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美シキ世界ノ鎮魂歌  作者: まめぐされ
1章
11/11

対峙

(1)


「悪魔……?悪魔と言ったかクラウス」


雰囲気が一変した。先程までの友好的なものから、明らかに敵対心溢れるものへと変化した。張り付いた緊張感に、その場の人間は固唾を飲んだ。


「あぁ、そうだ。俺は神を殺す! 」


完全に決意を決めた男がそこにいた。凛とした声が辺りに響きわたり、団員達をざわつかせた。暫くの間。ルシアンは息を吸い込み、深く吐いた。閉じた瞼の裏側で、彼との記憶が蘇る。しかし、ルシアンには思いを馳せる暇など許されなかった。クラウスを真っ直ぐ見つめ、手には弓矢が現れる。


「ーーーわかった。これより君を背信者と見なす」


力強くひかれた弓の弦が音を鳴らす。矢は光を帯びながら真っ直ぐ配信者へと飛んでいった。光が弾け、当たりを包み込んだ。光に包まれる様は、美しい。光が収まると、光の剣を持ったクラウスが構えていた。矢は弾き返されたようで、少し離れたコンクリートの地面へ突き刺さっていた。周辺は崩れ、ひび割れている。


「元より……そのつもりだ!」

「……!全騎士、背信者に掛かれ!」


騎士たちは一瞬の動揺を挟みつつも、声を上げてクラウスへと駆け出した。クラウスは剣を改めて強く握り、彼もまた駆け出した。次々と襲いかかる騎士達を薙ぎ倒し、ルシアンへと向かう。一方その頃、魔女と糾弾されていた女性と男性は戸惑い、顔を合わせていた。


「いやぁ、すごい光景だねぇ」


二人の間から聞こえた末吉の声にうわっと男女は声を上げる。末吉はしゃがみこみ、手をデコに当てて騒動を眺めていた。


「あんたら、運がいいね。日頃の行いが良かったのかね」

「は、はぁ」


場違いな末吉の様子に男女はぽかんとする。さてさてどうぞ、と末吉は立ち上がり、2人を安全な場所へと誘導するため歩み出した。


「い、行こうか。悪い人じゃなさそうだし」

「え、えぇ。……」

「どうかした?」

「あ、いや、結界、いつの間に破れてたんだろう」

「きっと疲労していたんだ。仕方の無いことだよ。それよりも急ごう」


男は女の手を引き、末吉の後を追った。女はどこか違和感を覚えながらも、安全を優先しようと気持ちを切り替えたのだった。



(2)


クラウスは無我夢中で斬り進んだ。彼が目指すのはルシアンである。隊長が倒れれば隊は崩れることを彼自身よく知っていた。対するルシアンはその光景を眺めていた。自分の部下達は精鋭であると信じているが、クラウスと釣り合う実力ではないと分かっていた。いち早く彼を討たねば、勇敢なる騎士達が死んでゆく。しかし、ルシアンの弓は本気を出せば強大な破壊力ゆえに、自身の弓矢で仲間を殺してしまう恐れがあった。


「……彼を引きつける。町外れまで着くまで私の護衛をしたまえ」


ルシアンと数人の騎士はクラウスから離れるように駆け出した。それにクラウスはいち早く気づき、ルシアン達の方向へと走り続けた。


それをビルの上からセレスティアが悠々と眺めていた。



(2)


森の中の木の少ない場所でルシアン達は止まった。クラウスもそれに従って立ち止まる。ルシアンと騎士たちが目を合わせると、騎士達はクラウスへと向かっていった。その一方、ルシアンは光の矢を強く引き絞り、光を溜め込んでいた。クラウスには彼の意図がわかっていたため、いち早くルシアンを止めねばならないと感じていた。しかし、ルシアンについてきた騎士は騎士の中でも更に精鋭の騎士。彼らよりも実力があるとはいえ、一筋縄ではいかない。クラウスが騎士達をなぎ倒した頃には、もう遅かった。


「これこそ、我が誇りの天命の一矢……。愚者を救い給え(ルイン・カルマ)!」


其れは、奇跡の一矢。光り輝く矢は、光の軌跡を残す。辺りに光の粒が漂い、これこそが聖なる奇跡であると人々に訴えかける。クラウスにはこの光の脅威をよく知っていた。戦場で近くではないが、遠目にその輝きが、背信者を討ち滅ぼす様をハッキリ覚えている。今やその光は自分に向けられていた。あまつさえ、悪魔と契約した身には効果は絶大。灰すら残らないかもしれない。

どう対処すればいい。何が正解だ。

もはや顛末は決まっているようなものだ。しかし、絶望や思考を巡らせるよりも先に、悪魔と契約した体は対処法をよくわかっていた。


「ーーーー凌駕せよ、我が憤怒(サーパス・リベンジ)


深い黒が美しい光と交わる。2つの光は限界を超え、爆発した。爆風が木々を揺らし、爆音が当たりを支配した。

爆風も、爆音も、光も収まり、静寂が訪れた。ルシアンは目の前の男を蔑む。


「…………本当に、堕ちたのだな。クラウス・プラウドウッド!」


ルシアンのけたたましい怒声が響きわたる。クラウスの手には神聖武器と相反する神殺しの剣があった。禍々しく、光を飲み込む闇が見えた。それは、クラウスの本能で抜かれていた。クラウス本人も自身がこの剣を神聖武器と同じ要領で出していたことに、今気づいた。体の慣れによる反射的なものか、それとも悪魔と契約した本能によるものなのか、彼自身にも理解出来ていない。


「悪魔に身を投じたとしても、その根底にある正義だけは揺るがないものだと、信じていた!貴様は誰よりも騎士団に貢献し、人々を愛している男だと、私は尊敬していたのだ!私の攻撃も、クラウス・プラウドウッドならば、自らの神聖武器を持ってして対抗すると、少し期待していた節があった。どこかでまだ、心に迷いがあると望んでいる私がいた。しかし、出てきたのはその汚らしい神殺し!今度こそ貴様を見損なったぞ!」


ルシアンの気迫は尋常ではなかった。彼の髪が怒りで逆立っているような錯覚に陥りそうなものである。しかし、向き合うクラウスも負けてはいなかった。


「……見損なったか。たった数日で心変わりした俺を。……だからどうした!勝手にお前が期待をして、勝手に失望しているに過ぎない。お前にはわからない。俺の怒りなど、誰にも理解できるはずがない!」


あの世界滅亡を覚えている人間など自分以外にいるはずがない。

人々が叫ぶことも許されぬまま消し去られてたことなど知るはずもない。

信じていたものに裏切られたことなど味わったこともない。

お前には、分からない。


そう、だからあなたが選ばれたのよ


どこかで、悪魔の声がしたような気がした。

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