平凡で普通な父と平凡で普通な母
皆が期待に満ちた目で聞いてきてきているので俺は更に困る。
「ふつーのサラリーマンとふつーの主婦で面白くもなんともないですよ」
「乕尾くんのお母さんは何か優しそうな感じというイメージ」
清酒さんはそんな事を言ってくる。ここの皆さんは話しやすように言葉を促すのが上手いなと思う。
実際問題母親はどういう人なのか? 俺は考える。一つ言えることは気侭で自由な人。
「母親は、まぁ、あまり叱らない優しい人だとは思います。
俺が馬鹿な事とかしても、叱るのでは無く、何でそういう事をしたのか? というのを俺に話させて気付かせてくれる感じでした。
いつも楽しそうにしていて、悲しそうな顔や怒っている顔は殆ど見た事ないです。
良い母親だと思います」
そう話しながら、母親のことを色々思い出を紐解いていく。
「唯一残念な所は運動オンチなところかな?
ママさんバレーに参加したら、練習初日の開始一分でボールと関係ないところで一人で転けて捻挫して脱落した事があったり……。
俺が出ているサッカーの試合応援していたら、隣のグランドで行われていた野球のホームランボールがぶつかってくるとか、特に致命的に球技との相性が悪いみたいです。
あと少し不器用で……。
幼稚園の手作りカバンもカバン自体は問題ないのですが、アップリケがうちで飼っている犬だったのですが、ずっと友達にカブトムシのアップリケだと思われていました。
絵手紙をずっと習っているのですが……作品がまたどれも前衛的で……色の配色と書かれた文字だけで、何を描いているか推理しないといけないというーー感想に非常に困るものだけなんですよね。不器用というか独特な芸術的センスの持ち主と言うべきかもしれません。
……と言った感じです。一言でいうと呑気で明るい主婦です」
皆さんは優しく笑って聞いてくれている。編集部記者だけあり、人の話を聞くのが上手いからだろう。
「父は……どちらかと言うと寡黙な人ですね」
しかし仕事人間で趣味もなく母親以上に話すところの無い父親。家ではずっと楽しそうに話している母の話をただ聞いているだけという印象。何を話せば良いのだろうか?
「お父さんはどんな会社のサラリーマンなの?」
有子さんが今度は父親の事を聞いてくる。こうして会話が途切れた時の声掛けも流石だと思う。
「パンツの会社に勤めています」
「パンツ?!」
父親の会社の事。あまり興味なかったから詳しくは知らなかった事に気がつく。タブレットを取りだし検索してみる。
「パンツの卸売している感じなのかな?
髪の毛とか服とかはだらしなくしていても全く気にしないのに、ゴムの伸びたパンツをいつまでも履こうとすると怒るんですよね。
そんな恥ずかしいパンツ履いていて事故にでもあったらどうするんだ! お医者さんに情けない下着を晒したら申し訳ないし恥ずかしいだろうって」
父親の会社の会社概要を表示する。
「パンツだけでなくインナーウェアの輸入・企画・製造・販売を行っている会社なんですね。
これが父の務めている会社です」
俺は皆に画面を示す。
父親の会社は色々なパンツを取り扱っているようだ。海外ブランド品から、コミカルなものまで。
「パンツの担当しているだけにパンツ好きなのか、パンツにだけは厳しく、拘りをもった人です。
新年や新しい生活を始めるときは新しいパンツを履くというのが我が家の習慣です。
だから毎年新年、父が用意した干支の柄のついたパンツを皆で履きます。
見せ合う訳ではないですが……除夜の鐘聞いた後にそれぞれが着替えに部屋に戻って居間に再集合する感じで過ごしています。
新生活始める時も、東京タワーのついたパンツを持たせてくれました。
パンツで語るというか、寡黙な人でパンツの事だけしか語らない。そんな感じです」
考えてみたら実家からの仕送り小包みにパンツが必ず入っているのは俺くらいかもしれない。あと母からのどこでこんなの売っていたのか? という謎のデザインのTシャツ。
「だから一人暮らし始めてもパンツだけは買った事ないです。定期的に仕送りで送られてくるので。
新品のパンツがあると、生活にハリを与える! と父は言うんですよね。
でも気合いいれたい時とか、気分変えたい時に確かに新品のパンツは気持ちいいですよね。
そうそうあと、父が人生を賭けるような勝負の時にはコレをつかえと持たせてくれたパンツもあります。七福神のついた赤いパンツ。コレです!
俺にはまだ使う機会がなかったのでグランプリに出ることになったノラーマンに贈ったら、見事三位を取りました! パンツ効果というのもバカには出来ないのでもしれません」
通販サイトに父が持たせてくれた勝負パンツがあったので皆に紹介した。
そのまま皆でパンツの通販ページを眺める。
皆さんの話を聞く感じたと、この職場はブリーフ派が多いようだ。
「パンツは下着だから人から見えないものですが、だからこそそこに拘りを持って生活をするというのも考えてみたら楽しそうですよね。
男性も勝負パンツとかいうものではなく、見えないからこそ遊べるという所もありますし」
「でも乕尾くん、あまり変なパンツ履いて彼女さんをビックリさせないでね」
清酒さんがそんな心配の声をあげる。
「彼女には事情を話しているので、俺のパンツの趣味が独自だとは思われてないから大丈夫ですよ! でも最初の時はらしくなくパンツが派手ねとは言われました」
ふと画面から目をあげると、編集部の皆が生暖かい目で俺を見ていた。
なんか父親の話をしていたのにパンツの話になっていた事に気が付いた。いかん、課題のテーマから外れてしまっている。
それに今の俺の話だけだと、親が少し不思議な人に思われそうだ。本当はごくごく普通の人なのに。切り取るべき場所を間違えた気がした。
「大丈夫よ! 素敵で面白いご両親なことはシッカリ伝わったから」
清酒さんは俺にニッコリと笑ってフォローの言葉をかけてくれる。
何処の辺りが素敵な両親だと言うのだろうか? 俺はハハハァと無意味な笑い声でそれに応えてしまった。




