするかは決まってる。この世界は全部で15個も宇宙があるらしい、その中から凛を見つけなきゃいけない、そのためにはこの世界にある魔法というのを使わざるを得ない、特に目をつけたのは、全里眼、オールサーチ、とかっていう魔法、創造神が使ったとされている魔法で、この世界全てを見ることができ、この世界全てをサーチして探したいものを見つけれるんだとか、もちろん見つけたら凛を迎えに行かないといけない、瞬間移動、や、ワープ、という魔法もいるだろう。行きていくために食べ物も必要だし。
正直、この魔法について書かれている本を読んでも現実的とは思えない、この魔法が使えたのも今までに数人だとか。でも、問題ない、私に改革者としての能力があるなら、凛のためにいくらでも使いこなしてみせる。私が凛のためにできないことはない。早速練習だな、まずは初歩のやつからやってみよう。
ガチャ
ドアが開きメイドさんが入ってくる
「鈴様、晩ご飯の準備が整いました」
「わかりました、ありがとうございます」
本を何冊か持っていこうかなと思ったが、晩ご飯の後は愛と話さなきゃならない
「明日にすればいいか」
メイドさんを追って図書室を後にした
晩ご飯を食べ終わると昨日と同じく愛の部屋で話し込む
「なるほど、あなたの凛に対する愛情は異常だということがわかりましたわ」
話がひと段落した後、鈴はそう告げた。
「そうでしょ、私の凛に対する気持ちはそんじゃそこらの恋愛とは比べ物にならないほどおっきいんだよ」
「異常と言われて喜ぶ人を私は初めて見ましたわ」
もうすぐ寝る時間かな、そう思ったとき、聞きたかったことを鈴に聞いてみた
「朝からどこか行ってるけど何しに行ってるの?」
途端に愛の顔から笑みが消える。
「言ってませんでしたわね、私、もうすぐ結婚しますの、好きでもない相手と、そのお相手に会いに行っているのですわ」
触れない方がいいことを聞いたなと鈴は思った
「嫌なこと聞いてごめん、愛は貴族だもんね」
「でも、大丈夫ですの、もう少ししたら私帝都に住みますわ、そうなれば、結婚もしなくてよくなりますから」
「そうなんだ、帝都?って、確かこの2無の第一宇宙の最高神がいるところだっけ」
愛がキョトンとこっちを見つめる
「鈴、あなたどこでその情報を知りましたの?」
「ああ、ここ数日ね、愛がいない間暇だから、図書室で本読んでるの、この世界のこととか知っときたいしね」
「この世界のことで何か、興味を引いたものはありまして?」
なんだろう、愛の様子がおかしい、あまり刺激しないでおこう。
「いや、特にないかな、なんか歴史の勉強してるみたいで、そんなに面白いことはないよ、でも知らなきゃ凛を探しにいけないしね」
「そうですわね、でも、今週ぐらいは私の家にいるでしょう?」
「そうだね、いさせてくれると嬉しいかな、まだ右も左もわからないし」
「いくらでもいるといいですわ、出て行けなんて私は言いませんのよ、私がいない間暇ならメイドになにか余興をするように言っておきますわ」
「そんなことしなくても大丈夫だよ、そろそろ寝るね」
「ええ」
愛におやすみを言うと自分の部屋に戻った。
この世界に来て四日目、昨日と変わらない、朝ごはんを済ませ、今日は愛を玄関まで見送りした。その後図書室に向かう。
「練習すると言ってもどこでしよう、水系の魔法なら、毎日一人でお風呂に入ってるし、その時にできるか」
簡単な魔法がのってる本を探していると、目を惹くタイトルを見つけた
(忌むべき改革者)
「忌むべき?どういうことだろう」
二日前にみた古い本には改革者は生命体を作ったり、宇宙に分けたりしたと書いてあった、凛を探すことに必要なさそうな情報だったから読み飛ばしていた。
その本を手に取ると鈴は読み始めた、しばらく読んでいくとと、鈴の体に緊張が走った。
「50年前の天災級モンスターベルゼブブ以降、3無は協力関係にあって、即座にモンスターと改革者を見つけ消滅させる、また、改革者はどこに現れるかわからず、改革者を見つけた場合、首都に報告すれば、莫大な報酬がもらえる」
鈴はこの文を読み終えると目を閉じてこの4日間を思い出した。
