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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
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ホワイトデー

 バレンタインが動物園で、ホワイトデーは水族館。芸がないように思えるが、水族館はデートには最適なスポットなのだとスアさんは力説した。

 動物園と違って水族館は青い空間で、良い感じに薄暗い。そこが人をシットリとした気持ちにさせる。また薄暗さが周りの余計な外野を見えなくして二人きりな空間を演出出来るという。『しかも意外と物陰が多いのもミソ!』と言う。

 しかし柑子さんと物陰で何をしろと言うのか?


 そんな会話をスアさんとした数日後。タイミングが良すぎる事にジローさんが、水族館の招待券チケットを俺にくれたのだ。

 その時ジローさんらしくなくニヤニヤと人の悪い顔で笑ったのは気の所為だと思おう。

「カルチャースクールのおば様(お姉様)に頂いたけど、俺は行く暇なくて」

 夏休みまで使える招待券。普通に考えても行く暇くらいはありそうに思える。そう返すと何かの資格の昇進試験があるとかで忙しいという。まあ、元々忙しい人だけに『行く暇がない』というのも嘘でもないようだった。

 しかし『楽しんできてね♪』と妙に上機嫌な態度が気になった。


 ジローさんのにこやかな笑み。スアさんのアドバイスという感情を超えた方向違いのエール。変に周りのプレッシャーがかかり当日までは緊張していた。なんでただ根子山森駅前で待ち合わせしているだけで恥ずかしくなってくる。


「トラ坊、どうしたんだ? こんな所で、一人でボーとして」

 魚屋の牛島さんが声をかけてくる。

「友達と水族館に行くので、待ち合わせです」

「水族館か~いいね~♪ 青春って感じで、若いっていいよ!」

 普通に話しかけてくる商店街の人の言葉にも必要以上勘ぐってしまうのは気のし過ぎなのかな?

「俺が水族館いくと、職業病でね。魚に値札がついて見えるからもうピュアに楽しめねえ」

 その言葉に笑ってしまう。やはり、俺の想い過ごしだった。

「それはそれで一緒に行くと楽しそうです! 是非プロの視点での水族館、一緒に行ってみたいです」

 俺の言葉にイヤイヤと照れる牛島さん。そんな所に柑子さんもやってきた。

 柑子さんは近づいてきて牛島さんとに挨拶をする。その後、俺にいつものように柔らかい笑顔をみせてくれた。俺も思わず笑顔になり手をあげ挨拶をする

 牛島さんが俺達を不思議そうに見ていたが、気にせず俺達は頭を下げて駅に向かった。何故か牛島さんは俺達をボーと見送りつづけている。二人で手をあげて挨拶してから改札をくぐった。


 道中も動物園の時と変わらず、和やかな感じでいつも通り楽しい。変な気張りも抜け楽になった。早めに来た事もあり、水族館はゆっくり見るには良い感じ。二人で同じ水槽を覗き込み、その水生生物についての話を楽しむ。

 俺と柑子さんは巨大エイが泳ぐ水槽の前で同時に小さな歓声を上げる。

「空を自由に飛ぶのと、海を自由に泳ぐってどちらが気持ち良いんだろうね」

 悠々と水槽を泳ぐ魚を見て俺はそんな言葉を呟いてしまう。

 柑子さんは、俺の言葉を真面目に聞いてくれていて、その答えに悩んでいるようだ。

「難しいわよね、どちらも気持ち良さそう。

 スイスイ泳ぐにしても、マンボウみたいに浮いているにしても楽しそう! 鳥のように空から世界を見るのも素敵よね」

 そんな会話をしている俺達の前を、鮫が泳いでいく。

 休む事など知らないように泳ぎ続ける魚。

「こうして見ると、飛ぶより泳ぐ方が体力はつかわないのかな?」

 俺が言うと柑子さんは首を傾げる。

「いや、鳥ってよく羽を休めているだろ? 飛ぶのって結構疲れる動作なのかなと」

 柑子さんはハッとした、顔をする。

「確かに! 先週鳩が歩いて信号を渡っているのを見た! そのせいで車は発進出来ずチョットした渋滞を作っていたの。鳩、クラクションも気にしないふてぶてしい子で」

 鳩もカルガモ並にウォーキング楽しんでいるようだ。

「確かに、その状態だと車は発進出来ないよね。

 公園でも子供にチョッカイだされてもギリギリまでは耐えていたりもしているよね、アイツら」

鳩が少し飛んですぐに地面を歩いている姿を思い出す。仕方がないから飛ぶという感じであまり飛ぶ事が楽しそうではない。

「じゃあ、泳ぐ方がいいのね」

 そう二人で結論づけた。


 スアさんに、常に笑顔でそしてさり気なくエスコートを心掛けて。そして大人な会話をしつつ女性をエスコートとして! と言われていたが、そんな話術は俺にはない。

 その為、二人でいつものように他愛ない会話を楽しんでいる。その方が柑子さんも楽しそうだし、俺も楽しい。


「おいしそう」

 鰯の群泳を見つめて俺達は二人で同時に色気のない言葉を発してしまい同時に笑う。

「なんだろうね、エイとかサメとかとのこの見え方の違い」

 ジッと鰯を見つめながら柑子さんは呟く。

「牛島さんはさらに、この魚達に脳内で値札つけてしまうらしい」

 先ほど牛島さんとした会話を話すと柑子さんは吹き出す。

「鰯、蟹、鰻とか見せられると、思考がそっちいっちゃうよね」

 横を見ると目をキラキラさせて魚を見ている柑子さんが猫のように見えた。

「ウチの猫達、水族館に連れてきたらどうなるのかな?

