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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
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未来の為に

Joy Walkerでのインターンシップを終えた翌月の月曜日。俺は編集部のみなさんの前に立たされていた。

「今日から新しく此方でバイトで働く事になった乕尾夏梅くん。みんな可愛がってやってね〜」

 羽毛田編集長の言葉に皆苦笑している。

 それもそうだろう。送別会までして送り出した相手が、シラッと次の週、新人アルバイトとしてやってきたのだから。編集長と田邉さん送別会が金曜日だった事もあるが、皆のポカンとした反応から今俺の事知らされたようだ。

「アルバイト? どうせならそのままウチの子にしちゃえばいいのに!」

「そうなんだけどね〜乕尾くんまだ大学三年でしょ? だからツバ付けとこうかと」 

 田邉有子さんがニヤニヤとしながら言ってくる言葉に飄々と応える編集長。相変わらずテンポよく会話が弾んで交わされる職場である。

「改めて宜しくお願いします」 

 俺は皆に頭を下げて挨拶をした。こうして、再びJoy Walkerでお世話になる事となった。

 しかし、それは夏休みを利用して行ったインターンシップの時とは大変さが違った。

 一つはインターンシップの時の仕事は雑用が中心だった事と、一日編集部の仕事で集中できていた。

 しかし今は大学の講義もあれば課題もある。

 三年の進級時、貧乏性が発揮してどうせなら多めに授業を受けて将来の糧にしようとしてしまったこともある。

 進路に迷いがあったこと原因なのかもしれない。就職活動の際より有利にして進路の幅を広げるのは知識であると考えてしまったからである。

 それプラス来年ゼミのみとして、就職活動に専念する為に必修単位を三年間で取りきる意味もあった。

 実際履修して気がついた。二年時までの講義と三年目からの講義の内容の濃さの違い。

 より専門的な内容になったために、講義を受ける際に求められる心構えからして違っていた。

 予習復習は勿論のこと、講義の度に簡単なレポートなどの提出物を求められるものも少なくはなかった。

 前期はバイトがネットカフェだったこともあり、バイト中に課題や勉強ができた。

 しかし編集部だとそうはいかない。さらに言うと勉強すべき事が増えている。

 よく言えば質素。悪く言えば貧乏暮らしなこともあり、東京の方々の好きそうなお洒落な世界というのに俺は疎い。

 その話題になっているものがどういうモノなのか? そこから調べて理解するところから始まることもある。

 調べ物を頼まれ代わりに資料としてまとめる作業も頼まれるようになった。

 企画の段階から携わらせてくれる案件もあったりすると、アイデア採用されると限らなくても自分なりに色々調べてリサーチして纏めて企画的なものも作りたくなるものである。

 そうやっていると時間がどんどん足りなくなる。そして削られるのが睡眠時間。

 したがって慢性的な寝不足の日々が続いていた。


「モノちゃん今日は甘えん坊なのね〜」


 柑子さんは膝の上で目を閉じてゴロゴロと喉を慣らすものを撫でてニコニコとしている。

 就職活動真っ只中の柑子さんは、本命のペットフード会社をエントリー中でそのエントリーをする資料作成を一緒にする為にデートは俺の家。

 提出する小論文を書き終え一息ついていた。そしてモノは珍らしく可愛く甘えてみせている。

 サバは俺にピッタリとくっつき甘えている。

 猫達は、俺たちが色々と疲れ果てているのを察しているのか、サバはいつものように柑子さんに絡まないし、モノは可愛い子バージョンの猫となっている。

 気ままなようで猫は、というかこの二匹は意外と空気を読む。ご飯の要求以外はコチラが本当に忙しくて切羽詰まっている時は構って行動は控えてくれる。

 しかしコチラに少し余裕が出来たとみると通常時の四倍の熱量で迫ってくる。

 猫にかなり気を使わせているのかもしれない。


 俺だけでなく柑子さんも就職活動で疲労困憊。そうやってストレスを溜めて疲れている彼女を支え癒すのが恋人の役割だと思うのに、モフモフと癒しを与える相手しているモノの方がよっぽど役になっているような気がする。彼氏としてなんか情けない。

