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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
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俺の部屋はニャンLDK

 【アレコレコラム】は六回でワンクールとなるコーナー。

 俺はコラム全体の主旨を示した企画書と、いくつかのコラムをつけて田邉さんに提出した。

 多めに書いて、その上で田邉さんの意見を仰ぐ。


 内容は上京してしてから俺の生活。

 物件選びから始まって、根来山森での体験と出会った人の事を描く事にした。俺なりのワンダーランド読んでくれた人がその何処かに共感してくれて楽しんで貰えたらなと思ったから。

 サバとモノという新しくできた家族、スアさんから学んだ家事の奥深さと面白さ、シングとともに探求しつづけたカレーの事、ジローさんから学んだ日本の素晴らしさ、深く語るとそれぞれで六回必要になる程のネタはあった。だからこそ、その中のどれをコラムとして採用すべきかを検討してもらうことにした。


 田邉さんは俺の原稿をフフと謎の声を出しながら読んだあと、なぜか苦笑して首を傾げる。

「君らしいと言ったら君らしいかな。細かい部分で言うべきところはあるが、まあ合格とするか……」

 苦笑の意味にヒヤヒヤしていた俺は、合格の言葉にひとまず安堵する。

「気になるのは、ここで登場している人の許可は取れているのか?」

 俺は頷く。 

「はい! オッケーはもらっています。それに書いているときも話し合いながらやっています」

 「俺をエッセイに出せ」と普段から煩かったシングだけど、行動の描写には何も文句は言ってこなかったのに人物描写について細かく煩く注文つけてきて大変だった。その為やや顔が美化されているのはここだけの話……。

「タイ人の隣人については?」

「話し合って、トランスジェンダー女性という表記の紹介で行こうと二人で決めました」

 今の時代、スアさんのような人をメディアで取り扱う際に、色々表現において考慮しなければいけないことが多い。侮蔑の意味とも取られかねない表現は許されない。

 かといって隣に住むお姉さんとして普通に女性として描くのはスアさん自身がなんか世間を騙しているような気分になるからトランスジェンダーであることは明記して欲しいと言われた。


「あと、確認なんだが、トランスジェンダー女性のタイ人と、お笑い芸人はまだわかるが……いつも和装のフランス人とか、時代劇喋りのインド人は本当にいるんだろうな! 話盛ってないか?」

「盛ってないですよ! 本当のことしか書いていないです!]

 俺はスマホを出し二人の写真を見せる。ジローさんは証明できたが、シングの日本語は写真では見えない。

「……あっ! 我有さんと宮尾さん確認してください! 二人はジローさんとシングと会っていますから!」

 二人の存在が面白すぎて創作された人物だと疑われてしまったようだ。必死に訴える俺を見て、田邉さんはまた苦笑する。

「いや、疑っている訳ではない。

 たださ、お前は前にごくごく普通の大学生活を送ってきただけと言っていたけど、結構話のネタには事欠かない、面白い生活しているよな」

 俺は田邉さんの言葉に首を傾げる。

「東京ではごくごく普通のことですよね? どれも。近所に外国人や芸能人がいるのも」

 田邉さんは、ウーンと何故か悩む顔をする。

「確かにお前のいる地域は学生街だし、家賃も安い所も多いのから売れない芸能人や外国人が多いのは確かだ。

 でも今時の若者は内向的なこともあるから、そういった人たちを眺めるだけで、あまり関わらず終わることが大半なんだろうな」

「え、俺も、どちらかというと引っ込み思案で内向的ですよ」

 言うなれば新しい環境の方が俺へ優しく暖かく関わってきてくれた形である。

 それなのに俺がそう答えると田邉さんは呆れたという顔をする。

「その二つの単語、一度ちゃんと辞書をひいて調べて、正しい意味で理解しておけ」

 そう言ってお叱りの言葉を頂いてしまった。


 俺のアレコレコラムは田邉さんとの相談の結果、俺の新生活を上京最初からを追う形でまとめることになった。新生活を送るにあたってのバタバタとそれの乗り越え方の一つを描くことで、同じように一人暮らしを始めている人には参考になって、それを乗り越えた人には共感して楽しんでもらえるだろうという意図だ。

