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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
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修行の始まり

 教育係の決定の話し合いの後から編集社から宿題のように出される業務は激減した。

 その代わりにストレートに指導という形の会話が田邉さんとの間に増えたように感じる。

 それだけに【師匠】と田邊さんを呼んで従いたくなるノリで過ごす事で俺のバイト生活。これはこれでハリがでて編集部の時間が楽しくなった。


「君の資料を読ませてもらった。若いからかな? ネットからの情報を収集することも慣れているよな。分析も適切でシンプルに纏めていると思う」

 今日も編集部において俺は師匠からの指導を受けている。

「ありがとうございます!」

 弟子として師匠からのお褒めの言葉は嬉しいものだ。

「君の書いた本やブログの文章のときは分からなかったけど、理系的思考で文章を組み立てるんだな」

「レポートの記述の流れは基本プログラミングみたいなモノと考えて書いているからでしょうか」

 田邉さんは驚いたように少し目を見開く。そこにもっと目を丸くした清酒さんが加わってくる。他の人との会話に人が自由に出入りしてくるのもこの職場の特徴なのかもしれない。

「プログラムって文章なの?」

 好奇心爛々の目で清酒さんが聞いてくる。

 個室で教育うけている訳ではないのでそのように他の人が茶々を入れたり明るく絡んでくるのがここの職場の自由な空気。

「プログラミングは普通に言語ですよ。構文を組み合わせて司令書を作るという感じです。一般の文章よりも自由度はかなり低いかもしれません。

 文学的な考え方とは逆に、コチラはいかにシンプルに無駄のない処理司令で求める結果に導くかというのが大切になります」

 何故か清酒さんが食い入るように話を聞いている。

「なるほどな。それだからかな。シンプルで理路整然としすぎていてチョット素っ気ないんだよな。レポートの文章が」

 田邉さんが、俺の資料に視線を落としそのように言ってくる。

 俺はそのようにあえて書いただけに、そこが良くないように言われて戸惑う。

「報告書とかはあくまでも正確な情報を纏めるモノですよね。だからこそなるべく情報を分類して分かりやすく明文化するものと思っていたのですが……」

 レポートに求められるのは安易な想定ではなく、情報の正確性。それの裏付け。そう大学の講義で教えられた。

「確かに調査資料とかはそれで良いし、この資料で君に求められていることはシッカリ果たせている。

 ただ今後、君が……近いところでは卒論とかをこのように書いたなら良い評価は得られないだろうな。

 仕事する際に資料を纏める時はもう少し書き方を変えた方がその後の作業をしやすい」

 俺は田邉さんの言葉に身を乗り出す。卒論はそう遠くない俺の前に立ちはだかる大きな課題。それだけに気になる。

「書かれている内容が正確であること、理論的であること。そこは確かに重要だ。

 しかし人に何かを伝えたり訴えたりするものは、君がその漠然と並んだ情報の中で何処に注目していて、何を訴えたいのか? それを示す事が大切だ」

 当たり前の事であるのに、大量のレポートに追われ抜け落ちていた事に気付かされ俺はハッと顔を上げる。

「これらの資料は君は人から頼まれた調べ物だと言うことで、より自分の感情というのを抑えたというのもあるんだろう?」

「はい! そうです」

 俺は頷く。あくまでの記事を書くのはその資料を読んだ人。だから素人な俺の意見なんか入れない方が良いと思ったから。

「だが、君自身が記事にするために調べ物をした場合は、自身が面白いと思った事、紹介する際に問題となりうる点。その辺りの色分けを調査の段階からしておくと記事を起こしやすくなる。またポイントを押さえているだけに深堀りもしやすくなる。

 あと企画書を起こす際にも、下書きを同時進行しているだけに次の作業に移りやすい」

 俺は成程と力強く頷く。

 ある事象の何処を意識するのか? これって以前柑子さんに写真の撮り方を教えたときに伝えた事と同じだということに気がつく。人に偉そうに伝えておきながら、俺自身が忘れているとは情けない話である。

 何故か隣で一緒にふんふんと清酒さんが田邉さんの話を聞いている。清酒さんの指導係は有子さんだったので、横で聞いていたら違う角度の話が聞けて勉強になるかららしい。

「でも、あえて自分の伝えたい事を主張するために、不都合な真実は伏せる、もしくは事実を主張するために捏造することはするなよ!」

「はい! でもこの会社で扱う内容で、捏造とかいう事ありえるのですか?」

 田邉さんは苦笑し顔を横に振る。

「取材対象をより良い物と見せるために話を盛ったり、過剰に褒めて現実を誤魔化して見せたりと。やろうと思えば狡はできる。それをしていくと会社は信頼を無くす」

「なんか田邉(ナベ)さん俺の時と、指導の熱量と丁寧さが違ってませんか? 俺の時は放置だったのに〜」

 俺の兄弟子にあたる中堅社員でからのチャチャが入る。

 田邉さんは大きく溜息を吐く。

「それは、お前らが色々語ってやっているのに、面倒臭せえなという顔と態度でいるから俺も指導するのが面倒臭くなったんだろうが!

 学ぶ姿勢と謙虚さが根本的に欠けていたんだよ! そんな奴にはそれなりの事しか教えない!」

 先輩は肩を竦める。

「確かに可愛げなく、生意気な新人って最悪よね!」

 言葉を続けた有子さんの言葉に皆が笑う。

「お前がいうなよ! お前も相当だったぞ。太々しさと言ったら」

 先輩社員の言葉に有子さんは少しムッとした顔をする。

「まあその分バイタリティーとやる気も凄まじかったからな。

 傍から見ていて楽しかったな」

 さり気無く妻をフォローする田邉さん。有子さんは少し照れたように視線を旦那さんからはずす。

 そんな編集部の空気を楽しんでいたら、何故か田邉さんと目があう。

「逆にこの年代で野郎でこういうのも珍しいのかもな」

 俺ってそんなに何か変なんだろうか? その意図を聞きたくて視線を田邊さんに向ける。

「逆の意味で親の顔見てみたいわよね〜」

 有子さんまでがそんなこと言ってくる。

 その言葉に田邉さんが何かを思い付いたのかニヤリと笑う。

「乕尾。ここで課題だ!

 お前の両親がどういう人物なのか俺達に解説してみろ。

 ずっと見てきたお前のならではの切り口とか見せ方があるだろ?」

 師匠である田邊さんからの言葉に俺は固まる。

 俺の両親はごくごく平凡な人。そんなに人に話して楽しんで貰ったり感心されたりするような人ではない。先ほどの流れから盛るわけにもいかないどうすれば良いのだろうか。俺はウーンと声をあげて悩んだ。


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