「1日目、愛が私に創造神か?と聞いたとき、最高神には突き出さないからと言っていた、鈴は改革者を突き出せば金をもらえることを当然知っている、昨日の夜、私が図書館を使って歴史の勉強をしていると言ったとき、愛の様子は少しおかしかった、寝る前に、メイドに余興をさせると言っていた、今思えば、私を図書室から離すためなのかな?今週はこの家にいるか?とも聞いてきてた、と言うことは、もしかするとすでに私のことを帝都に話していて、今週以内には帝都の使いが来る?」
ガチャ
扉が開いた音に鈴は驚いた
「鈴様、愛様からもてなすようにと言われております、こちらにきていただけますか」
落ち着け私、今すぐ捕まると言うわけでもない。
「わかりました」
本を返すと図書室を後にした。
あの後、綺麗なヴァンパイアの踊り子たちの踊りを見た、見ながら思ったこととしては、凛は間違いなくここにいる美女たちの誰よりも可愛い。そのぐらいだった。
そんなことより、自分のことをどれぐらい知られているのかが疑問だった。
ここ数日の反応を思い返してみると、愛の妹は初日に一緒にお風呂に行こうと誘われたが、愛がそれを許さなかった。今思えば、妹に私の背中のマークを見せないため?それ以外も色々と思い返していたった結論は
「たぶん愛以外私のことは知らない」
私が引き渡せば金になると知っていたから、愛の家族は私を受け入れてくれたのかとも考えたけど、初日、愛と会って晩ご飯を食べるまで、愛とは常に行動してた。携帯やテレパシーなんてのもヴァンパイアにはないみたいだし、情報伝達は不可能。気絶している間に連絡したのかと考えたがあのとき愛は家出してる時に私を見つけたと言っていた、迎えの人もいなかったしおそらく本当、結婚のことで家出したとも言ってた。
「後何日安全なんだろう」
世界は3無が定めた時間に従って暦を作っている、この世界の一週間は7日、地球と同じだった。
「この家に来て4日、単純に考えたらあと3日、3日以内に魔法使えるようにならなきゃ死ぬかも、私」
その後はこの惑星の色々なお菓子が出てきて踊りを見ながら食べた。
「もうすぐ晩御飯なのにこんなにお菓子食べて大丈夫かな」
メイドが入ってくると、晩御飯へと案内された。
案内される途中、愛のお母さんとたまたま会った、まともに話したことはない、食事中はほとんど無言だからだ。
「あら、鈴さんこんばんわ、今まで何をしていらしたの?」
「綺麗な踊りを見せてもらっていました」
「そう、お気に召しました?」
「はい、とても綺麗でした」
「それは良かったわ、鈴さんは不思議な方ですね、他種族を嫌う種族が2無には多いのに、気に入ったと言ってくれるのですから」
ちょうどいいタイミングだ、何で私を受け入れてくれたのか聞くチャンスだ。
「一つお聞きしたいことがあるんですけど良いですか」
「ええ、どうぞ、答えられる質問だといいですけど」
「私をなんで受け入れてくれたんですか?」
「そうね・・・」
愛のお母さんは立ち止まると通りかかった部屋を指差し
「少し話しましょう、あなたには直接お礼を言いたいと思っていたの」
うなずくと、部屋に案内された。
メイドさんが飲み物の準備をしようとすると、愛のお母さんは少ししか話さないから用意はいい、と、指示し、メイドたちに部屋を出るように伝えた。お互いが椅子に腰掛けると
「まずは、鈴さん、改めてありがとう」
そう、まっすぐ私の目を見ながら話し始めた
「愛はここ最近、結婚のことでとても反対していて悩んでいるみたいだったの、結婚相手と無理やり合わせた時なんて、相手の方に手を握られた途端、淹れたての紅茶を、相手にかけましたのよ、あの時はたまたま私も同席していたのですが少し愉快でしたわ」
笑みを浮かべる愛の母に、おいおい、と鈴は心の中であきれる。
「結婚に反対するのは仕方ないことだと思いますわ、私もこの家に嫁ぐ時は反対しましたもの、今となってはそんなに後悔はしていませんけどね、フフッ」
そう言って笑う愛の母を見ながら鈴は
愛のお母さん改めて近くで見ると美しい方だな、というか、この世界女性のレベル高くない?
