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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
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卓袱台囲んで国際会議

 俺は部屋で壁に持たれ二匹の猫のブラッシング作業をしている。先に終えたモノはベランダの手摺の所に行きハマっている。

 猫を飼い始めてから、網を貼りそこから二匹が出られないようにしたことで手摺が、再び二匹のお寛ぎ空間になっていた。

 サバはブラシをもつ俺の腕に絡みつき甘えてくるから捗らない。俺はそんなじゃれ付きを宥めながら猫の毛皮の衣替えをはかっていた。

 猫は暖かくなるにつれて冬のモコモコ毛が抜けて夏仕様となる。

 その為毛繕い等の自然に任せると部屋が毛だらけになるのでマメにブラシをかけ毛を取り部屋に散る毛を抑えるように頑張っていた。しかも毛はレジ袋にタップリ取れるので変な達成感もある。


 猫って面白い事に、首筋などを撫でてやりブラシをすると、自分で毛繕いしている気分になるのだろうか?

 目を気持ち良さそうに細めて後足をパタパタさせる動作をする。それがなんとも可愛い。

 サバも左後ろ足があるていで身体を動かす。

 左後足を失っても思いっ切り後ろ足で身体を掻いている気分を味わって楽しんでいる。それなら代行毛繕いも意味があるのかもしれない。

 俺はせっせとサバの毛繕いのお世話をしていた。


 そんな俺の視線の先には卓袱台を囲んで難しい顔をした三人がいる。

 シングは丹精な顔を顰め悩んだ顔をして卓袱台の前にいる。それに向き合うようにジローさんとスアさんが座っている。

 ジローさんが着物姿で腕を組みスアさんがエプロンつけていることもあり昭和時代の日本のお茶の間の親子の姿のようだ。ドラ息子が厳格な父親と母親に叱られているみたいな感じ?


「あんたって子はもう……まず、頑張る所からして違うでしょう」

 スアさんのそんな言葉が、姉を通り越してオカンな雰囲気を出してしまっている。


 父親がフランス人で母親はタイ人、息子はインド人なので、劇としては明らかなキャスティングミス。しかしこれは劇の舞台でもなく俺の部屋で、人生相談が展開されているので、三人は大真面目である。


 今シングは進路相談をしていたのだが、人生相談まで話は発展し、さらに外国人が日本にいる事の意味といった話題まで発展してしまい俺の出る幕はもうない。


 俺が何故お客様をほっといて猫のお世話をしているかというと会話に入れなくなったから。

 人生経験豊富でよりシングの立場に近い二人に比べても俺は何の役にも立たない。

 言えるのは「頑張れ」の一言だけである。しかも三人は議論しているのではなく、ジローさんとスアさんがシングを叱っている状態。俺は叱られていないし、叱る方にも加わりたくないので猫と過ごすことにしていた。


 なら何故俺の部屋でそんな状態に? と思うかもしれないが、シングは最初俺の部屋にいつものように寛いでいたというか愚痴っていた。

 シングが庭を歩いていたジローさんに相談があると声をかけ部屋に呼び入れ、数分後に作りすぎたというおかずをスアさんが持ってきたことで今の状況が出来上がった。


「そもそも日本の就職活動って何でこんなに面倒くさいのか……」

 というシングの言葉から始まった。

 それはシングが三年になった事で、就職活動が早くもスタートしたことにある。

 三年から? と思われるかもしれないが四年は活動を即実行する時。その為に三年から業界研究、インターンシップ参加、面接対策、エントリーシートの書き方等を学び準備しておく必要がある。 

 俺も大学主催のセミナーの就活資料を見せてもらったが読むだけで正直ゲンナリする内容だった。

 それに加えシングには留学生というさらに敷居を高くする要素があった。

 能力や人間性プラス語学力の問題、在留資格の問題とさらに面倒な事が多い。

 三人の話を聞いて改めて海外の人が日本にいるという事の意味を考えさせられた。

 外国人が日本にいるには公的な理由が必要なのだ。観光する為、学校で勉強する為、仕事する為。その証明するものと許可があって初めて日本で過ごせる。

 つまりシングは学生のうちに就職先を見つけ在留資格を切り替えねば日本には居続けられない。

「それは今の時代何処の国でも同じだよ。

 ある程度成熟した国なら外国人がその国で働くにはそれなりの制約があるし、働くには証明書なり資格が必要だ」

「まずあんたは、日本で働く動機からしてダメなのよ!」

 そう厳しい言葉を投げられてしまう。

 外国人が仕事するには通称就労ビザという在留資格が必要になる。コレがまたややこしく、業種毎に分かれていて種類が多い。異業種に転職する際は該当する在留資格を取り直さないといけない。

