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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
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めざす道は見えた

 タンタンと軽快な音を切られていく濃緑の艶やかなゴーヤ。

 白いホーロー鍋の中薄切にしたゴーヤが砂糖と共にグツグツと煮えていく。作務衣姿のジローさんはゴーヤから出てくるアクを丁寧に取っている。

 髪をシッカリ縛って纏め、真剣な表情で鍋を見つめるその姿は本職の料理人のように見える。その様子を俺は撮影している。

「乕尾、手元だけでいいよ。俺なんか撮っても仕方がないだろ」

 ジローさんは笑う。

「いや、料理をしているジローさんカッコイイですよ! なんか有名なお店の板前さんみたいで」

 ジローさんは笑う。

「こんな板前なんていないだろう。そもそもこんなに髪を伸ばしたりもしないで、短く刈り込んでいるよ」

 そうは言うが、ジローさんは絵になる。元々整った顔立ちに青い眼に金髪で華やかな顔立ち。それに和装という存在を引き締める要素。被写体として最高に面白い人なのに本人はあまり意識していない。

 レモンを切るだけでこんなに絵になるのもジローさんだからだと思う。

「こんなに和装を着こなせて決まる人って現在ではあまりいないですよ! 本当にカッコイイです」

 ジローさんは笑って顔を横に振る。

「レモンの絞り汁を入れて……コレで出来たみたいだけど、味見する?」

 ジローさんはスプーンをとって鍋の中のゴーヤをを掬い俺に差し出してくる。

「ハイ!」

「熱いから気をつけて……」

 俺はドキドキしながらスプーンを受け取りそれを食べてみる。ゴーヤの苦味は殆どなく、レモンの香りが爽やかで美味しい!

 八百屋の金屋さんから教えて貰ったゴーヤのジャム。あのゴーヤが本当にジャムとして成立するのか半信半疑だったが砂糖と煮てレモンで香り付けすると見事にジャムとなっていた!

「美味しいですね! 味はなんか……キュウイに近い?」

「そうだね。面白い。

 撮影用にはバケットと珈琲で良いかな? テーブルの上片付けて」

 俺達が今しているのはYouTube番組の『ねこやまもり』の追加撮影。



 町内会でチョットした料理番組を企画する事にした。

 というのも最初は各店舗の紹介という形で番組も組み立てていけたが、紹介するイベントも無いとネタがない。お店を紹介をまたするにしても、切り口を変えなければ同じ事の繰り返しになりマンネリに繋がる。



 そこでもう少し踏み込んだ内容にしておくことにしたのだ。先ずは旬の食材を使って簡単に作れる料理を、八百屋の金屋さんの魚屋さんの牛島さん、肉屋さんの魚住さんにインタビューしてこの暑い季節何を食べると良いのか? 何が美味しいのか? この食材はこう食べるも良い、という話を聞いた上でその料理を作って貰うというもの。

 そして先日三回分の撮影をTERAKOYAの教室にあるキッチンで調理してもらい撮影をした。

 

 最初テーマは、【夏バテ解消レシピ! その道のエキスパートに聞く、夏バテさよならねこやまもり料理】 

 ゴーヤチャンプルーとネバネバサラダと夏野菜の浅漬け。

 ゴーヤチャンプルーはゴーヤの栄養を最大限に生かして食べて体内に吸収できるという素晴らしい料理だったらしい。そしてネバネバ系野菜と納豆は抵抗力を高め。野菜の浅漬けは前もって作って置けば手抜きでサラダとなり便利だという。



 二本目もテーマは同じで夏バテ解消レシピで、魚屋さんでの売っているハギレ刺身を使ってのチラシ寿司。それと冷や汁、そしてジャコとワカメのサラダ。

 チラシ寿司は胡麻やミョウガ等の薬味がタップリ入っていて見た目はなかなか豪勢! 