などと考えていた。
「愛だけじゃない、他の子も小さい頃からあまりかまってあげられませんでした、使用人任せだったせいか、愛はわがままに育ってしまいました、愛の兄はよくあそこまで育ってくれたと思っています、一度も抱いてあげたこともないんです、こんなんでは母失格ですかね」
少し寂しそうな表情を浮かべ続けた
「だからこそ愛の妹には、今度こそ愛情を注いで育てようと思ってます。・・・話が大きくそれてしまいました、なぜあなたを受け入れたか、でしたわね」
鈴は頷く
「あの子が初めて友達だと言ったからです、本当は夫は少し反対でしたのよ、でも、私が夫を黙らせました。愛は今までずっと友達がいなかった、というよりも、友達を作らなかったのです、愛は長女ですから、地位目当てで小さい頃から多くのヴァンパイアが寄ってきましたわ、愛は私に似て美人ですからね、あなたもそう思うでしょ?」
突然の問いに少し戸惑ったが、力強く頷いた。さらっと、自分のことを美人だと言ったな、とも思った
「あら、頷くということは、私のことも美人だと認めてくださるということですね、お優しいですね」
「はい、とても綺麗だと思います」
ありがとうと言いながら軽く笑ったあと、愛の母は話を続けた
「小さいながら色々考えた結果、愛は他人を拒絶したんです、きっと、家族ですら心を開こうとしません、そんな中、家出したと思ったら、あなたを連れて帰ってきた、ヴァンパイアですらないあなたを家に招くことに夫は反対でした、ですが、私が良いと言いました、晩ご飯の後、あなたが部屋に行った後に愛が私たち家族に言いました『鈴は私の初めての友達ですわ、私の許可なしに近づくことを許しません、余計な詮索もしないでほしいですわ、私があなたたちが決めたヴァンパイアと結婚してあげるのですから、このくらいのわがままは許してくださいまし』ってね、その次の日から愛は許嫁とちゃんと毎日会いに行ってくれてるみたいですし、毎晩、あなたと何を話しているかは知りませんが、この前部屋の前をたまたま通ったら、愛の笑い声が聞こえました、とても、とても久しぶりに聞きました。今となっては夫も感謝しています、愛にとっての救世主だ、と、いっていました」
ふー、と一息つくとまた私の目をまっすぐ見つめ愛の母は続けた
「ヴァンパイアでないあなたがどこからきたのか、誰なのか、私は知りませんし、愛に言われているので詮索もしません、だからどうか、どうか、愛のそばにいてあげてください、あの子のことをよろしく頼みます、改革者様」
頭を下げる愛の母、その姿を見ながら鈴は脳内が停止していた
「愛のことは、もちろん助けてもらったので、できる限りのことはしますけど、あの、えっと、最後何か言いましたか?」
愛の母は頭をあげるとにっこりと微笑み
「改革者様と言ったのです、違いましたか?違ったらごめんなさいね、もしかしたらと思ったのだけど、最近図書室に入り浸っているみたいだし、アマテラス様から聞いた話では改革者はこちらの世界のことを知らずにくると聞いていたので、もしかしたらそうかなと」
アマテラス、今日読んだ本で4無を作り出したとかいうやつか、聞いた話とはどういうことだ
「えーっと、アマテラス様とお知り合いなんですか?改革者は世界中で嫌われているのでは」
愛の母は少し私を見ると
「否定しないということは、改革者様であってるのですね、確かに改革者は世界で嫌われていますが、私は嫌っていません、アマテラス様に恩がありますから」
コンコン
扉を叩く音が聞こえた。
「まだ聞きたいことが多くありそうな顔をしていらっしゃいますね鈴さん、明日朝ごはんの後、暇なら私の部屋に来ると良いわ、今はとりあえず食事としましょう」
「そうですね」
鈴は心強い味方ができたのかな?と思いながら食卓に向かった
食事が終わると愛の部屋今日は許嫁に手を握られたらしく、反射的に顔を殴ってやったと嬉々として話していた、許嫁にそんなことして大丈夫なのか?と思ったが、結婚がなくなったらなくなったで、こっちのもんだ、と話していた。どうやら向こうの男性は愛に惚れているらしく、なかなか離してくれないらしい。