 何故か編集部の人からは「新生活あるある」のようで「新生活でそんな面白いこと色々ある?」と言う内容だけどねと笑われた。

 タイトルはシングから許可をもらい「普通にワンダーランド」で連載された。


 このコラムが俺の編集記者の最初の仕事となった。


 それから俺は【Joy Walker】に入社して編集の仕事を学び、同系列の趣味・実用書を出している会社に異動となり新しい職場で更なる経験を積んでいる最中。

 実家の近所では俺がなんか東京で作家になったと噂になっているようだが、そんなことはなく俺は俺のまま普通の編集記者という会社員。

 確かに卒業後コラムを更に改稿し膨らませた「世界は普通にワンダーランド」と、シングと一緒に「カレーなる二人のカレー旅」というカレー本と二冊ほど本を出版したものの、別に有名人になった訳でもなく、ただの【乕尾夏梅】のまま。

 肩書きは、エディター、エッセイスト、WEBプランナー、映像クリエイターと色々ついているけれど、要は何でも屋。様々な事を楽しくやっている。


 壽樂(じゅらく)荘は相変わらずで、住民は入れ替わりを見せているが、ライングループ住民が増えただけで、みんな変わらず仲良い。

 ノラーマンは人気も出てきた事もありもう少しセキュリティーの良い所に引っ越した。後には後輩芸人が入ってきていてバイトに精を出している。

 スアさんは、離島でペンションを開いた三宅さんを手伝って一緒に仕事をしている。二人が付き合ったと言うわけではなく、ビジネスパートナーとして過ごしているようだ。

 スアさんの部屋には、友達のミランダさんというブラジル人のトランスジェンダーのお姉さんが今住んでいる。国民性かパワフルで情熱的な人。失恋する度に俺の部屋にお酒持ってきて飲み明かし、次の日ケロリと元気になり次の恋へと向かっていく。

 三宅さんの部屋にはネイチャーカメラマンを目指す茶島さんが入ったが、彼は師匠であるカメラマンについて世界中飛びまくっているようで滅多にアパートにはいない。その為LINEでの付き合いが中心となっている。

 シングは会社の寮に移り住んだが、何故か俺の部屋に時々帰ってきては、前と変わらず畳の上で寝転がっているので、あまり離れた感じがない。

 シングの部屋には代わりに台湾からの留学生フーヤン君が引っ越してきた。ジャパニーズアニメのファンなようで、本国ではその道のちょっとした有名人だとか言っている。そして日本アニメ文化を解説するYouTuber。その能力を買われ、【ねこやまもり】の編集作業を担当している。シングとは違う意味でマイペースだけど良い子。


 ノラーマンのライブがあれば皆で見にいき、何かがあったらジローさんの部屋で集まりみんなで飲む。

 より住民が増えたことで、ますます賑やかになっているだけの状況だ。


 そして上京して八年目の今日。俺は壽樂(じゅらく)荘を出た。

 引越し先は同じ根来山森にあるメゾネットタイプの2LDKのテラスハウス。

 家賃は倍の九万円で、モニター付きのインターホンに、ウォシュレット付きトイレで、カウンターキッチンのあるペット可の部屋。猫好き大家さんの物件で室内の部屋にはペット用出入り口もついている。

 住むのはサバとモノと、新たに家族となる柑子さん。


 一足先にこの部屋の住民となった俺はリビングのソファーに座り部屋を見渡す。

 柑子さんと二人で決めた新しい家具。それを見ているとなんかソワソワしてしまう。

 でも広くなった分一人だと寂しい。さっきまで引っ越しの手伝いで賑わっていただけに余計にその寂しさを強く感じる。

 可愛い娘が結婚するということで薮先生も寂しいのだろう。婚前同棲は許してもらえず、婚約したら前より門限が厳しくなった。

 きっと今は家で家族団欒を楽しんでいるのだろう。

 サバとモノは新しい縄張りの冒険で忙しいようで一階二階と走り回っている。サバが三本足でも余裕で階段を移動している様子にひとまず安心した。猫にとっては部屋全体がキャットタワーのようなもので縄張りも広くなり嬉しそうだ。

 俺は楽しそうな二匹のはしゃぐ音を聴きながらビールを飲みながら一息つく。

 何故か一人きりのリビングなのに視線を感じた。キッチンのすりガラスの窓の外に二つの光が見えた。その状況にはもう驚かない。明らかに猫の目だ。

「え? サバ? モノ?」

 もしかしてウッカリ外に出てしまったのだろうか?

 声をかけるが返事はない。カタンと音がして猫用ドアからサバが入ってくる。

 二階からモノが走っている音が聞こえる。二匹のどちらかが外に出たわけではないようだ。

 

 グギャオー


 そっと近づくとあまり可愛くない猫の鳴き声が聞こえた。俺の横にいるサバが凶悪な顔をしてその猫影に唸り声を上げた。


 え? 早速ご近所トラブル(仁義なき猫抗争)勃発?


ここまで読んでいただきありがとうございます。

次話にオマケの話でこちらの物語は完結となります。


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