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美シキ世界ノ鎮魂歌  作者: まめぐされ
プロローグ
2/11

輝ける栄光1

(1)


西暦2097年現在、世界は神によって動いています。その補佐をするのが天使です。天使は私達に神の言葉を伝えに地上へ降り立つのです。その言葉を受け取るのが教団です。教団の名称は聖ヨハネ騎士団といいます。主に政治や邪教に対しての弾圧を役割としています。教団は各地域で展開しています。本来、世界は国と呼ばれる集団に分かれるはずでしたが……あ、国についてはまた後で解説しますね。いくつかの国に分かれるはずでしたが、神は他の世界線と違った世界を作るため、私達の世界線では国はうまれませんでした。聞きなれないでしょう?先生もあまり聞かないしね。だから、私達は色んな人がそこらに沢山いるんです。他の世界線だと、きっちりイギリス……だとか、アメリカだとか、日本だとか、そういう国ごとで人は別れて、イギリス人、アメリカ人、日本人って人は呼ばれるんです。でも、そういう名残ってあるのよ?例えば、貴方。貴方の名前って、アレックスよね?そして貴方。貴方は里奈って名前でしょ?ここなの。ここが名残なの。名前と生まれ持った言葉は残ってるの。不思議よね。皆が同じ言葉で話せてるのは昔から教育されてるから。皆って凄いのよ?二つの言語を分けて生活してるんだから。まぁ、少し話はずれましたが、教団は権力を持っていて、私たちにとって平等な政治をしてくれます。それでも貧富の差は生まれてきましたが。けれど神はそんな私達を導き、救ってくださいます。そんな神が他の世界線では………………



女教師の話を教室の片隅で少女は黙って聞いていた。これがこの世界での思想なのであると半ば諦めを持ちながら、空を眺める。この青空も神が作ったのならば、それは賞賛すべき事実だ。美しい景色は心を慰め、癒してくれる。しかし、少女には女教師の話を完全に受け入れることは出来なかった。その原因は自分のバイト先の上司によるものだが、上司の話を聞くうちに、少女の内にもわずかな反抗心というものが芽生えていた。上司の話によって少女は知った。この世界の醜悪さを。まだ高校二年生の彼女には十分すぎる知識であったのだ。成熟する前の少女であるからこそ、上司の話を素直に受け入れることが出来た。もはや、今の彼女は女教師の言葉を全て飲み込む未熟な少女ではなかった。

そんなことを知る由もない隣の席の女子生徒が少女に声をかける。


「ねぇ、宮崎さん。矢野さんどこにいるか心当たりとかない?」

「いや……なにも……」

「そっかぁ。何か記事になるかと思ったんだけど」

「ごめん、役に立てなくて」

「いやいや、気にしないで。それにしても矢野さん、どこにいるんだろ」


新聞部である女子生徒の話題に胸を傷める。矢野と呼ばれた少女とは仲のいい友人であるが、3ヶ月前から行方不明になっている。上司も調べてみるとは言ってくれているが、今のところ手がかりはない。


「じゃあ、宮崎さん。96ページの最初の段から読んでもらえる?」

「はい」


友人の安全を願いながら、少女は立ち上がり、音読を始めるのだった。




(2)



美しい青空の下、美しい隊列が乱れることなく進んでいる。服装は全員、軍服のようなデザインのもので、全体的に白く清らかな印象を与える。その隊列の先頭を一際若い青年が歩いていた。光に当てられて時折光る金髪で、赤茶の瞳は真っ直ぐ前を見ている。が見詰める先にあるのは高層ビル。少しもしないうちに隊列はビルの前までやってきた。青年は後ろで待機する部下達に目をやり、それに部下達は頷きで返事する。それを合図に青年は声を上げる。


「第2部隊、突撃!」


青年を先頭に美しい隊列は一気に乱れ、ビルの中へと雪崩込む。中にいたスーツ姿の人々は次々と侵入者の持つ銃や剣によってなぎ倒されていく。かく言う青年は部下達が敵をなぎ倒し、開いた道を歩み進んで行く。喧騒が聞こえる中、彼だけはただ静かに歩く。数人の部下を引連れてエレベーターに乗り込み、最下層、地下5階のボタンを押す。それを見た部下の1人が尋ねた。


「隊長、首謀者がいるのは最上階なのでは?」

「上にいるのはただの影武者だ。本当の首謀者は地下にいる」


それから部下は何も言わなかった。その間にもエレベーターは下へ下へと下っていき、すぐに到着を知らせるベルが鳴り響く。扉が開くと同時に部下達の持つマシンガンが起動した。無数の銃弾が待ち構えていたスーツ姿の人間の体に無数の穴を作り上げ、真っ赤な血飛沫を上げさせる。その中を構わず青年は奥へと進み続ける。彼が歩む先、歩んだ先には死体の道が出来上がっていた、モーゼの海割りのような神秘ささえも感じさせるその異様な光景は彼にとって何度も見慣れたものであった。最奥の扉を開くと、広い部屋が広がり、1つの大きな机に気弱そうな男が座っていた。くせ毛がちな髪の毛を鷲掴みにして、その場で立ち上がり、声を上げる。


