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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
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隣のインド人

 今俺の部屋の手摺には、俺の枕と、サバことヤクザ猫と、モノこと怪人猫が嵌っている。天気が良かったので朝一で枕を手摺に嵌めて干してから洗濯機を回して戻ってきたらそのようになっていた。

 何も邪魔な枕のある俺の部屋の手摺に二匹で嵌らなくてもとも思う。手摺には他にも三つあるのだから。

 お陰で枕が猫の毛だらけ! 猫をムニ~と押し退け枕を引き抜く。枕を窓の外に出してバンバンと叩き毛を払う。その音を『煩い』という感じで顔を顰めてブミャと文句を言う猫達。こうしてみると柄こそ違うが顔は本当にソックリである。この二匹は実は姉妹。近くの公園に一緒にダンボールに入れられ捨てられていたらしい。姉妹……というので分かると思うが……驚いた事に二匹ともに雌。女性でここまで巨漢で凶悪な顔をしているって、猫として生きていく上でどうなのか? とも思い他()事ながら心配してしまう。


 先程のように枕を取るために手を手すりに突っ込んでも、猫をツンツンと突いてみてもどくことはしない。最初の三日は俺が邪魔そうに顔を向け手摺を叩くと退いてくれていた筈なのに、今では俺が文句言おうが、突いても居座るようになった。この手摺はそもそも俺の縄張りな筈なのに、コイツらに不法占拠されてしまって為す術もない。先住権を主張され、文句を言おうがコイツらはもう気にしない。


 これでもかとバンバン枕を叩いて毛を払うが猫の毛は柔らかくてなかなか取れない。こびり付いた毛はガムテで毛を取らないといけないだろう。おかげで今まで殆どつかってもいないアイテム【コロコロ】が必需品となってしまった。


「お~。

 今日もトラ、モテモテだな~」


 右を見ると隣の部屋に住むシングがこっちを見ている。浅黒い肌で目鼻立ちがクッキリしており、そんな端正な顔でからかってきても嫌味な感じはなくクールに聞こえるから不思議だ。またこの人は意外と冗談を言ったりボケたりするのだが、真顔で言うから分かりにくい。そもそもジョークで言っているのか本気で言っているのかが良く分からない困った所がある。

 彼は俺と同じ大学で同じ学部の一年先輩。インドからの留学生。そして近所のカレー屋さんでバイトをしている。一度食べにいったら、そこはハラルフードを使用した本格的な敬虔なイスラム教徒の人用のインド料理のお店だった。肉も戒律に則って処理されたものを利用しているという程。ちょっとしたカルチャーショックを覚えた。国や宗教が違うと食事するにしても色々大変なようだ。


「トラ! 見ろ! これ良い。ヒャッキンで買ったマクラホシ、こうして干せるからネコ関係ないぞ!」

 シングがハンガーに掛けたナイロン製のネットのようなものを俺に誇らしげに見せる。シングは俺に見せつけるように百均で買ったという枕干しに自分の枕を挟み竿にかけて見せる。網の部分部分が輪となっててそこに枕を挟み吊るして干すというもの。確かに竿から吊るして枕を干せるのは良いかもしれない。これだと猫に邪魔されない。俺は脳内の買い物リストにその枕干しを入れる。

 シング俺の方に手を伸ばし俺の枕をよこせと言ってきた。俺が枕を投げると、俺の枕も空いている輪に入れて一緒に吊るして干してくれた。

「ありがとう助かった!」

 俺は急いで自分の洗濯物を手早く干しながら、お礼を言う。

「なんのこれしき、礼には及ばぬ」

 こんな言葉が帰ってくる。コレは態とギャグで言っているのか、やや間違えた例文から言葉を持ってきたのか判断に苦しむ。

「かたじけない」

 悩んだ末にそう返しておいたが、普通に頷かれツッコむ事もなかった。この感じでシングとの会話はいつも進む。こんな日本語会話を覚えていっていいのか? 俺は心配になる。

「いいよね、ソレ。俺も買う事にするよ!」

 間違えてはいないだけに訂正するべきかも悩ましい。俺は良い情報を貰えたことにお礼を言うことにした。

「トラ、よきにはからえ」

 シングは低く落ち着いた声でそんな言葉を返してくる。

「その言葉少し使い方違うから!」

 俺は流石にそれはツッコんだ。


 因みに彼の言うトラというのは近所のトラネコの事ではなく俺の事、苗字が乕尾(トラオ)だからだ。しかし、こんな猫だらけのアパートでそう呼ばれると俺まで猫扱いされているようだ。しかもトラというトラネコもいる。

「あのさ~シング! 出来たら『トラオ』と『オ』まで付けて欲しいな~。なんかトラだと猫みたいだ」

 そういうとシングは俺を見て首を傾げる。

「トラって、フィッシュ大好きだしネコみたいなものでは?」

 俺は魚好きではなく、部屋に干物が多くあるから食べているのにすぎない。俺にとって貴重な蛋白源である。無駄には出来ない。

 しかしその香りがよけいに猫を引き付けるのが困った所。そしてその干物を少し猫にあげているといったら、シアさんに『そんな塩辛いもの猫に与えるなんて! 病気になったらどうするの!』えらく怒られてしまった。その為に最近では上納用におやつ煮干しを常備している。


 俺以外のアパートの住民も猫用おやつを常備しているようだ。しかし嬉しそうに貢いでいるところが俺とは状況が違う。コイツらが今ここでノンビリしているのも、誰かからオヤツなりご飯をもらって満たされているからだろう。天気もいいのか、二匹はウトウトしだして眠り始める。目を瞑ると、凶悪さも鳴りを潜め可愛く見える事を発見した。その様子はカワイイので、今日はそこにいる事を許してやることにした。


 考えてみたら、俺は大学やバイトがある。結局は俺よりも猫の方がこのアパートにいる時間が長いので、こんなに堂々とされるのも仕方がないのかもしれない。

「トラ! 干したマクラ、玄関のドアにつけとおこう」

「サンキュ! シング」

「気にするでない、かまわぬよ」

 間違えてはいないけど、時代的な意味ではズレたシングの言葉に首をかしげながら俺は学校に行く事にした。


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