 そして単なる冷たい味噌汁なだけと思っていた冷や汁も、味噌を焼いてから溶かすという一手間加えであることで独特な風味を持つ素敵な冷製スープとなっているのとに感動した。タップリ入った擦り胡麻が香りがまた素晴らしい。まさに食べて元気がでる味だった。



 三本目のテーマは【疲れた夜は手抜きゴハン】

 そして肉屋の魚住さんは自分のお店のお惣菜を使った手抜き料理の紹介。唐揚げの上に刻んだトマト等のソースをかけると凝った感じに見えるとか。カツを使ってカツとじ丼やカツサンドに活用。ポテサラの上にチーズを乗せてグラタンぽくしたりと、自在なアレンジが面白かった。俺が一番活用出来そうなメニュー満載だった。

 

 俺がインターンシップで忙しくなったということで、三回分を纏めで撮影をした。その時の雑談の中で金屋さんから聞いたゴーヤのジャムが面白そうなので、番外編としてジローさんの部屋で作って撮影する事にして今の状況。



 風合いのある木のテーブルに和の味わいのあるランチョンマット。ボテっとした武骨な陶器の皿に乗ったコンガリ焼けたバケットにとレタスと庭でなってたプチトマト。そして瓶に入ったゴーヤジャムとクロテッドクリーム。ソレと珈琲。

 なんか『ヒダマリSANポ♪』の誌面に負けないくらいオシャレな感じになっている。ソレを二人で食べて感想を述べて撮影は終了する。



 丁度お昼だったこともあり、二人でそのままお昼ご飯にすることにする。

 温かみののある陶器のマグカップで珈琲を飲むジローさんはテレビコマーシャルの一シーンのように決まってる。

「しかし、こういうのを食べているのを見ると、ジローさんはフランス人なんだなと思います。

 クロテッドクリームが普通に冷蔵庫にあるし、フランスパンが部屋に置いてあるのを見ると」

 ジローさんは何故か吹きだす。

「どちらも日本の家にも普通にあるだろ。乕尾の考えるフランスのイメージって……」

「それは分かっていますよ。でもジローさんの手料理で和食では無いのを食べたのが初めてだから新鮮で!」

 珈琲はご馳走になった事はあるけど、ソレについてきたのは和の食材ばかりだった。

「そうだったか?」

 ジローさんはゴーヤジャムとクロテッドクリームを塗ったパケットを頬張る。

 シングやスアさんは味付けとか、国ならではの風習とか見せてくれる事もあって、インド人だな~タイ人だな~と感じさせてくれる事は多い。

 しかしジローさんは日本ならではの風習を改めて学ぶ事はあっても、フランスっぽさを感じた事が全くなかった。

 これだけ西洋人らしい容姿をしているというのに……そこがジローさんの面白い所なのかもしれない。

「今までジローさんからは日本の事を色々教えて貰いましたが、フランスの話は聞いた事ないですね。

 聞きたいです。フランスについてのお話も」

 ジローさんは青い目を細めて柔らかく笑う。

「別に祖国を否定している訳では無いけどね……。どちらも愛する国だ。

 確かに言われてみると、俺は日本に傾倒しすぎているのかもね……。

 交流って交わるという字があるように双方を理解し合うということでもあるよね。

 今度俺の家のおふくろの味とかご馳走様しよう!

 だから乕尾も岩手の事も、もっと教えて日本の事だけでなく乕尾の事も知りたいし」

「俺の実家は本当に田んぼしかない田舎で何もないですよ」

「俺の方もそうだよ。

 どうもフランス人と名乗るとパリを皆想像するみたいだけど、俺の生まれた所は田舎。

 本当に田園風景しかないようなところで……でも美味しいワインで有名かな━━」

「それはそれで、素敵なですね!

