朋友
(1)
街中で魔女狩りが行われているらしいと報告を受け、クラウスは末吉を乗せてバイクを走らせていた。これまで自分がしてきたことを止めるのは、滑稽に見えているのかもしれない。けれど、この数日間は彼の世界を大きく広げた。神によって示された道よりも広大なものを彼は知ることとなった。やがて、前方から喧騒が聞こえてくる。それは普段の賑やかさとは打って変わって、悲鳴が多いものであった。更にバイクの速度は上がり、喧騒が大きい方へと走る。喧騒が大きくなればなるほど、クラウスの鼓動は高まった。直接、騎士団に楯突く行動をすることに対する覚悟は決めたつもりであったが、今からでも踵を返そうかとも考えてしまう。しかし、もうあとには引けない。やれることを、やるだけだ。
「おぉ、これまたやってるねぇ」
末吉が緊張感の感じられない声を上げてバイクから降りた。目の前の光景はクラウスには見慣れているものであった。男女は結界の中におり、その周りを騎士団が取り囲んでそれを破ろうとしている。
「穢れ者め!」
「悪魔の手先が」
「卑怯者!」
団員達の罵声と共に結界に武器をぶつける音が聞こえる。中にいる男女はただ抱きしめ合い、震えていた。
「やめろ!」
気づけばクラウスは声を上げていた。その声に反応して大人数がクラウスの方へと向いた。一瞬、どよめきが起こるが、ひとつの声によってそれは収められる。
「静まりたまえ我が精鋭たち」
凛とした男の声が辺りに響き渡った。ヒール特有の足音と共に周囲の騎士団員達は声のした方へと振り返り、道を開けた。現れたのは薄緑色の長髪を1つ三つ編みにし、右目に片眼鏡を掛け、騎士団の白い制服を纏った長身の男であった。
「ふむ、その勇猛たる声は我が朋友ではないか?」
「お前……ルシアンか」
ルシアン・ベフトォン。騎士団でも数少ない貴族階級の男である。彼とクラウスは級友であり、何かとクラウスに対して接してくることが多かった。彼は今、元クラウスの部下達、すなわち第2部隊の騎士たちを率いているようであった。
「君が居なくなってから、私が第2部隊の隊長を任された。謀叛を起こしたと聞いたが、それは本当か?」
「……あぁ」
返事を耳にしたルシアンは深いため息をついた。何を言っているんだこの男は、と言ったような様子でクラウスを見ている。
「あぁ、我が友よ、どうしてしまったのだ。この身体、神へと捧げると、あの日神へ共に誓い合ったではないか」
誓ったには誓ったが、お前と誓い合った覚えがないんだが。
そう口にすれば、面倒なことになるのが目に見えていたため、クラウスは黙った。だが、こんな変わり者でも、神に対しての信仰心、自身の生まれに対する誇りは本物であることは分かっていた。だからこそ、クラウスは彼に対して忠告をするべきであると感じた。
「俺たちが信じた神は、善良な神ではなかった。あれは邪神、いや、神ですらないのかもしれない」
「何を言うのだ我が友よ。まさか、魔女にでも魅入られたか?」
ルシアンは何かの間違いであると言いたげであった。クラウスはもう元の仲間には戻れないことを覚悟していた。
「いいや、魔女じゃない。ーーーーー悪魔だ」




