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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
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働き改革……というよりアノ状況ですよね?

 田邉さんは俺の一週間の行動表をしばらくジッと見つめた後に視線をコチラに向けてきた。

「君はウチでの仕事についても調べ物してきてくれたり企画を立ててきてくれたりしているけど、それの時間はどこで捻出しているんだ?」

「それも、夜ですね。調べ物は電車の移動時間とかも……」

 俺が皆の期待するレベルに足りてなくて困らせているのだろうか?

 猫のように吊り上がった眼でジッとコチラを見ている有子さん。

 何故かまん丸の眼を爛々とさせて一週間の行動表を見つめる清酒さん。

 ため息を何故かついている田邉さん。彼らが何を今思っているのか分からない。

「今どき君のような、本当に真面目な学生っているんだな」

 田邊さんから出てきたのはそんな言葉だった。

「そんな! 私だって大学時代は超真面目な勤勉少女でしたよ!」

「遊びまくって海外に放浪までしたと言うアンタと一般学生を一緒にしないでよ。特にトラは良い子!」

 田邉さんに速攻二人の女性が言い返す。

「理工学部って、意外と課題の量も多いんだな」

 田邊さんは二人の言葉をスルーして俺に話しかける。

「俺がそんな講義を多めに受講してしまっていたのもあるんですけど……。

 教職や公務員は視野に入れていないからそう言う意味ではまだ……。

 あの、俺、皆さんにご迷惑おかけしていました?」

 そういうと、田邉さんは苦笑する。

「いや、清酒(タバ)ちゃんが君が九月から

バイトしだしてどんどん元気をなくしていと心配していたんだ」

 ここでも皆さんに心配をかけていたようだ。恥ずかしくなり皆に謝る。

「いや、責めている訳ではないから! 君は何も悪い事はしていない。

 そもそも勉強は学生の本分。今はそれは何よりも大事な事。

 むしろ我々の方に非があった。時給で働いているアルバイトの君に時間外まで無給で色々な作業をさせている。コレは会社として大きな問題でもある」

「いえ、ソレは俺がやりたくて勝手に作業してしまったことですし。俺自身が無知な事もあるので調べていると色々楽しくなって更に突き詰めていったら時間が過ぎていたという感じで。それも学びの一環ですし」

 そう言ってそれなりの時間を編集部の仕事に割いていた事を漏らしていることに気が付き俺は口を閉じる。田邊さんはいやいやと顔を横に振る。

「仕事を真面目に取り組むそれは当たり前の事で正しいよ。

 しかしそれぞれの仕事の領分というものもある。今のキミの状態はアルバイトというモノを超えたモノを求められて、それに応えようとするのに君の生活にまで影響を与えているのがオカシイんだ。 

 俺達も多少はプライベート時間に仕事を持ち込む事はあっても、生活を脅かすまではしない。

 アルバイトに過剰な業務を与えこき使い、良しとするのはブラック企業のやり方だ」

「あの、俺勤務時間を減らされると生活的に困るのですが……。

 来年度になればゼミのみになり、もっとコチラで仕事をできるようになりますから。今は……」

 俺の生活はパイト料もあるから成り立っている。バイト料が減るのは辛い。

「そこは安心して欲しい。君の勤務時間を減らす気は無い!

 業務内容を適正にしたいだけだ」

 やはり今の俺の仕事ぶりに問題が出ているということだろう。俺は緊張を高める。

「乕尾くん、ウチの社員もそこまでプライベートまで仕事は持ち込んでないぞ。

 清酒(タバ)ちゃんは旦那様と子供もいるから家で仕事をなんかしている暇もあまりないだろうし。

 俺も酒を楽しむ時間を削ってまで仕事漬けな生活はしたくない。

  有子さん(コイツ)なんて家で家事すらしたく無いスタンスで過ごしているぞ」

 田邉さんは奥さんからパンチを喰らっている。

「まぁそうでしょうけど」

 しかし今の俺は未熟だから足りない部分は自分で努力して補うしかない。となると時間外の作業も仕方がない気もする。

「俺達は君を便利に利用して使い捨てにするのではなく、育てて共に働ける存在にしたいんだ。

 その為の話し合いという訳だ。

 一番の問題は、俺達が君の扱いというのを、それぞれが都合の良いように考えてしまったこと」

「はぁ」

「アルバイトといいつつ、新入社員のように扱っていた」

「それは嬉しい事ですが」

 田邊さんは顔を横に振る。

「普通、ウチの新人は最初に一人教育係が指名される。そして新人君は教育係の元で仕事を与えられて勉強していく。

 しかし君はアルバイトという形態で入ってきた為に教育係という存在を設定されなかった」

 俺は頷く。確かに誰と仕事するというのではなく、編集部の皆さんそれぞれから声掛けられていた。

「その結果、皆それぞれが自分が乕尾くんを面倒見なければと教育係に勝手にしていた形となってしまっていたんだ」

 申し訳なさそうに田邊さんはそんな話をしてくる。それの何が問題なんだろうか? 俺は首を傾げる。

「そして、つい可愛くて可愛がりすぎたのよね~」

 有子さんがそう続ける。

「それは光栄ですし、皆さんに気を掛けて頂き感謝しかないですけど」

 清酒さんは眉を下げて困ったような顔をしている。

「その結果、普通の新人が与えられ、こなすべき課題の数倍になっていたのよ。さらに言うと乕尾くんは学業もあるというのに……」

 この三人がよく調べ物の資料の作成を依頼してきていたのは、アレは業務というより教育であったことに今更のように気がついた。

「久しぶりに新人として君が入ってきた事で、俺達の方が勝手に盛り上がって張り切った。俺達が完全に悪い」

 ウンウンと頷く清酒さん。

「そんな事は……」

「いや、君がソレに面白いように応えるから皆の課題もエスカレートしていたし。

 そこで乕尾くん! 君はどうしたい?」

 俺は自分を真っ直ぐ見つめてくる三人の視線に戸惑う。

「どうって。何をですか?」

「多分今の段階で関わりが多いのは、この三人だと思う。君は誰が良い?」

 俺は首を傾げる。

「誰が。とは?」

 有子さんのつり上がった目がキラーンと光る。

「教育係よ! 私たち三人の中で誰が良い? 迷惑かけたお詫びに、貴方に選ばせてあげる!

 やはり教育担当は一人に絞って仕事した方が、仕事量も管理しやすいでしょ?」

 そう言われて俺は悩む。

「いや、俺がというか、皆さんはどうなのですか? 会社としての都合もあるでしょうし……」

「会社が君にどう言う業務を今後任せるのか見極める前の段階だから。今は君がしたいように選べばよいよ! 相性とか好きな先輩とかの感じで」

 田邊さんは軽くそう返してきたが、そう言われると益々選びにくい。「好きだから○○さんにします!」なんて事になったら他の二人に失礼である。

 腕を組み穏やかに微笑んでいる田邊さんは。目力強くコチラを見つめる有子さん、ニッコニコとした笑顔を俺に向ける清酒さん。その三人の視線を受けて俺は焦る。

 両親が離婚してどちらについて行くか選ばされる子供って、こんな気分なのだろうか?

 俺はどうすればよいのだろうか? この編集部に来て最も悩む事案を突きつけられる事となった。

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