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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
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今時なご近所付きあい

 昭和の香りのする壽樂荘だが、Wi-Fiはついていて住民は自由に使える、さらに住人と大家さんの間で作られたLINEグループもある。それが意外と活用? されている。地域情報とか、住人のちょっとしたニュースとかに加え雑談。いや他愛ない雑談が殆どかもしれない。

 そのLINEグループに参加しているメンバーの人数は何故か二十一名。まあROMの人もいて常に会話している人は限られているが、アパートの規模から言うと明らかにおかしな人数である。

 因みにアパートは一階に四部屋二階に三部屋ある。一〇一号室の三宅(ミケ)さん、一〇二号室のシング、一〇三号室の俺、一〇四号室のスアさん、二〇一号室の玉田(タマ)さん二〇二号室の縞田(シマ)さん、二〇三号室がジローさんの七名が今アパートの住人。


 住人と大家さんと大家さんの息子さんの人数を合わせても倍以上多めの人がいるのは、元住人がグループ内に残っているから。国に帰ったり、社会人となったりで引っ越していった人が、ここに残り交流を続けている。大家さんとここでの生活が長いジローさんがそういった人との交流を大切にしているからこそ、このように繋がりが続いているのだろう。留守が多く未だに顔を合わせて挨拶出来ない一〇一号室の三宅(ミケ)さんともココでご挨拶ができた。また俺の部屋の前の住人で、宮大工となったタビ―さんこと田尾(タビ)さんともここで交流している。あの部屋にピッタリサイズの素晴らしい家具は彼の作品で、アレと出会った感動とお礼もここで伝えられた。


 一つ気になる事はこのグループのメンバーのアイコン。ジローさんは飼っている白猫のマシロ、シンクとスアさんは二人とも名前の意味が虎だからか、それぞれ違う虎の写真、三宅さんは実家にいるという三毛猫、大家さんは飼い猫のナツメちゃんの写真。スアさんの部屋に前住んでおり、スアさんの友達であり仕事仲間のキティーさんはあの猫のマスコットのキティーのイラストという感じで、このLINEグループの皆が、猫かネコ科のアイコンという感じなのだ。ここは猫縛りなの? とも思ったがそうではなくたまたまだという。俺は実家で飼っている犬のハルオの画像を元々使っていたが、ここで浮いている事に気が付きサバの写真に変更した。その事で、元住民からは懐かしがられて喜ばれたから良かったのかも知れない。


 おかげでLINEの会話を見ていると猫同士が気侭に会話しているようにしか見えない。

 食べ物の話で盛り上がっている事が多いだけに、余計にご飯を貰いに公園に集う地域猫の姿と重なりそう見えるのだろう。


 今日見ると田尾(タビー)さんが、何やら美味しい地酒をジローのさんところと大家さんに送るという話題で大人数で盛り上がっていた。ジローさんの家に集まれるメンバーは大喜びして、行けないメンバーはニャーニャーという雰囲気で文句を言い、個人的に送れと催促する。大人の会話としては無邪気で可愛らしく、見ていて和むのは俺だけだろうか? 全員は無理でも皆さんとお会いするのが楽しみだ。


【あっ、トラオはまだのんだらダメよ!

 オトナになったら、アタシがオサケとかイロイロとオトナのセカイをおしえてアゲルから♥】

 

 のんびりと会話の流れを楽しんでいたら、キティーさんからいきなりそう俺に話しかけられてきてどう返すべきか悩む。キティーさんは一度スアさんの部屋に遊びにきていたので会った事があるが、スアさんよりさらに()らしいお姉さん。さらに言うとスアさんと違ってスキンシップが激しい人。そこが少しだけ困った所なのだ。陽気でパワフルで良い人なのだが体力と腕力は男性。骨が折れるのではないかというくらい強過ぎる力で抱きしめてくるのだけは止めて欲しいと思う。可愛がってくれるのは嬉しいのだが……。

 キティーさんの言葉に迷ったが【アザース】と頭を下げている漫画のキャラクターのスタンプを返しておく。

【おいおいトラ、警戒を怠るな!

