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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
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やりたい事

 就活真っ最中のシングと柑子さん。夏を前に内定は貰えていた。

 と言っても貰ったのはシングは誰もが知る大手家電量販店、柑子さんは大手DIYショッブで、いずれも第一志望の企業ではない。シングはコレで日本に残れると少し肩の荷が降りたようだが、柑子さんは狙っている会社を受ける前で悩みを深めていた。

 そして今エントリーする時に提出する小論文のテーマを前に悩んでいる。学校で学んだ事や、学生時代力を入れてきた事。そう言ったモノならまだ良い。

「貴方がこの企業で成し遂げたい事」「入社したら貴方はどのように会社や社会に貢献するつもりなのか?」なんてどう書けばよいのか? 新入社員がいきなり天下取る的な発言とかしてもよいものなのか?

 俺の部屋で二人で悩みテーマと方向を探る。

 柑子さんの実家が動物病院であることもあるのだろう。柑子さんの意見はペットが元気に過ごせるような方向の言葉が多かった。病気や怪我の動物を小さい頃から見てきた事から、ペットが怪我や病気の時でも飼い主共々負担が少なく穏やかに過ごしてもらいたい。そういうスタンスで今まで過ごして来たのが良く分かった。

「柑子さんは何故獣医師にならないの? 優しく患者家族を安心させるお医者さんになりそう」

 これだけ愛情深い女性だけに、大変な状態になっている動物を救い寄り添う、薮先生と同じ道を歩もうとするのかとばかり思っていた。今の病院はお兄さんが継ぐにしても、柑子さんも同じ道を目指しているのかと思っていたから聞いてみた。

「なりたいと思ったことはないことはないよ。

 私は父さんや兄さんのような覚悟も度胸もない。キツいよ動物のお医者さんは……辛そうにしている猫ちゃん、ワンちゃんとかを見続けないといけないことを考えるとね。子供の時病院で預かっていた子や顔見知りの子が死んでしまう度に泣いてた。そんな人に医者は無理」

 柑子さんは少し悲しそうに笑う。そして目の前にいて甘えてくるモノの頭を撫でる。サバの柑子さんへの敵意丸出しの態度は相変わらずだが、モノは柑子さんを気に入っているようで部屋に来ると意外と歓迎した態度で接する。

 しかし何故卓袱台の上に乗り、俺達の間と微妙に邪魔な場所にいるのだろうか? キーボードを半分隠していてパソコンも使いにくい。

 サバはこの暑い日に片手を俺の膝に乗せた格好で俺に引っ付いている。しかも何故爪を出し俺のジーンズにくいこませた状態でいるのか? サバを見るとジトっと、見上げてきて目があう。そして時々鳴いて何かを訴えている。その強い視線の意味は謎だが、その爛々とした様子は元気そのもの。

 しみじみと思う。良くぞここまで小憎らしいほど元気になってくれたと。あの時を思い出すだけでもハラハラ出来る。ついその頭を撫でてしまう。

 俺は血だらけのサバ、グッタリとしたサバそういった姿を思い出す。あんな状態の動物と常に向き合い続けるのは確かにキツそうにも感じる。

 薮先生も言動は厳しかったけど、あんな状態のサバを見ていた目は冷たさはなくむしろ熱かった。そして自分も痛みを感じているかのように顔を顰めていた。

「薮先生は、患者に向き合ってくれる先生だから、皆も家族というべき存在を預けられるよね」

「そう父の事を言って貰えると嬉しいな。頑張らないとね私も!

 他所でノウハウ手に入れて病院の一部を間借りして犬猫美容院とか開くのも手かな? 我が家も一族多角経営時代に突入させるとか」

「それも素敵だね。応援するよ。

 でもウチの猫は美容院とか行かなさそう。あの顔だし、お洒落には程遠……イタッ」

 サバが爪を更に強く食い込ませてきた。猫って結構人間の言葉を理解していそうに感じる。それでいてコチラが訴えた時は無視してくるという……よく分からない所がある。

 見下ろすと目が合う。目ヤニもなく健康そのものの姿。

 家にきて一年。毛並みは見違える程綺麗にはなった。しかし顔は相変わらずどころか、少し丸くなり益々ふてぶてしさがパワーアップしている。

「ナツくんは? 動物カメラマン? それとも執筆活動を続けるの?」

 俺はそう言われて返事に困る。本を出してから皆に言われる言葉。

「いや、どちらもアマチュアだよ。本も身近な感じの素人臭いノリがウケて話を頂いたようなものだから」

 そう言うと納得していないように柑子さんは首を傾げる。

「私は大好き! ナツくんの文書も、写真集も、言葉も声も!」

 ニ"ャー!

