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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
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寺子屋にて

 【ねこやまもりまつり】二日目を迎えた。俺は時々YouTube番組の撮影に外を歩くものの、基本ギャラリーのお手伝いをしていた。

 カルチャースクールに通うのが女性ばかりである為か、【ねこやまもり展】に訪れる人も圧倒的に女性が多い。

 ギャラリーにくるお客様は、男性もいるのだが、圧倒的に女性の方がパワフル。この空間を最大限に楽しもうという意気込みが強いのか、俺にも話しかけてくる事が多い。

 オーナーであるジローさんは見た目外人(実際正真正銘白人なのだが)。何語で話しかけて良いのか迷う為か悩むようだ。

 また祭りの運営の仕事もしているので、商店街振興組合の人と打ち合わせしていることも多く忙しそうだ。

 俺の方にカルチャースクールについてとか、作品について聞いてくる人が多い。お陰でカルチャースクール【TERAKOYA】の入会手続きについて詳しくなってしまった。

 一律学校自体の入会金と年会費があり、プラスそれぞれの講座の講義料とテキストや教材費が設定されている。複数の講座を受ける場合は入会費を重ねて払う必要はない。

 続けるにはなかなかお金がかかるな~とは思う。しかしここのTERAKOYAはその道では有名な講師が揃っているらしい。

 その為マダムからも人気が高く生徒さんも複数の講座を掛け持ちで受けている人も少なくはないという。

 ジローさんは優秀な講師を見つけてくる、発掘してくるのが上手いらしい。

 TERAKOYAの皆さんからの話を聞いて、敏腕経営者ジローさんという新しい面を見た気がした。

 確かに並んでいる猫作品のクォリティーが半端なく高い。七宝焼、フェルトアートの猫のアクセサリーや小物、それに雰囲気ありすぎる革の猫のバッグ。

 いわゆるバザーに並ぶオカンアートとは程違い。オシャレに可愛い、オシャレにクール。値段は安くはないが高くもない。いやデパートとかで買うと、かなり良い値段になってしまうような気がする。


 猫好き女子(というか女性全般)はキャイキャイと。猫好き男子(男性)はシミジミと感動しながら眺め購入していっている。


 俺は二日目の今日は受付業務を担当しながら、お客様が楽しんでいる姿を見守る。

「大旦那さんと一緒に暮らしているのですって?」

 ニコニコと真っ赤なワンピースを着た女性が話し掛けてくる。この派手にも思える洋服を着こなしているのは、七宝焼の世界では有名なカリスマ講師ならしい。


 大旦那というのは、ジローさんのこと。会社ではオーナーではなくその肩書を名乗っている。

 あの容姿とあのキャラクター。カルチャースクールのオバサマのチョットしたアイドル的存在なのが伺える。

「いえアパートが同じなのですよ。その縁で商店街のお仕事のお手伝いをさせて頂いています」

 賑わうギャラリーを眺め、受け付けを交代で担当する講師やその生徒さんのオバサマ(おねえさま)達とのんびり会話。

 お客様を楽しそうに案内し会話しておきながら、交代でコチラにくると前の人の続きから会話が始まる。この連携の良さって同じカルチャースクールに通うだけで産まれるものだろうか? 師弟関係のなせる技?

「若旦那の参加しているYouTubeの番組いつも観ているわよ。

 面白いわ! でもね、大旦那をもっと前面に押し出して映し出すべきだと思うわ!

 ああいう世界ってインパクト勝負なのでしょ? 大旦那はそういう意味でキャラクターも濃いから!!」

 気がつけば、俺は何故か【若旦那】と呼ばれている。

「そうですね~。でもジローさんは裏で見守り支え動く事が好きなようで。プロデューサー気質というのですか?」

「その奥ゆかしさがまた、良いのよね~♡」

 そんな時に俺の写真の絵葉書を買ってくれる人が来た。ブログを見てくれているという事で、俺は恐縮しながらお礼をいい会計をする。


「若旦那! せっかくだからサインをされたらどうかしら?

 ね、貴方も欲しいわよね?」

 そんな俺の横でカリスマ講師は余計な事を言ってきた。誰がド素人の一般大学生のサインが欲しいというのだろうか?

 相手の女性もそのように言われて『いえ、いりません!』なんて言える筈もない。

 サインしたら、何故か後ろに並んでいた人もサインを求めてきた。そのままよく分からないサイン会が始まってしまう。

 一般人の俺にサインなどあるわけないので、普通に楷書で【乕尾夏梅】と書くだけ。


「珍しい苗字ですね~」


「トラオって名前ではなかったんですね」


「お名前なんて読むのですか?」


「カワイイ字を書かれるんですね~」


 かけられる言葉に俺は笑顔を作り答え、求められたら握手を返すという対応していくしかない。

 やっとあと二人で終わると思ったタイミングで柑子さんが友達を連れ立って来る。その所為で更に事態はややこしくなった。

 柑子さんは俺の様子を見て目を丸くする。焦ったように友達と絵葉書を買い、即サイン列に並んだ事で、周りに誤解されたようだ。

 皆がサイン欲しがる程、有名なカメラマン。勘違いした人により更に列が出来る。

 俺はサインに必死に対応するしかない。

 感謝の気持ちから、相手に誠意をもって受け答えしたいと思う。しかし相手の強い猫愛からテンションが高い。猫話する姿のパワーが強すぎて、簡単な答えだけを返すという受け身をとるしかなくなる。