今日の踊りについてはどうだったか?ときかれ話した、どうやら今日踊っていた一番右端の髪の長い女の子がタイプらしく、凛も髪が長いなどと話したら、より一層話に花が咲いた。
夜遅くなり自分の部屋に戻る、ふかふかの布団にくるまり、今日のことを整理する、色々とありすぎた。でもそんな中一番思うのは愛が裏切っている可能性だった。
正直、話していてすごく楽しい、死ぬ前もこんなに話が合って盛り上がれる友達なんていなかった。それに、今日の愛の母の話を聞いて、はっきり言って同情した、貴族に生まれなくてよかった、などと思った。
「とりあえず後2日は大丈夫、明日は愛のお母さんを信じて話しに行こう、それが最善」
後2日後自分がどうなるんだろう。なんて、考えると少し怖くなった。
「凛、応援してね」
この日は凛のことを思い出し少し落ち着いた後眠りについた
「ううっ、うっ」
暗い部屋で愛のすすり泣く声が響く。
「なんで、なんで、あんなにいいやつなの」
今まで心を開いて話したことなんてなかった愛からしてみれば鈴は最高の友達、いや、親友だと思えた、自分の地位目当てで友達になったわけじゃないし、話したくても誰にも話せなかった話題について話せたり。鈴の凛についての思い出話は今まで孤独な時間に読んできたどんな本よりも、愛の心を動かした。
「後3日で、もう二度と会えなくなりますわ、そんなの、そんなのって・・・鈴ともっと一緒にいたいですわ、でも結婚なんて」
いつまでもすすり泣く声が壁に当たっては消えていった
朝、いつもどうり、朝ごはんを食べて、愛を見送る。
違うのは向かうのが図書室じゃないってこと、メイドに案内してもらい、愛の母の部屋についた。戸をノックするとどうぞ、と声が聞こえ、部屋の中に招かれた、昨日と同様、愛の母は人払いをすませた。人払いをするということは、愛の母以外は改革者に対してあまり良いようには思ってないんだなと思った。
「さて、何が聞きたい?なんでも聞いてください、改革者様」
「その呼び方やめてください、昨日と同じで鈴のままでいいです」
「わかりました、す、ず、さ、ま」
「も〜様もつけなくて良いですって」
「フフッ、からかってごめんなさいね」
とても愛らしい人だな、とっつきやすい、だが遊びに来たわけではない。
「まず初めに確認したいことが、愛が私のことを帝都に報告してる可能性があると思ってるんですけど、何か知ってますか?」
愛の母が不思議そうな顔をする
「それは本当ですか、そんなことはないと思っていましたが、わかりました私自身で確認しますね、明日までには報告しましょう」
意外とあっさり通った、もし、愛と愛の母がグルなら何かしらの反応を見せるかと思ったが、特に問題ないようだ。
「じゃあ、もう一つ、できることなら私に魔法の使い方を教えてもらえませんか?人探しをしていてそのためにも力をつかえるようにしておきたいのです」
「人探しですか、ちなみに誰を」
「前世の大好きだった人です」
「その方がこちらの世界に来ているという確信は?」
「ないですね、だから確認するために魔法を使いたいんですけど、でも、オールサーチとかって難しいんですよね」
確認する方法がないと自分で言いながら少ししょんぼりする。
「なるほど、オールサーチですか、全世界対象の人探しとなると流石に私では力になれそうにありませんね」
思ったより話が進むな、と鈴は思った、オールサーチなんて言ってもわからないと思ってたのに、本当にこのヴァンパイアは改革者のことをよく知ってるみたいだ。
「しかし、オールサーチとは大きく出ましたね、羽が8枚でも足りるかどうか」
「羽?」
「羽についてもご存知ないのですね、まずは改革者について情報を整理しましょう」
それから昼までの間、改革者について、改革者がなぜ3無の消滅対象になっているのか、羽とは何か、など多くのことを教えてもらった。羽を二枚以上出すと全知神にバレるということも。