 サバが柑子さんの言葉によく分からない合いの手をドスの効いた声で入れる。

「ありがとう。

 でもそれは柑子さんが俺を贔屓目で見ているから……」

 俺は照れ臭くなり目をそらしてしまった。しかし柑子さんはそんな俺を見てフフフと嬉しそうに笑っている。

「もう! 俺をからかって楽しんでるだろ」

 そう言うと柑子さんは驚いた顔をして 顔をブンブン横に振る。

「本気の本気よ! ただ照れたナツくんがなんか可愛くて……」

「カワイイって……俺の何処が……」

 柑子さんにとってやはり俺は頼りない存在なのだろう。カッコイイという言葉は聞いた事がない。言われても照れるだけだから困るけど……。

「なんか怒っている? 揶揄うとか意地悪とかの気持ちじゃなくて純粋に嬉しくて……ナツくんを近くに感じて」

 柑子さんの言葉に驚いて下に向けていた視線を上げる。困ったような、顔をしている柑子さん。もしかして柑子さんと俺、気がつかないうちに溝が出来ていた? 今猫が間に二匹にいて、物理的にも少し間が出来ている。

「え? 近くにって?」「ナツくんは、何も悪くないの! 私が焦ってしまっただけで……」

 柑子さんは俺の言葉を遮るように喋りだす。

「本を出版したりして……なんか私の彼というより……皆のトラオくんになってしまった感じで」

「……俺は俺のままだよ。なにも変わってない。むしろスゴいのは柑子さんの方だよ」

「……なんの特技も才能もない。就職活動していても長所としてアピールする所を探すのも大変な状態なのに?」

 そう言って柑子さんはうつむく。

「柑子さんは、俺なんか足元に及ばない素晴らしい人だよ! 一緒にいると俺凄い元気になるんだ。幸せな気持ちに。コイツがあんな事になった時も、柑子さんの笑顔で、なんか少し落ち着けたんだ。

 それに。俺と違って将来設計も出来ていて夢を待ちそれに真っ直ぐ進もうとしている。

 そんな柑子さんか眩しかったのと同時に焦ってしまったんだ。

 俺……柑子さんに置いていかれそうで」

 柑子さんは目を見開き俺をみる。丸い目がますます丸くなっている。

「私は平凡な専門学生で、普通の人だよ」

「俺がだよ平凡なのは。単なる学生で、お洒落も知らないダサい男でしかない」

 そう返すと柑子さんは顔を上げ顔を横に振る。

「出版の話も、俺の才能というより、コイツらのこの存在感が大きいと思う」

 俺はそう言って近くにいるサバとモノに視線を向ける。ブャッっと声を上げるサバの頭を撫でその頬を揉む。フェイスマッサージは最近彼女のお気に入り。モノは顔を触られる事を嫌がるがサバは恍惚な表情になる。それが可愛い。