 同じように旨そう! と大興奮するのかな?」

「彼女達は、泳いでいる魚を見て食べ物という認識出来るかしら?

 どこまでをゴハンと認識するの? 意外と大きな魚にも興奮しそう」

 水槽を前に(前足)でチョイチョイとつつくサバ。大きな魚に飛びかかったりしていくモノを想像して笑ってしまう。

「水族館、猫放牧デーとか会ったらみてみたいな」

 柑子さんは『いいね! それ』と言って笑う。

「現実的な試みとしては、猫カフェと水族館を融合させてる感じにしたらいいのかな? 魚と猫両方楽しめるイベントという雰囲気? 水族館全体は無理でも小部屋に猫を放牧して水槽の前で気ままに過ごす猫も楽しむ! 良いと思わない?」

 猫って放牧するモノなのだろうか? そう考えていた俺に柑子さんは得意顔で俺に笑いかけてくる。その笑顔が余りにも見事で俺は思わず見惚れてしまう。

 柑子さんは丸顔の為だろうか? スマイルマークに負けない程見事な笑顔を見せてくれる。

 俺がフリーズしたのが不思議だったのか、柑子さんは首を傾げて俺を見返してくる。


「変な事言ったと思った?」

 俺は顔を激しく横にふって否定する

「いやいや素敵なアイデアだと思うよ!

 ただ…柑子さんの笑顔が最高に素敵だったから」

 柑子さんはビックリしたように丸い目をますます丸くする。何故か視線アチラコチラに泳いでいる。

「変なこと言うから」

「……ゴメン。 で、でも良い意味でだから!

 俺、柑子さんの笑顔が好き。見ていてなんかホッとするというか、あったかくなるというか」

 柑子さんが顔をキョロキョロさせ手を、バタバタさせ挙動不審な動きを始めたので、俺も慌てる。

「か、柑子さん? 大丈夫?」

 俺の言葉にハッとした顔になりとりあえずは不思議な動きは止めてくれた。

 そして何故か少し潤んだ目で俺をジッと睨みつけてくる。なんか怒らせてしまったのだろうか?

「私も、乕尾くんの笑顔好きだよ!」

 怒られると思っていたら、まさかの褒め言葉が飛び出す。

「え?」

 その言葉に、嬉しさというか気恥さが込み上げてくる。

「私が好きなのはもっとある!

 サバちゃんの為に一生懸命頑張っていた姿! 近所のねこさんと仲良しなところ! 乕尾さんの撮る写真! そんなところも好き!」

「俺だって、困っていた俺を優しく見守って助けてくれたところ。動物にする愛情深いところ。夢をもって追いかけている姿。そういうところも素敵だと思っているし、好きですよ!」

 思わず言い返す。もしかして笑顔だけしか魅力ないと言ったように思われたのかもしれない。

「それだけじゃないんだから!

 アパートの人や商店街の人と話しているホノボノとした様子!【ねこやまもり】でのソフトなツッコミ!