 サインって、本名を晒さなくてもネットで使っている【トラオ】で良かった事に気が付く。しかし途中でサインを変えることも出来ない。 


 皆さんの俺への熱い対応は、猫への愛によるもの。端でみると俺への想いと見え勘違いを加速させる。

 なんか有名人っぽい人がサインくれるみたいという集団心理で人は動く。列がギャラリーに邪魔になるほど伸びはしないが、途切れない。

 コレをいつもやっているアイドルって偉大だと思う。

「若旦那~、接客中に失礼いたします。

 大旦那は今どちらにいらっしゃるか分かりますか? 大旦那にお客様がいらしていて」

 サインに懸命に対応していると、TERAKOYAの生徒さんが聞いてきた。

 先程町内会長さんと出て行ったのを見た気がする。そしてギャラリーの人は、ここは人が足りているからと、駅前にチラシを配りにいって今はいない。

 俺はサイン待ちしている方にお詫びの言葉を掛けてから、お客様の対応をするために離席した。

 ハツラツとした女性が俺にニコリと頭を下げてくる。

「どうもお忙しいところ申し訳ありません。Joy Walkerの宮尾(ミャオ)と申します。

 ウチの誌面で紹介させて頂いたイベント。私も見に来てしまいました!」

 相手は猫雑誌を出版している会社の記者さんだった。名刺なんてもの初めて受け取る。その名刺をみて【宮尾】さんだと分かったが、『ミャオ』と猫の鳴き声にしか聞こえなかった。

 流石猫雑誌の記者さんである。猫っぽい名前で顔も好奇心でキラキラした目をした猫っぽい感じ。

 名刺なんて返せない俺は、自分も名乗り挨拶し、ジローさんのスマフォに電話をかけ連絡をとる事にした。

「大旦那はコチラにすぐ参ります。申し訳ありませんが、暫くお待ち頂けないでしょうか?」

 椅子を用意して勧める俺に宮尾さんは顔を横にふる。

「遊びに来ただけですので、そんなお構いなく。

 ゆっくりこのギャラリー楽しませていただきますね。

 それより若旦那さん。大事なお仕事に戻られてください!」

 宮尾さんはニコニコと笑い、テーブル前に立つ行列に視線を向ける。俺はハハハと苦笑し頭を下げサイン会に戻る事にした。


 宮尾さんはニコニコとギャラリーを楽しんでいたし、直ぐにジローさんも戻って対応してくれた。だから俺はよく分からないサイン会に集中し頑張る事にした。

 猫写真の絵葉書セットが売り切れた事で、謎のサイン会は終了する。

 さくらねこ告知イベントの賑やかしに作ったものだけに、百部超える程作らなかった事が幸いだった。俺は開放感からホゥとため息をついた。


 そんな俺に宮尾さんがニコニコと近づいてくる。

「乕尾くんお疲れ様。

 それでね、貴方を取材させて貰って良いかしら?

 今度ね、猫ブロガー特集をするのよ。是非ソレに貴方も協力して頂けないかしら?」

 俺はその言葉に断る元気すらもうなかった。しかもジローさんを始めとする周りの『是非受けなさい!』の無言の圧も強い。

 ギャラリーとカルチャースクールを経営しているジローさん。様々な所で講師をしている方にとって、自分を告知出来る機会は貴重。それは積極的に利用するのが当たり前の事だからなのだろう。しかし才能がある訳ではない、何か訴えたい事がある訳でもない俺は何を告知しろというのだろうか?

 俺はそのままギャラリーで人生初のインタビューを受けることになった。初めての事ばかりの一日。異様に疲れてグッタリである。


 TERAKOYAの皆さんは宮尾さんに販売していた猫グッズを読者プレゼントとして提供している。自分達の仕事をシッカリ売り込んでいた。そこは流石だと感心する。仕事をする大人ってこういう事なのだろう。


 肉体的というか精神的に疲労困憊となった俺。打ち上げでお酒でより賑やかになった商店街の人のノリと激しい弄りにますます疲れを感じてしまった。いつもなら普通に受け止められる事も、今日あった事でキャパオーバーになっている俺にはそんな温かく優しい刺激でも強すぎた。

明日外せない講義が一限からあるという事で早めに抜けさせてもらう。


 部屋に戻ると、サバが俺を玄関まで出迎えてくれた。モノは卓袱台の上でゴロンと寝そべり視線だけを俺に寄こすだけ。

 そのいつもの様子になんかホッとした。今日は非日常的な事が多すぎたから。

「サバ、モノ。ただいま」

 俺がそう挨拶すると、サバだけがブミッと鳴いて応えてくれた。この凶悪な顔をみて癒されるというのも面白い現象である。俺はしゃがんでサバの身体を撫でる。サバは目を細めゴロゴロと喉を鳴らした。


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