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女剣士イルザとエルフの少年ナック番外編  作者: すー
3章 悪役令嬢カサンドラ、パンを焼く
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13 カサンドラの悔恨

元・大公令嬢、カサンドラは涙を流した。


ここは僻地の寒村インテグラルラウンジである。故郷アードラーよりも雪は多く、今も窓の外にしんしんと降り積もっていくのが涙でにじんだ景色のなかに写る。


アードラーの王は、クーデターによりダミアン王となった。おじである前アードラー王は、隣国の勇士イルザと第一王子のフォルクハルトの計略によって、将であったダミアンに討ち取られた。


そのことは第二王子ブルーノの婚約者であったカサンドラが、地位に不満を抱き、第一王子の伴侶となれるように行ったさまざまな暗殺計画が明るみに出たのが発端だった。


アードラーの国ではこれまでにも、暗躍と実力行使とをともなって王族や貴族たちが立場を変えてきた。


アードラーのやり方を当然のことと受け継いだカサンドラは、王都ゾンネンブルーメに第二王子ブルーノの婚約者として赴いてからも、婚約者とは使える捨てごま、そのように考えていた。



「……寒くはないか、カサンドラ」



吟遊詩人が運んできた、カサンドラ宛ての言葉。


その第一声は、身分を平民に落とされ、寒村インテグラルラウンジに追放されたカサンドラを気遣うものだった。婚約者であった第二王子ブルーノの言伝ことづてだ。



「……なんということを、あたくしは」


インテグラルラウンジのかたすみにある古びた家のなかで、カサンドラが泣き崩れる。ブルーノの面影、気遣い、優しさ。追放者への言伝ことづてという大胆な行動を、危険も顧みずにとるその勇気。


そのことに、別れたあとで二度とは会えぬ立場となった時点で気づくとは。本当に、いったい婚約者の何を見ていたのか。


ブルーノとともに、王都ゾンネンブルーメで幸せな生活を送ることもできたはずだ。誤った上昇志向によってひとを殺めても構わない、という考えに染まらなければ。


カサンドラの企てた暗殺計画、その暴露が国同士の争いの呼び水となり、一度アードラーが王都ゾンネンブルーメを制圧したものの、反撃を受けておじの前王は死んだ。カサンドラの父である大公一家も散り散りとなり、特にカサンドラは罪人の平民として監視されながら、僻地の寒村インテグラルラウンジに流罪になったようなものだ。


言伝ことづてを聞き終えて、温かなブルーノの言葉にひとしきり涙を流したあとにカサンドラは差出人の名前のない手紙をしたため、家の一室に待たせていた吟遊詩人に託した。


朝に届いた、第二王子ブルーノの言葉への返事をそれで終え、去ってゆく吟遊詩人を見送ったとき、もう太陽は真南に近づいていた。


今日は、仕事に出られる気がしない。


本来ならば、もうインテグラルラウンジの村に一軒あるパン屋へと働きに出ている時間だ。


しかし、届いたブルーノの言葉にこころは乱れ、店の仕事をこなす余裕はまったくといっていいほどに残っていなかった。

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