 俺の住んでいる所も。有名な日本酒の造り酒屋があって。なんか似てますね。多分広がる風景は全くちががうのでしょうが……」

 二人で互いの故郷の田舎度競いを楽しんだ後に俺はふと思いつく。

「国際交流センターも近くにありますし、今度根来山森に住む外国人の人に、おふくろの味を紹介してもらうのも楽しそうですね。

 飛行機に乗らなくても根来山森は世界に繋がっでいるみたいな切り口で。外国料理の店に協力してもらうのでも良いし」

 ジローさんは青い目が見開らく。青い目がキラキラと輝いている。ジローさんの目は表情が豊かで気持ちが分かりやすい。

「それは面白そうだね! 今度商店街の人やセンターに声かけてみるよ」

 楽しそうに手帳にジローさんは書き込む。こういうメモも日本語な所はガチに凄いと思う。そして使っているのは、祖父からの贈り物だというデュポンの万年筆。

「ところでインターンシップの方はどう?

 日本の就職活動も大変だよな。何と言うか……踏まなきゃならない手順が多くて……。毎年このアパートにいる学生が泣いているよ」

「ですね……でもインターンシップは楽しくやらせてもらっていますよ。幅広い仕事に携わらせてもらって良い刺激をうけてます。

 とはいえ雑用ばかりなのですが……色んな所に行って人と交流して、毎回ワクワクしながら仕事させてもらっています」

 そう言って珈琲を飲む。俺がいつも飲んでいるインスタント珈琲と違って香りが高くて美味しい。

 美味しい珈琲、気に入った器での食事。

 こうやってあらゆる所で生活を楽しむ。美意識が高く自分の価値観を貫き通す。そこはジローさんがフランス人らしいと感じられる所かもしれない。

「乕尾、見ていても楽しそうだと分かるよ。

 番組の企画でも今回以前より活発にそして新しい意見を展開していたし。良い体験しているんだなと思った」

 そう言われて俺は照れてしまう。

 会社の中で働いている人は、皆パワフル。自分のアイデア等を活発に発して、意見を交わし楽しそうに仕事をしている。

 単なるインターンシップでそこにいるだけの俺がそれに加わる事が出来る筈もなく、自分の仕事をアクティブにこなす人たちを憧憬の気持で眺めていた。

 その気持ちもあって、『ねこやまもり』の企画会議でいつも以上に張り切ってしまったこともあるのかもしれない。

「やりたい事見つかった?」

 優しいジローさんの言葉に俺は素直に頷く。なりたい自分というのがインターンシップで見えてきた気がした。

「良かった。進むべき方向が決まれはそれに向かって進めば良いから。もう迷わないね」

 俺はその言葉に頷き真っ直ぐジローさんの目を見つめ返した。

 俺の悩みも聞いてくれてずっと見守ってきてくれた瞳がそこにあった。

 いつ見ても綺麗で、つい魅入ってしまう。青い目といいつつ、その色合いは複雑で、薄茶な部分や緑っぽい部分もあり、それらが合わさって感じるのが深みのある青。

 この目の色に合わせて着物の小物をつけているジローさんのセンスはやはり凄いと思う。日本人にはとても出来ない着こなしである。

「まぁ、俺よりもシングや柑子さんが真っ最中で大変なんですけどね」

 ジローさんは少し考える仕草をする。

「柑子ちゃんはシッカリした良い子だから大丈夫。彼女も目標と意志をシッカリ持っているから、それに従えば自ずと行きたい場所にたどり着く」

 その言葉に俺は頷く。今二社で最終選考だと言っていた。

「シングは?」

 日本に残りたいだけという不純な動機しかないシングが少し心配になる。まあそれなりにエントリーをこなしているようだが……。

「あいつは、度胸と愛嬌あるし、可愛い振りしてしたたかな面もあるから大丈夫だろう。タチの悪い猫のようで、生意気なのに人の懐に入るのが上手い。

 それにぜんぶ落ちたとしても、今内定もっている会社での販売も意外とあっているのでは?」

 俺はジローさんの言葉に納得して笑ってしまった。シングを猫っぽいと思っているのは俺だけではなかったようだ。



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