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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
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サヨナラのイベント?

 インターンシップでの為、夏休みの間はかなりガッツリJoy Walkerで働いていたような気がする。

 インターンシップといいつつ有給。研修というより実践で仕事をすることが多く、扱いはアルバイトという形だった。

 母体である企業なら兎も角、そこまで規模も大きくないだけに人をただ教育するだけのために置いておくなんてことは出来ないこともある。また忙しいので手はあれば助かるという事もあったようだ。

 俺は主に俺のアパートのある地域の編集担当チームと行動する事が多かった。それだと土地勘もあり直帰や呼び出しも楽というのと、産休明けの社員である清酒さんのカバーという意味もあったようだ。

 東京で働く女性だからなのか? 清酒わかばさんはとてもママであると信じられないくらい可愛らしくそしてお洒落な方。

 編集部には我有さんタイプの女性が多い中、珍しくホンワカした感じの方。とはいえ仕事している時のテンションは他の編集記者さんとは違う方向で高く、やはりパワフルでタフな方である。産休中もベビー用品をモニターして記事にするという仕事をしていたらしい。

 子供は福利厚生がよりシッカリしている旦那様の会社にある託児施設にまかせているというが、そこは赤ん坊。熱を出したとか、吐いたとか電話がすぐかかってくる。代われるパシリ仕事は俺が担当という流れになっていた。

「お母さんって大変なんですね。俺、猫二匹飼った事で扶養家族が出来て親のような気持ちになっていましたが、清酒さんを見ていると甘かったと思いますよ」

 俺の言葉に清酒さんは吹き出す。

「まぁね~。ようやく言葉も出てきてコミュニケーションも取れるようになったと思ったけど……まだ人類になる途中の段階で会話をするレベルまで至ってないのよね。

 でも、二足歩行まで来たのよ! 人類到達までもうあと少し!」

 そう言ってキリッと顔を引き締める。そんな顔をしていてもどこか惚けた雰囲気を持っているのが清酒さん。

「いいですね! 人間同士として向き合えるなんて!

 うちの場合……永遠に猫のままで人間になりそうもないですから」

 俺がそう応えるとクスクス笑って「羨ましいでしょ!」と威張られた。

 ふと壁のホワイトボードを見る。ビッシリと書かれた皆の作業予定。手書きの俺の欄だけが一週間後から何も書かれていない。そう、もう夏休みが終わるからだ。そこに寂しさを感じる。

「なんか夏休みって、あっという間に終わるんですね~。また大学が始まると思うと切なくなってきます」

 清酒さんはブッと笑う。

「懐かしいな~そんな感覚。でも乕尾くんの場合は大学始まった方がのんびりできるのでは?

 夏休みウチでバリバリ働いていて盆以外ゆっくり出来なかったのでは?」

 清酒さんは産休明けだが、産休は長閑で呑気な休みでは無い。長期の休みでも学生の夏休みとは意味がまったく違うのだろう。

「わかばちゃん、まだまだ乕尾使いが甘かったのでは? 全然、余裕ありそうじゃん。

 こき使い倒しても大丈夫だったみたいね。

 惜しい事をした~。もっと仕事与えてイジメ抜くべきだった」

 うしろから声が聞こえ、田邊さんの奥様である有子さんが人の悪い顔で参加してくる。

 清酒さんとは違って、こちらは男に負けずにバリバリと働いている感じの女性。アクティブと言うよりアグレッシブに働く感じの方。

 編集部では旦那様である田邊副編集長ら相手とも喧嘩しているのではないかと言うくらい意見を激しく交わしている。

 大丈夫なのか? と心配になることがあるが、清酒さん曰くいつもの事。こう見えて二人はラブラブな関係だという。信じ難いが……。

 そうやって公私をシッカリ分けて仕事をしている所が大人なのだろう。

「仕事をいただけるのは嬉しいですが……イジメられるのは……」

 そう返すとカッカッカッと笑われる。

「愛あるイジメだから、『可愛がり』よ!」

 ここは角界ですか……。

「……言葉だけ聞いていると、怖いパワハラ発言ですよね」

 そう言うと清酒さんは笑いながらウンウンと頷く。

「虎尾くん、ここは諦めて心をシッカリもって頑張るしかないわ! 辛かったら私に言って!

 二人で先輩のキツい可愛がりに耐えましょう!」

 芝居じみた表情と言葉で言って俺の手を握って来たので俺も、乗ることにする。

「はい! 清酒さん!