 優しい声と目、言葉。話をしていてなんかホッコリするところ。ホワンとした空気感……そんな所も好き。大好きだよ」

「俺だってーー」

 負けずに俺も柑子さんの素敵で好きな所をあげて主張する。

「だから俺、柑子さんが大好きなんです!」

 相乗効果で二人はだんだんヒートアップしていた。互いに相手の良いところ好きなところを言い合う。そしてそう叫んで我に返った。

 おかしい水族館で一番の目玉である、目の前の大きな水槽よりも、注目を浴びている。

 二人でその事に気が付き恥ずかしくなる。俺は柑子さんの手を取りその場から離れる事にした。


 人の少ない水辺の生物コーナーにきてホッとする。手を繋いだままなことに気がつく。

 俺は掌の力を抜いても柑子さんの手が離れなかったからそのまました。

 手を繋いだまま、コーナーの真ん中にあるベンチに座る。

「ゴメンね」

 俺が謝ると柑子さんは首を傾げて見上げてくる。

「つい、感情的になってあんな事を言って」

 柑子さんはフフと笑い顔を横に振る。

「それは私だよ。ついムキになって言い返したから」

 良かったなんか仲直りはできたようだ。ホッとする。

「あのさ。でもさっき言った事は本当の事で、私の正直な気持ち……」

 そう柑子さんの言葉に、先程の会話を思い出し……照れる。物凄く……。

「それは……俺も……本当の気持ち。好きな事は本音」

 なんかお互い気恥ずかしくて目が合わせられない。

「その……乕尾くんの好きって、どういう好き?」

 そう聞かれ俺は悩む。

「私の好きは、大好きって好き! つまり……」

 そこで言葉を言い淀む柑子さんと向き合って、体温が上がった気がした。心が沸騰する程熱くて。

「俺の好きもそうだよ! 柑子さんが好きです。

 だから一緒にいたいし、一緒に、笑いたいし色んな事話して色んな事したい」

 柑子さんはさっき俺のことを好きと、言い始めた前のような熱い感情の篭った目で俺を見上げてくる。

「それはどちらの意味? 単なる友達として? それとも……」

 俺はその言葉にドキリと胸が鳴る。その問いに対する答えを脳内に求めて片っ端からメモリーを検索し、柑子さん関連ファイルを開いた。頭の中で俺の記憶の中の柑子さんが一気に再生される。


『愛は心のビタミン! 愛を諦めないで! 足踏みしないで! 愛を止めないで! 否定しないで!』


 その映像にスアさんの言葉が何故か被さって流れた。


「好きは……の好きだと思う」

 柑子さんの目が俺をジッと見詰め続けている。自分の気持ちにハッキリ気がついたものの【愛している】という言葉は日常生活で日本人は使いにくい。

「つまりは……惚れているという意味で。つまり女性として好き」「わっ私も! そう言う意味で……好き。あっ、私は男性として乕尾君のこと好き」

 焦ったように俺の手に左手も添えて握りそう返してくる柑子さん。二人で手を取り合ってしまったままの姿勢で見つめあう。


「なに~? ここ~」

 そんな声が響き、小さな子供が入ってくる。

「ヨウちゃん、走らないで…………。

 じゃ、邪魔したらいけません。向こうにペンギンさんいるわよ!」

 何故かその子供は母親と思わしき女性にすぐ連れ出されいなくなった。

 なんか人気のない場所でイチャイチャしているバカップルに見えたようだ。二人で手を引いてそのまま黙り込んでしまう。

 どうしよう! なんか勢いで告白されて、告白しかえしてしまった。

 やらかしてしまったという後悔ではない。見つめ合ったこの状況からどう動くべきかで悩む。

 さて、この後どうしたら良い?


「あっ」「あの」


 同時に声を出してまた黙り込む二人。

「乕ぉ」「柑子さ(んからどうぞ)」

  また同じタイミングで話しかけてしまう。会話を譲ろうとしたつもりが妨害してしまった。オカシイさっきまで普通に会話していたのに、何故か上手く話せなくなっている。

 二人で言葉もなく見つめあい……。

 映画とかならココでキスとかになるのだろうが、それは無い。なんか顔を見つめ続けていたことで、同時に笑ってしまった。

 笑いって偉大だと思う。大抵の問題を解決する。

「なんかオカシイよね、今の俺たち」

「ホント変! でもそれが、なんか楽しい」

「だね」

  良かった会話のキャッチボールが再び出来るようになった。

「あのさ…………」

 俺がそう声をかけると柑子さんが顔を上げて俺を真っ直ぐみつめてくる。

「宜しくお願いします。これからも」

 そう言うと柑子さんはフフっと笑ってから姿勢を正した。

「こちらこそ不束ものですが、宜しくお願いします」

 そう言って頭をペコりと下げてきたので、俺も慌てて頭を下げる。そして笑いあった。

 そこで俺はある事を思い出しリュックを開ける。

「あ、あの。コレ、ホワイトデーのプレゼント。クッキー焼いたんだ」

「え、乕尾くんが?」

「スアさんと一緒に。柑子さんは動物好きだから、動物の形をしたクッキーにした」

 俺が手渡すと、柑子さんはフワっと優しく笑う。

「嬉しい! ホワイトデーに手作りのモノ貰ったのは初めて。なんか人生で最高にロマンチックな日」

 ロマンチックなのだろうか? 今の俺達?

「改めて……宜しくお願いします。その……恋人……として」

 恋人というのが恥ずかしくて、その部分はゴニョゴニョとなってしまったけど通じたみたいだった。そして気が付くさっきも似た言葉を既に言っている。

 『宜しくお願いします』をひたすら繰り返す事になることだけは避けなければいけない。

「こちらこそ! 宜しくお願いします……。

 あっ!そろそろイルカのショーの時間だよ! 行こっ!」

 そう言って俺の手を取り誘った。俺は手を繋いだまま二人で歩き出す。よかったコレで変なループから抜け出せた。

 さっきまでも柑子さんといて十分楽しかったが、何故だろうか? こうして歩いているだけでも先程までの、数倍胸がワクワクして楽しい。

 繋いだ手を少し強めに握る。するとギュッと柑子さんも握り返してきた。二人で視線を合わせニコッと笑いあってからイルカショーの行われる明るい会場に入った。



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