 キティーに喰われる。コイツは肉食動物。危険だ】

 シングが余計なツッコミをする。しかも虎がカワイイマスコットのアイコンの人物に対して語るにはおかしな言葉だ。

【そこはお姉様らではなく、俺たちお兄ちゃんらが、男としての楽しみ方を、手取り足取り教えてやるべきだろ】

 前に三〇一号室に住んでいたというクロネコさんこと黒根虎徹(クロネコテツ)さんも微妙に怖いニュワンスを持った事を言ってくるが、猫がただ気侭にニャーニャー言っているだけと流す事にする。ネットの良い所はスルーもしやすい。キティーさんもタビーさんも言葉の雰囲気から酒が入っているっぽいから。

【ダメよキティー! タビー!

 トラオは純真なまま真っ直ぐ育てるんだから! 変な垢つけないで!】

 それにスアさんという庇ってくれる頼りになる姉がいる。

【親御さんからお預かりしている大切な存在という事を忘れないように】

 常識人のジローさんの兄的存在も頼もしい。こうして悪ふざけが過ぎてきたらこうして叱って場をしめてくれる。大家さんは寝てしまうのか夜は現れないだけに、こうして代わりにどちらかがふざけ過ぎると叱ってくれる。


 クロネコさんとジローさんは確かクロネコさんの方が歳は上なのに、ジローさんの方が言う言葉が渋くて落ち着いているのも面白い。

「は~い! ジローお父さん、スアお母さん。怒られるの怖いから、皆良い子に!」

 クロネコさんがフザケタようにそんなコメントをつけ怖がっているようなキャラクターのスタンプを送ってくる。ここでは大家さんが母でジローさんとスアさんは兄貴姉貴的存在だと思っていたが、それを超えてお父さんお母さんなもっと大きい立ち位置だったようだ。

「こんなデカくて可愛くない息子はいならい!

 ウチにはマシロというカワイイ娘が既にいるから──」

 自分の飼っている猫を溺愛しているジローさんがそう返してくる。きっと膝の上でマシロを撫でながら我が子自慢しているのだろう。その後ジローさんの溺愛トークが続くのを皆が揶揄う言葉が続いているのを俺は笑いながら眺める。

 東京ってご近所付き合いは希薄で淡白な付き合いしかしないと聞いていたが、それは間違えた認識だったようだ。時間と空間を超えてご近所付き合いをしている。


 ふと頭を叩かれる。振り向くと網戸越しに何故かサバが俺にパンチを食らわしてきている。

「なんだ、サバ。おやつか? さっき食べたよね」

 俺はスマフォを置いて振り向きながら話しかける。


 ブミャー


 サバはそう何かを訴える。目付きが悪く何か訴えるようにしていても、コチラを見ているが睨んでいるようにしか見えない。怒っている訳ではないが何を求めているか分からない。おやつ煮干を取りにいき、差し出すと何故か不満そうな顔をされた。しかし要らない訳では無いようで、鼻に皺を寄せた顔で煮干に齧りつく。

 俺はスマフォを手に画面を見ようとするとまた叩いてくる。まあ爪を出していないから良いが、何なのだろうか?

 煮干しをもう一本出して上げると、何故か目を細めて嫌そうな顔をするが受け取って食べる。おやつ欲しいならもっと可愛く甘えて、嬉しそうに食べてくれたら良いのに……俺はため息をついた。

 スマフォの画面では相変わらず猫がニャーニャーという感じで無邪気に会話している。そして背後ではバリバリと煮干を喰う猫。ネットの中ででも現実世界でも猫だらけで。

 根来山森……この街は【猫山盛】に改名するべきでは? そんな馬鹿な事を夜中に考えながらサバの頭を撫でてから網戸を閉める。LINEの皆には挨拶をしてからシャワーを浴びて来ることにした。


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