「この人を何とも惹き付けるこの不思議な魅力。他の猫にはないこのオーラ。本当にお前ら面白いよな。只者ではない」

 サバは目を細めゴロゴロと喉を鳴らし始める。モノも降りて来て膝にのり俺に甘えてくる

「初めて会った時は、なんて面構えの猫だ! と思ったのに。見れば見るほど可愛く感じてくるコイツらの魅力ってすごいよね」

 柑子さんはフフと笑ってモノを、抱き上げ俺と同じようにモノを撫でる。

「確かに他にはない個性をもった猫さんたちよね。

 でもね、この子達だけの力ではないと思うよ。出版の話がきたのは。

 ナツくんだから! ナツくんの言葉や写真にはね、ナツくんが詰まっている柔らかくて、優しくて、温かくて。私の好きなナツくんそのもの」

 柑子さんのこういう真っ直ぐ見つめてベタ褒め、何度されても照れる。俺はモジモジする代わりにサバを揉んでしまった。

「柑子さんにそう言ってもらえるなら、あの本も出して良かった」

 ニッコリ笑い頷く柑子さんにつられ俺も笑ってしまう。柑子さんの笑顔が素晴らしすぎて可愛すぎる。

「なんか、最近本の話すると困った顔するけど、ナツくんは後悔しているの?」

 首を傾げ聞いてくる柑子さんに俺は横に顔をふる。

「いや、色んな経験を得れて良かったと思っている。

 今までネットで文章とか写真を散々公開していながら、読む人の事なんて考えていなかったから。

 コイツらすごいだろ? こんな面白い事があったんだ! とか一方的に話しているだけの感覚だった。

 でも今回の事で相手に届くようにと、受け取る側の存在を意識出来るようになった」

 サバは俺の腕に抱きつきスリスリと顔を擦りつけてきている。完全に甘えん坊コースに突入している。

「俺、出版作業してみて改めて考えたんだ。人に理解してもらう、楽しんで貰うって事は本当に大変なことなんだと。それまで軽い気持ちで書いていたけど、改校作業で文章の向こうに人が居ることを意識して考えさせられたんだ」

 その感覚はYouTube番組【ねこやまもり】でも生かせるようになったと思う。今までは兎に角伝えたいという、気持ちが強すぎて伝える側の気持ちばかり押し付けていたように思う。それを少し客観的な気持ちも持てるようになった。

「俺が悩んでいるのは、進路の事。

 柑子さんやシングが自分の目標をしっかり決めて就職活動をしているから余計にそんな事を考えたんだと思う。

 そして友達とか知り合いに進路の話しをすると本の事を出されて執筆活動をするのでは? とかその道に何故行かないのか? と言われ戸惑っているんだ」

 柑子さんは優しい目で俺を見つめてきてくれている。だから俺は最近悩んでいた胸の内を漏らしていた。またサバの温さとゴロゴロ音も気持ち良い。

 俺が書いたのは小説でもない。またこの二匹の事を描き続けて生活費をかせぐという事は無理だろう。

 エッセイストは仕事となると常に発信していくネタが必要。若い俺にはそんな他者に発信し続けたいテーマも、それを探求し続けるだけの気力もない。ただマッタリと生きてきて、その事を本にしただけだから。

 人を楽しませたり感動させたりするような人生も歩んでいない。だがら人が言うような印税生活なんて有り得ない。

「ナツくんのしたい事って?」

 俺は首を横に振る。

「それが分からない。だから悩んでいるんだよね」

 俺は苦笑するしかない。

「ナツくんが楽しい事は?」

「こうしてサバたちと戯れながら、柑子さんと話している事かな? でもダメだねそれは仕事ではない」

「それは私も一緒! こういうナツくんとの【まったりタイム】最高♪ 癒される」

 二人で顔を見合わせて笑いあう。そして見つめ合いキスをした。

「イタッ!」

 腿に痛みが走り思わず声をだす。サバが爪を立てたようだ。手が止まったから、もっとモフれと催促しているのだろう! コチラを睨んでいる。

「何故君は女の子なのにそう暴力で訴える? 言葉で普通に頼めばいいだろ」

 俺がサバにクレームを入れているのを見て柑子さんは笑っている。

「なんかナツくんは、人間を含めた生物全般にモテるから。執筆活動とかで家に籠って個人でする仕事より人と触れ合って何かをする仕事の方がむいているのかも」

「それってどんな仕事? 営業的な」

 柑子さんはウーンと考え込む。

「ちょっと違う気もするけど……分からないけど人と笑っている姿が、一番ナツくんらしい気がする」

 俺たちの会話を何故か真横で二匹の猫が視線を俺と柑子さん交互に動かし聞いている。

 そして時々謎の鳴き声をあげる。二匹なりに俺の未来について何か意見を言っているのだろうか?

 二人で顔を見合わせてまた笑ってしまう。

「今は柑子さんの小論文を仕上げる方が先だね」

「助かります! トラオ先生!」

「先生はやめてよ!」

「編集部の人そう言ってたよ!」

「サイン会の時だけだろ? それ以外はくん呼びだよ。

 それよりさっきの流れで文章組み立てるとして結論をどう持ってくるかだよね……」

 俺の悩みはまだ猶予はある。先ず先に就職活動している柑子さんの為に頑張る事にした。

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