午後に魔法の訓練をしてもらうことになった。場所は愛の母の部屋のベランダ、小さな魔法なら大丈夫だろうということだ。
「ではまず、初歩の初歩、水を出してみましょう、最初は目をつぶって集中するといいわ、手を前に突き出して手のひらから出すイメージが一番わかりやすいかしら」
「はい」
言われた通り、手を突き出し目をつぶる
チョロロロロ
「さすがですね、鈴」
水がちょろちょろと手のひらのあたりから出ていた。実際手のひらから水が出るのではなく手のひらに浮かぶ小さな魔法陣の中から出ているみたいだ。
「では次は火、あまり強く意識しすぎないでくださいね、家が火事になってしまいます」
「きよつけます」
また目をつぶり、手を突き出す
ポッ
手のひらからマッチぐらいの火が出ていた
「基礎は大丈夫そうですね、では、ここからが難しいです、水と火のイメージでお湯を出してみましょう」
「・・・はい」
「どうしました?鈴、具合が悪いなら休みますか」
「いえ、大丈夫です」
目をつぶり、手を出す、お湯のイメージ、熱湯ではなくお湯と言われると嫌でも思い出す、最後に見た凛の姿、右手が湯船につかり排水口に凛の血と混ざった液体が流れていく、手を差し伸べて触った時はまだあったかかった、救急車を呼んだ後徐々に凛の体が冷たくなっていった
「・・・ず・・・聞こえて・・・鈴!」
はっ、と目を開く
「聞こえていますか、鈴!返事をしなさい、鈴!」
愛のお母さんが私の方を見て叫んでいる
「すいません」
「無事ならよかった、とりあえず、力を解除しなさい、気を楽に、何も考えないで」
「え?」
自分の手の前に直径4メートルほどはあるだろうか、赤い巨大な魔法陣、ゴーッという凄まじい音を立てながら赤を濁した朱色の液体を吐き出し続けていた。あの時見た液体の色に似ている、凛が手の届かないところに行ってしまったあの瞬間の色、とっさに目を瞑る。
「鈴、私を見なさい、大丈夫だから、深呼吸をなさい」
「怖い、怖いよ凛ちゃん」
『大丈夫だよ、安心して、あなたなら大丈夫』
「・・・凛?」
不思議だ、幻聴だろうか、でも間違いなく確実に今の声は凛だった。本当に不思議だ、気持ちが落ち着いていく、再び目を開けた時には魔法陣が消えていた。
「あれ、私なにしたの」
裏庭が朱色の液体でビショビショだ、大雨が降った後のようだ、鈴も愛の母もずぶ濡れ、部屋は背にしていたおかげか浸水は少なかった。
「ご、ごめんなさい」
困惑している鈴を抱きしめ
「鈴、落ち着いた?ビショビショね、お風呂に入りましょう」
そういうと、執事を呼び風呂の準備を指示する。鈴は愛の母に手を引かれるまま風呂場へと向かった。
脱衣所へ着くと、愛の母に脱がされ、愛の母も服を脱ぎ終わると、一緒にお風呂に入った。
「さっきはどうしたの?何をイメージしたの?」
お互いある程度シャワーで体を流し終えると愛の母が聞いてきた。
「すみませんでした、余計なことを考えてしまいました」
「何を考えたの」
「大好きな人のことです、大好きな人がいなくなっちゃった時のこと」
「そう、嫌なことを思い出させてしまったのねごめんなさい、お風呂に浸かりましょう」
愛の母はそういうと先に入ってしまった。
「いえ、私はいいです、色々思い出すのでお風呂にあまり入りたくないんです、体洗ったら先に出て待ってますね」
鈴が話し終わると愛の母は鈴の横のシャワーに戻ってきた
「なら、私も出るわ、少し話をしましょう」
その後お風呂から出た鈴と愛の母は鈴の部屋で話すことになった
「さて、お風呂での続きをはなしてください、鈴」
「面白い話ではないですよ」
「面白い話が聞きたいのではありません」
なぜだろう、この人に目を見つめられると、拒否できない。凛に怒られた時のような、そんな感覚
「私の大好きな人、凛が自殺して死んじゃったんです、お風呂で、それだけの話です、さっきはお湯のイメージと言われてあの映像というか、あの光景を」