「き、きき、きやがったな。とうとう、俺を、こ、こ、ここ殺しに来たんだ、な」


酷く情けないその姿は、このビルの支配者であることを疑問に思わせるには充分すぎるものだった。そんな男に青年は軽蔑した瞳を向けて、口を開く。


「お前は悪魔を使って貴族階級の人間を大量殺戮した、この事実に偽りはないな」

「そ、そそそそうだ。お、俺たちみたいな凡人を見下して、あ、あ、ああ顎で使うような人間ばっかり、だ。そ、そんな奴らを消して、なな、何が悪い」

「……悪魔を使うような人間は、それ以下の人間だ」


男の悩みや苦しみに大して青年は一片たりとも同情することは無かった。きっと、悪魔さえ使わなければ彼は情けをかけ、説教をした。しかし、生まれた頃から神の偉大さ、慈愛の心、悪魔の邪悪さを教育されてきた彼が、悪魔を使役した人間に温情など湧くはずもなかった。青年が右腕を前に出すと、その掌に剣が出現する。白く、美しい剣の様はまるで彼の心の美しさを表しているようである。それを握り、青年は改めて男を見る。


「貴様の行いは我らが神に反する罪である。死をもって償い、悔い改めよ。我らが神に栄光あれ」




(3)



聖ヨハネ騎士団の基地はまるで城のようである。白を中心とした建築物で、門前に立つだけで首が痛くなるほど見上げるほどのものであった。それはまるで人が神のいる天空を見上げるようなものである。神へ、神へと至るように高く高く作り上げられたものであった。その美しさは見事なものであり、芸術性を感じさせ、神々しさが際立つ。中へ入るとステンドグラスが施され、陽の光により色のついた光が室内へ入り込み、教会を連想させるような雰囲気が醸し出していた。青年はその中で、団長室へ向かうべく、歩いていた。そこは最上階より一つ下の階の部屋にあり、そこへ行くには途中で中庭を経由しなければならない。その中庭は壁が見受けられず、すぐ隣に青空と街の景色が見られる。そこに草木、花が咲き誇り、少し風が吹くと花弁が庭を美しく彩るのであった。そこに差し掛かると向かい側から薄い紫色の髪をした親友が歩いてきた。親友は青年に気づくと、満面の笑みを浮かべて小走りに駆け寄る。


「クラウス、クラウス!」


クラウスの目の前へやって来て、改めて笑みを浮かべる。無邪気な子供のような親友に比べて、クラウスは非常に大人びていた。


「おかえり、今から報告かな?」

「あぁ。ノアはもう報告をしたのか」


うん、と頷いてみせる。ノアも今しがた任務を終えたばかりであった。クラウスの手にある書類を見て感嘆する。


「かなり大きい仕事だったんだね」

「そうだな。今回の首謀者はかなりの被害を出したから」

「凄いね」

「何を言うんだ。お前の方がすごい。謙遜することはない」


そんなこと、とノアは否定をするが、クラウスのこの言葉に嘘偽りは一切ない。彼はノアとの優劣の差を幼少期から1番よく理解していた。訓練、学業、芸術、あらゆる分野でノアが1歩先をいっていた。

この騎士団には部隊が4つある。数字が小さければ小さいほど優秀な精鋭が集まる。ノアは第1部隊、一方でクラウスは第2部隊の隊長である。周囲からも、階級でも、何より自分自身でもノアとの差は嫌という程見せつけられていた。しかし、クラウスはノアを尊敬している。自分のあるべき姿はあれであると、勝手に目標にしてしまうぐらいには。

それから2人は入れ違うように別れる。クラウスは団長室へはまだたどり着いていないのだ。



団長室の扉は大きく、重い。自分の父親のようだとクラウスは常々感じていた。彼の父親は厳格である。だが、その中にも愛情を感じ取ることは出来た。母は病で亡くなり、男手ひとつで自信を育ててくれた父親に感謝の念を抱いている。クラウスが騎士団へ入団した際、父親のコネで入ったのだと密かに噂されたが、それもすぐなかったことになった。彼が任務で実績を積み、昇りあがるまでそう時間はかからなかったのだ。何より入団試験では成績2位であったため、更に評価はうなぎ登りであった。

扉を開けると、机に座る父の姿が見えた。クラウスや他の団員と同じような服装で、クラウスと同じ金の髪に、青い瞳である。眼鏡を上げて、クラウスに目をやる。眉間には皺が入っている。これは機嫌が悪いのではなく、元のものであるとクラウスは理解していた。