 二人でこの苦境を乗り越えましょう! 清酒さんとなら耐えられます!」

 そういって二人で頷きあう。

「ちょっと! 何私を悪者にして二人で組んでるの!

 乕尾! わかばちゃんに手を出すと旦那様が怖いよ~」

 人妻相手に手を握るというのは、いけないことなのだろうか? それとも旦那様が嫉妬深い?

 そう思い視線を向けると清酒さんは「大丈夫、大丈夫! ウチの旦那様は全く怖くないよ! 紳士だし、優しいから」と何気に惚気けてくる。

「そうかな~。結構独占欲強そうなのよね。ああいう拘り強い男は……」

 有子さんは疑わしそうにそう呟く。

「でも俺のようなガキ相手ですよ……!

 それに清酒さんは素敵な方ですが、俺彼女いますし!」

 ついそう返してしまう。

「乕尾くんイイネ! 当たり前のようにそういう言葉が出てくるのは! 一途な男って最高よ!

 真っ直ぐな若い愛に萌えた~良きかな♪ 良きかな♪」

 清酒さんは納得したようにウンウンと頷いてくれた。

 何故か有子さんは呆れたように溜息をつく。多分コレは俺の言葉ではなく、清酒さんの言葉への反応だろう。そしてそんな反応を清酒さんは気にせずニコニコ笑っている

「でも、乕尾くんが来られなくなるの、寂しいわよね~」

「ようやく使えるようになった所で終わりとはね」

 清酒さんと有子さんは別の意味で、俺のインターンシップの終わりを惜しんでくれているようだ。

「そうだ! 頑張った乕尾くんの慰労会しない?」

「いいね! 乕尾をつまみにお酒飲むの! わかばちゃん清酒くんはいいの?」

「これだけ私を助けてくれた恩人のための会ですから! ダメなんて言うわけないじゃないですか! ちゃんと予定を伝えておけば娘の事も任せられるし」

 そう言って旦那様にLINEで連絡入れている。

 まあ、俺は予定はないのでいつでも大丈夫ではあったのだが、俺の都合は聞かれる事なく有子さんは他の人へと声をかけて都合を合わせ出す。

編集長(ハゲ長)副編集長(ヒゲ長)は、今週本部での経営会議中でいないから声を掛けなくていいか! オッサン入れても盛り上がらないし」

 有子さんは編集長と旦那様である田邊さんに対して色んな意味でヒドイ事を言っている……。

 取り敢えず与えられた仕事に戻って作業している間に二日後に送別会は決まったようだった。



 そして残り二日を残すタイミングで俺の送別会は行われる。送別会といいつつ、結局一度も会ったことも無い人ばかり。同じグループ会社の社員さんまで来てよく分からない盛り上がりを見せていた。

 清酒さんの完全復帰祝いも兼ねていて、盛大なものとなっている。

 皆にとって単なる飲み会でもないようだ。清酒さんは子育て系の出版をしている会社の人と意見を楽しそうに交わしている。自分の事も含めて色んな事に意識を向けて過ごしている。

 要はどんな理由でも飲み会を楽しみ、様々な話題をして情報交換の場となっているようだ。

 普通の飲み会な話題プラス出てきた料理についてとか、お酒についても分析して語る人がいるのも、この業界ならではなのだろうか? 

 結局俺は『初めまして!』の旅行雑誌を出しているという方の仕事の話を楽しんている。

 インターンシップでの感謝の言葉を告げるなんてイベントもなく送別会は終了した。



「え~乕尾くんのお疲れ様会、もう終わらせてしまったの~なんでボクを呼んでくれなかったのかな~」

 次の日会社に行くと、羽毛田編集長が不満そうな顔をしていた。達磨さんを彷彿させる風貌でのほほんとした感じの方だが、清酒さん曰くこう見えて敏腕編集長だという。

「ねぇねぇ、乕尾くん! ならば今日は俺達とやらない? 美味しいモノ奢るからさ~いいよね?

 田邊くんもくるよね」

 つぶらでギョロっとした目を横にいる田邊さんに向けて俺ではなく、田邊さんに声を掛ける。

 そうして二日連続の送別会? お疲れ様会? 飲み会? が開催される事になった。

前話から登場している田邊さん、そしてJoyWalkerの会社の皆さんは【私はコレで煙草をやめました?】に出てきているメンバーです。

若葉さんの旦那様の清酒さんは【スモークキャットは懐かない】の主人公となっています。

あの物語で恋に仕事にと悩んでいたわかばさんはこんなに逞しくなっています。そして田邊さんの奥様の有子さんは、井上先輩です。

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