愛の母は涙目の鈴を抱き寄せると
「辛かったのね、凛はきっとこっちの世界で生きてるわ、そう信じましょう」
「はい」
この人に抱きしめられるのはすごく心地いい、凛と似たようなそれでいてまた違った感覚。
「さて、さっきの鈴の魔法ことだけど気になることがあります、創造神の羽の色は改革者だろうが関係なく金色のはずです、実際、鈴も最初水や火を出した時は金色の羽が1枚広がっていました、なのに、お湯をイメージしてと言って少ししたら鈴の羽の数が2枚、羽の色が突然赤色に変わりました、その瞬間から、魔法陣が巨大化して、あのありさまです、私でも羽が赤くなるというのは聞いたことがありません、私が思うこととしては鈴が凛という想い人のことを考えたのがトリガーになっているのかもしれません、あれほどの魔法です羽は二枚ですし一瞬だったので全知神にバレることはないでしょうと思いますが、不確定要素が多いですね、力になれずごめんなさいね」
「いえ、そんな、謝らないでください、愛のお母さんのおかげでいろいろなことがわかりましたし、魔法を使う感覚も少しわかりました。感謝してもしきれません」
「そう言ってくれると嬉しいわ、私の部屋がどうなってるか見てくるわね、使用人達にも裏庭については指示を出さなきゃいけないし、愛のことについても調べておくわ、じゃあ、また明日ね」
「はい、何から何までありがとうございます、迷惑ばかりかけてすみません」
気にしないでいいと、軽く手を降った後鈴の部屋を後にした。
晩ご飯、今日は不思議な緑色の玉のおかずがあったのだが、それがとても美味しかった、甘辛くてそれでいてスパイシーなような言い表すのが難しい味。
まあ、そんなことはどうでもよく、また愛の部屋に向かう、裏庭は愛達が帰ってくる頃には元の状態に戻っていた、そのおかげか愛は水浸しになったことは知らないみたいだった。
今日はなんだかよそよそしい。
「今日どうしたの?元気ない?」
「いいえ、考え事をしていただけですわ、鈴こそ疲れているみたいですわ」
「そうだね、疲れてるかな」
「今日は何をしていましたの?」
「愛のお母さんと話したよ」
「私のお母様と?なにかきかれまして?詮索するなと言っておきましたのに」
「私の方から話したいってお願いしたんだよ、娘思いの良いお母さんだね」
愛が目を逸らす
「あの人は良いお母さんなんかじゃないですわ、お父様も、子供のことを結婚させるための道具程度にしかおもってませんわ、きっと。今だって結婚させる必要のない次女を可愛がっているのが証拠ですわ」
「愛の妹さんを可愛がってるのは、お母さんなりに後悔してるからじゃないのかな、私はそう思う」
そっぽ向いてる愛の手を握る、少し驚いたようにこっちに愛が向き直る。
「愛、ごめん、お母さんから色々聞いちゃった、私でよければなんでも話してね、昔の嫌なことでも、できる限り力になるから」
ポロポロと愛の目から涙が零れ始めた
チュッ
愛と鈴の唇がくっつく、いきなりの出来事に鈴は困惑した。
「鈴、私あなたのことが大好きですわ」
「え?」
凛以外に体は許さないと誓ったのに、キスされてしまった、まあ、ベロ入れてなければセーフでいいのかな、凛に知られたらどうしよう、絶交されたりしないよね。
キスの衝撃で狂った思考を繰り返す中、鈴に抱きしめられた。
「なんですの、その顔は、そんなに私とキスするのが嫌でしたの?傷つきますわ、まあいいです。今からお母様と話してきます。今日はもう自分の部屋に戻っていいわ、鈴」
そう言うと愛は立ち上がりすぐに部屋を出た、一人残された鈴はしばらく狂った思考を繰り返していた
コンコン
「お母様、いらっしゃいますか」
突然の娘の来訪を愛の母は歓迎した
「急にどうしたの愛、あなたの方から会いにきてくれるなんてそれだけで嬉しいわ」
腕を大の字にしてハグしようとする母を素通りして椅子に腰掛ける愛
「結婚のことでお話がありますの」