 二人でお揃いのマグカップでインスタントコーヒーを飲みながら、他愛無い話をするだけ。気が付くと畳で二人と二匹で、寝転び眠ってしまっていた。

 夕方になり目を覚まし、俺が作った焼きそばを二人で食べて家に柑子さんを送り届けて藪夫妻に挨拶して別れ週末デートが終わる。

  こんなデートしか出来ていない彼氏でなんか申し訳ない気がしてしまう。


 アパートに戻ると二階からシングが降りてくるところだった。多分ジローさんの部屋からの帰り。

 シングは最近俺が忙しいので、企業に提出するエントリーシートや小論文の添削を俺ではなくジローさんに頼んでいるようだ。

 しかしジローさんは、日本語に関しては俺よりも遥かに厳しいし細かい。シングとしては容赦ないダメ出しが多く、それで毎回かなり凹む状態となっているようだ。

「トラ〜俺を慰めろ」

 そう言って俺に抱きついてくる。そのまま自分の部屋ではなく俺の部屋に上がり込み、ふて寝をしてしまった。

「アヤツはフランス人の癖に、日本語に煩すぎる!

 今時日本人でもあそこまで気にしないと思わぬか? 礼儀だ作法だ! とイチイチ……」

 ちゃぶ台の上を片付けて、お茶を出してあげるとシングは上半身だけを起こしそれを飲みそしてまたふて寝を再開する。そんなシングを態々モノは乗り越えていく。

 申し訳ないが途中眠くて意識を飛ばしてしまったがシングは気にしていないようでボヤき続ける。

 ひとしきり愚痴って満足したのか、シングは機嫌も治り近くで毛繕いをしていたモノを撫でようとして猫パンチを喰らう。

「モノは今日もご機嫌斜めなのだな」

 それでもめげずにモノにちょっかいをかけ、一人と一匹は猫同士のようにじゃれあっている。

 最近感じるのはシングはモノとサバにとって、面倒な弟分のような存在なようだ。たまにしか俺の部屋に来ないノラーマンの二人のように威嚇とかされないから嫌われてはいないとは思う。

 シングはモノに完全になめられている。気安く触ろうとすると猫パンチ喰らうか、踏み越えられたりしている。モノに完全に下に見られているような気がする。


 しかし俺にとっては頼りになる兄貴分。

 同じ大学の同じ学科の先輩であることもあり、使用済みの教科書を知り合いから仕入れて来てくれたりする。

 俺が受けている講義の情報や教授の癖や対する対策を友達から仕入れてきてくれてそれを流してくれてかなり助かっている。

 俺の今使っている教科書に多国籍の言語の書き込みがあるのはそんな理由。

『どうだ! 俺もなかなか良い仕事をするであろう?

 感謝するが良い。

 今度お前が本出した時は、俺のこの素晴らしくも優しい良い友人ぶりをシッカリと書くように』

 その事にと恩着せがましい風の事を言ってくるのが、その内容が惚けているので全く嫌に感じさせないのがシングの面白い所。


 機嫌の治ったシングの語りを時々相槌をうちながらボンヤリと聞き続ける。シングの少し低い声と惚けた感じに聞こえるアクセントは何とも心地よい。

 気が付くと俺は寝ていたらしい。朝敷かれた布団で目を覚ます。

「トラオがんぼりすき! マジメにやすめ!」

 ちゃぶ台の上にはそんな言葉の書かれた紙がのっていた。

 シングらしい優しい言葉と誤字の手紙に俺は笑ってしまった。元気が出る。

 皆にまた心配をかけている。

 シッカリとしなければいけないなと、深呼吸をして気合を入れた。

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