 スアさんはタイ料理の資格を持つが、あくまでもタイ料理を作る人の資格で、別の国の料理シェフには該当しないという細かさ。

 スアさん曰く、タイ料理だけは五年の実務経験で済むのでよかったが、他の国の料理人だと取得するには実務経験が十年必要ならしい。

 スアさんはタイ料理人としての資格で日本にいて、ジローさんは学生ビザから入り専門分野資格を経て、今では永住権を取得しているという。

 驚く俺に『永住権なしだと信用が低くて企業経営なんて色々面倒くさくて出来ないよ』と平然と返された。


 シングは在留資格について聞きたかったようだが、余計な一言がいけなかった。

「トラオ! お前には妹か独身の従姉妹とか居らぬか? その子と結婚したら永住権すぐ得られるではないか!」

 その発言は半分冗談だったが、二人の怒りのツボを見事に押してしまって、そのまま説教タイムに突入してしまった。


 漸く、シングの将来についての話に戻ってきている。

 そもそもシングは日本で何をしたいのか? と聞かれ悩んでいる。

 シングとしては、何処でもいいから日本の企業に就職して日本に残りたいようだ。何がしたいというのまでない。

 しかし何をしたいのか? どんな仕事に就きたいのか? その質問は俺にされても悩ましい。

 俺も理工学部電子・情報学科にいるが、夢をもってこの学部を選んだ訳ではない。

 得意な分野で大学受験を選んだ結果。会社もそんな延長で、自分が出来そうな仕事をする会社を選んでエントリーして就職するのだろう。

 子供の時は消防士や電車の運転手になりたいとかも言っていたようだが、今はなりたい未来なんてものは俺にはない。

「日本で就職活動するなら、まずその巫山戯た日本語をなんとかしなさい。

 正しい敬語を覚えて!」

「エントリーするのは、留学生の雇用実績のある会社の方が安全よ。

 手続き等になれている。

 会社の処理が悪くて在留資格とれなかったという事もあるから」

 働く側と雇用の側双方が外国籍の人を雇う事に伴う手続きを熟知していないといけないようだ。


 先ず日本語の勉強のし直し、インド人の留学生を受け入れてくれる企業の調査、インド人コミュニティでの情報収集。シングのすべき課題がまとまった事で二人は部屋から去っていき、疲れ果てグッタリとしたシングが部屋に残った。

 シングの骨をどう拾うか悩ましい。

 シングは二人が消えた瞬間にゴロンと畳に寝転がる。

 視線の先にいるモノを虚ろに見つめる。

「良いな~お前らは猫で。

 俺も猫であれば良かった。

 トラに可愛く擦り寄るだけで、トラの子になれた」

「やだよ、お前は可愛くない」

 俺の言葉に恨みがましい目で見上げてくる。明るい茶色の目のせいか、気侭な性格のせいか、シングも猫に見える。

「たいそう俺は可愛いぞ。家事も手伝うし、いい子だ。彼女との時間は邪魔しないだろ?」

 シングは猫に似ていて厄介な所は、拗ね出すと面倒くさいこと。

 サバやモノのようにチュールで何とかならない所も困った所。

 寝転んでブツブツ愚痴を言うシングを窓枠から戻ってきたモノが踏み越えていった。ジャンプして避けていけるだろうがモノはどうもシングを下に見ているようでこういう事を良くする。

 そういう事をするから、シングは余計に拗ねる。

 モノに非難するように睨むが、彼女は気にする様子もなく猫草を食べてゴキゲンなようだ。サバは卓袱台を一緒に囲んでいる所から一応慰めてはいるようだ。

 結局俺は、猫舌のシングの為にぬるめの牛乳タップリのインスタント珈琲を入れてやる。そのまま一時間程のシングの愚痴を聞いてやらねばならない羽目となった。

 

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