愛がそう告げると、母から笑みは無くなっていた。対面する位置に座る。
「話を聞きましょう」
「ありがとうございます、お母様、単刀直入に言います、あの気持ちの悪い男とは結婚したくありませんわ、まずまず男となれなれしくすると言うのがありえません」
一呼吸おく
「私は鈴と結婚しますわ」
は〜、とため息をつきながら少し頭を抱えた後、愛の目を見つめる
「色々と言いたいことがあるわ、まず、許嫁と結婚したくないと言うのは、散々聞いた上で無理だと話したはずよ、それに、結婚をうけるから鈴をこの家に受け入れたのをもう忘れたの?それと、貴族が同性愛を許すと思っているの?まずまず、地位もない者との結婚なんてありえません」
淡々と話す母に愛が動じることはなかった、しばらく無言が続いたあと、母が少し表情を崩した
「鈴のことが好きなの?まだ数日しか過ごしていないのに」
「はい、お母様、鈴のことを愛していますわ」
ゴソゴソとカバンの中から母が手帳を取るとページを広げる
「その言葉はどこまで本気なの?あなたは、鈴を帝都に売ったでしょう」
手帳には電話の使用履歴が載っていた、どこに連絡したか、その欄に帝都が書かれている。
「それは、今日の夜中に、間違いだったと再度連絡します」
「偽の情報だった場合、相手に応じて罰則があるわ、私たちの家は貴族、いくらの金額を請求されるかわかったものではないのよ、あなたにそれが払える?」
「それは・・・私の資産から払いますわ」
「それ以上を請求されたらどうするの?」
「なんとかしますわ、きっと」
「なんとかとは何?」
愛が口ごもる。
「あなたの資産といっても、他の家に嫁ぐのですから、そんなに多くの資産が入っていないのよ」
「では、私はこの家を出ますわ、この家のものでなくなれば問題ないのでしょう、結婚も、鈴のことも」
「この家を出て女性のあなたがどうやって生きていくの?」
ヴァパイアの惑星は多くが男性優位の社会だ。
「なんとかなりますわ」
「なんともなりません、あなたの行動は軽率で計画性もなくて自分勝手です」
愛が少し涙目になってきた。
「愛、こっちにきなさい」
そう言うと母が立ち上がる、愛も言われた通り母に近づく
ギュッ
そんな擬音が聞こえるようなハグ、てっきり叩かれたりするのかと思っていた愛は戸惑った。
「鈴に関しては、私の方から後ですぐ電話をして対処します、結婚については破棄はできませんが延期できるよう私が直接掛け合いましょう、今は鈴との時間を大切にするといいわ」
「お母様?」
愛の思考回路が一時停止する。
「私の大切な娘がここまで言うんです、母としてたまには、らしいことをしましょう」
「なんで、そんな急に」
「さあ、なんででしょうね、鈴と今日話して、昔の改革者様のことを思い出しました、そのせいかもしれないですね」
少し体を離し、顔が見える位置に来る。
「鈴は不思議な人ですね、優しいですが、それでいて脆い、意志の強い方、そんな風に私には見えました」
「脆い?鈴が?」
「ええ、そこに漬け込めば、鈴を愛のものにできるかもしれないわね、なんてね」
少しイタズラに笑う母、何か言い返そうとしたが、話すより先に母が愛のおでこにキスをした
「今日は一緒に寝ましょう。愛しているわ、愛。今までもずっと、これからもずっと」
初めて聞く母からの言葉に愛はほおを少し赤らめる、悲しいわけではないが、涙が止まらなかった。
「起きなさい、鈴、じゃないとキスしますわよ」
ゆさゆさと、肩を揺さぶられ、鈴は目覚めた。
「朝ごはんの支度ができましたわ」
「わかった、起こしに来てくれてありがとう、愛、キスはやめて」
「フフッ」
お母さんと同じような笑い方をするな
「かわいい笑い方をするね」
「なんですのそれ?誘ってますの?」
「いや、違うから」
なんか、自分が凛になったような会話だなと、複雑な気持ちになる鈴だった。
エルフ教室豆知識
愛の母はアマテラスと接触したことがある、その際感謝しても仕切れない恩を受けた
愛の母はかわいい