「クラウス・プラウドウッド、任務の報告に参りました」

「あぁ、御苦労」


返事が来るなり、クラウスは手に持った書類を目の前の団長、ネストル・プラウドウッドに手渡す。その書類の多さにほぉ、とネストルは息を吐いた。


「やはり、これだけのものになるか」

「申し訳ありません。できる限りまとめたつもりではあるのですが」

「いや、これだけお前はよくやったということの表れだ」


笑みを一切浮かべないが、クラウスにはこの言葉で十分である。ネストルが書類に目を通し、それをクラウスがながめるという実に静かな時間がしばらく流れた。そして、それは突然途切れる。


「……この矢野 雪乃という少女は魔女だったのか」

「……えぇ、生粋の魔女だったようで」

「そうか」




矢野 雪乃、齢は恐らく高校生。彼女は先日、死亡した。あのビルの地下にはいくつか部屋がある。首謀者、中山 桐一のいた部屋の奥にもう1つ部屋があった。彼の机の下に扉があり、そこから入ると暗い部屋につながっていた。奥へ進むと牢屋があり、その中に彼女はいたのだ。茶色い長い髪を散らばらせ、青い学生服を身にまとって蹲っている。手に持った剣で牢屋を破ると、クラウスは跪き、雪乃に声をかけた。


「俺の声が聞こえるか」

「……」


いくら待てども彼女からの返事はない。1度保護すべきかと立ち上がろうとした時、初めて雪乃は声を出した。


「……が……ら……」


確かに声は聞こえた、しかしなんと言っているか聞き取れない。クラウスは何度も何度も聞き直し、理解した。


「私が魔女だから」


魔力のある魔女を生贄にして悪魔を召喚するという話はクラウスも聞いたことがあった。悪魔と契約した魔女なら1度で死んでしまうが、混血でない純粋な魔女の血を持つ魔女なら何度でも生贄にすることが出来るらしい。それは魔女が朽ち果てるまで可能だそうだ。確かに彼女の体は骨が浮き出るほどやつれ細っていて、瞳は虚ろで濁っていた。目の前の彼女が魔女であると確信するとクラウスは再び剣を出現させ、一切の躊躇もなくうなだれる少女の首筋にあてがう。その数秒後、少女の体と頭は切り離される。その死体を見下ろすクラウスの瞳は生ごみを見るかのようなものであった。


(4)



「お兄ちゃん!」 


 団長室を退出すると、妹のマリアがクラウスに駆け寄ってきた。団員であることを表す白の服装に、美しい水色のセミロングヘアーを黄色のリボンでハーフツインテールにしている。


「マリア、どうしたんだ」

「マリア、どうしたんだ?っていうんだ、ふーん」


マリアはクラウスをなじるように見る。自分が妹にそのような目で見られることをしたのかどうか、クラウスは記憶を思いめぐらせる。一つ、思い当たる節があった。


「あ、買い物か」

「今日の二時に行こうって言ってたよね!?」

「す、すまない。前の任務の報告書が中々まとめ終わらなくてな……」

「そういう時って普通一言断りいれるもんじゃないの?」


正に正論。そもそもマリアとの約束を忘れていたクラウス自身に非はある。どう話せばいいものか、クラウスは困り果てた。もはや謝罪の言葉しか彼の頭には浮かばないのだが。その様子にマリアはため息をひとつつく。


「ま、前の任務大変だったみたいだし?今回は許してあげてもいいけど?」

「そうか……本当にすまない」

「その代わり、明日のお昼、おごってよね!明日の日替わり定食、オムライスなんだから」


わかった、とクラウスは大きくうなずく。今度こそ忘れてしまわない様に、自分に言い聞かせているのだ。マリアはそれを見て納得したようで、上機嫌に笑う。クラウスはふとあることを思い出し、口に出す。


「そういえば、昨日の訓練の成績、一位だったそうじゃないか」

「え?あぁ、まぁね」

「よくやったな」


クラウスがほほ笑み、マリアの頭を優しく撫でると、マリアは頬を赤らめて、背中を向けてしまう。


「ま、まぁ、私の手にかかればこんなものよ!楽勝だもん!」

「来年の入団試験、期待が出来そうだな」

「当り前よ!楽しみにするがいいわ!」


この後の仕事はないのでマリアは更に上機嫌で返事をすると、寮に戻った。

マリアは生まれ持った天才肌だ。努力でのし上がったクラウスとは違い、一度教わったことはその日のうちに身につけてしまうのがマリアと言う少女である。マリアはまだ正式な団員ではないが、訓練兵の時点で団員としての活躍を期待されている。学業、実技共に主席を取り続けており、来年の入団試験でも主席を取るだろうと噂されているほどだ。クラウスはそんな妹を誇りに思っており、何よりも自慢であった。マリアと共に神のもとで働くことがクラウスの密かな夢である。





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