3 アーヴィとエリィのお忍び散策 二人の初めての買い物!
ゾンネンブルーメの街はにぎやかだった。一時アードラーの兵士の配下に置かれ、圧政のもと、緊迫した日々を送ったことは、逆に跳ね返すくらいに、人々の顔は明るい。
第三王子アーベル(アーヴィ)と、その婚約者であるハーズの姫エレオノーラ(エリィ)は、質素な服をまとって街に出ていた。彼らは、仲の良いふつうの平民の青年と少女に見えた。
「はいよ! お兄ちゃん、寄っていきな! うちの串焼きはどうだい。あのイルザさまも食べた、おいしいおいしい出来立てだよっ!」
街道の端に屋台を出している、気風の良いおばちゃんが声をかけてきた。野菜と肉の串焼きから、振りかけられた香辛料の香りが漂い、アーヴィの鼻孔をくすぐった。
ぐぐうっ。
アーヴィの腹が鳴った。
「そう言えば、お昼ごはんを食べずに出てきちゃったね、エリィ」
「アーヴィさま……そうでしたね」
二人は微笑む。
「街で買い物をしたことはありますか、アーヴィさま?」
「無いよ! 護衛とか、小間使いさんとかが、みんなやってくれていたから……」
アーヴィが慌てた表情を浮かべる。エリィもそれを見てうなずいた。
「わたしもです。初めてのお買い物なんて、ワクワクしますね! 街では、金貨や銀貨、銅貨でいろいろなものを取引しているのだそうです。それが無い場合は、お願いして物々交換になることもあると聞きました。わたし……お金になりそうなものが、今はこれくらいしかないのですけど」
エリィは、パチリと、腰まで伸ばした亜麻色の髪から飾りを外した。
「おばさま。これで、その串焼きを買うことはできますでしょうか?」
露店のおばちゃんは差し出された髪飾りを見て目を丸くした。
「こんなに高価なもの、うちの今ある串焼きをぜんぶ買ってもらったって、うんとお釣りが出るよ! ははあ、あんたたちさては、ずいぶんいいとこの人たちだね?」
おばちゃんがしげしげと二人を眺める。
「えっと……実は、僕ら王城の……ふぐっ」
うっかり、身分をもらしそうになるアーヴィの口を、エリィがあわててふさいだ。
「い、いえ! わたしたち、ハーズから観光に来たのです」
「ハーズの……。 遠いとこからようこそだ!」
おばちゃんがにっかりと笑う。彼女は、熱々の串焼きを一本、アーヴィの手に渡した。
「アードラーの騎士どもの支配から、ともに自由になった国から来てくれたんだ。その串焼きはあたしからの好意だよ! 持っていきな」
「わあ……! ありがとう、おばちゃん」
アーヴィは露店のおばちゃんにぺこりと頭を下げた。
「その髪飾りからすると、よほどいいとこのお坊ちゃんとお嬢ちゃんとみたんだが。そんなものを身に着けていたら、怪しいやつらも寄ってくるかもしれないからね。串焼きを食べて早く宿に帰った方がいいかもしれないよ! このゾンネンブルーメには、いろんなひとびとが集まってくるからね!」
「分かったよ、おばちゃん。……で、どうやってこれは食べたらいいの? フォークもナイフも無いんだけど……」
きょとんとするアーヴィを見て、露店のおばちゃんは豪快に笑い声をあげた。




