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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
33/65

匠の世界

 サバの交通事故により、始まる猫との同居生活。

 気が付くとサバだけでなくモノまでが俺の部屋の住民となっている。当たり前のように我が家で食事して、トイレをする。そして俺の布団で当たり前のように眠っている。

 まあ自分の姉? 妹? が普通にここでご飯を貰って生活している。それを見て、自分も大丈夫だと思うのも当然なのかもしれない。

 俺もモノに『お前は別だ! ダメだ!』なんて事も言えない。

 今まで自由に外を出歩けていたのに、この狭い世界で生きる事になってつまらなくないのか? とも思ったが二匹は俺の部屋の中で不満もなく悠々自適な生活をしているようだ。

 俺がいる時は二匹を庭に出してあげる事はしている。塀や木に登れなくなったサバだけでなく、モノも庭から出ようとすることはしない。ただ木や塀の上でノンビリするだけで、気がすんだら部屋に戻ってくる。

 冬ということもあり外が寒いのもあるのかもしれない。

 二匹はバイクの音に異様に反応する。身体を強ばらせ怯えた。交通事故は二匹にそれだけ強いトラウマとなったのだろう。


 猫と暮らす生活で何かが大きく変わったという訳でもない。

 一番大きな変化はブログを始めたこと。

 何かを訴えるといった意図ではなくTwitterなどの延長のようなもの。二匹の猫のこと、一人暮らしのこと、大学生活のことなどをマッタリと書いている。

 サバの事故の事があり、今の時間の一瞬一瞬が貴重であることを実感したから。それらの事を記録する意味で始めた。


 小さな事では、より部屋を綺麗にするようになったこと。留守の時は猫が危なくなるようなもの、壊されて困るものは部屋に放置しない。戸棚や押し入れにしっかりしまうようになった。


 厄介なことでは部屋中の壁がダンボールで覆われている。最後の要素は俺としてかなり深刻な問題だった。

 それは爪研ぎの問題。

 猫って動物は壁や柱で爪研ぎをしようとするのだ。


 大家さんである田丸さんが猫を好きであることから壁につけた傷は怒られずに許してはもらえた。

 アパートが元々ボロだからと笑って言ってくれたもののそれに甘える事は出来ない。さらに傷を増やす真似はさせられるはずもない。

 和室は砂壁だけにザラザラ感が二匹には良いようだ。だが猫の爪痕は余計に痛々しい。

 皆からお祝いで頂いた爪研ぎはお昼寝用ベッドとしての認識なようだ。壁が爪研ぎ場とされる。

 爪は俺も切ってやるのだが、自分でガリガリするのはまた別の行為。

 格好悪いが段ボールで壁を保護するしかなくなった。しかしダンボールはダンボールで爪研ぎしやすいようだ。直ぐにボロボロにされ交換を余儀なくされている。

 どうやら床面ではなく少し立って爪研ぎをするのが彼女たちの好み。ジローさんからマシロが使ってくれなかったという柱型の爪研ぎを頂く。やはり縦型のほうが好みなようで使ってもらえたが、壁で爪研ぎするのを止めない。

 マタタビで正式な爪研ぎの方に誘導し。壁や柱に貼った段ボールには猫が嫌いだという柑橘系の香りをつける。壁で爪研ぎしようとしたら怒る。それをひたすら繰り返すようになっていた。


 そんな時だった田尾(タビー)さんがアパートに遊びにきたのは。

 元々俺の部屋に住んでいた事もありサバとモノとも顔見知り。

 近くに来たから大家さんに挨拶をかねて二匹にも会いにきたようだ。その為に俺の部屋に皆で集まりマッタリとすることとなった。

 いるメンバーはジローさんとシングと田丸さん。他のメンバーは皆お仕事で今はアパートにいない。


 宮大工をしているタビーさんは大工というより僧侶とか神主とかいった静かな雰囲気をもった方。サバとモノとも冷静でいて穏やかな交流をする。

 柔らかく微笑みながら二匹を見つめるだけ。サバとモノも歓迎はしないが、並んで座り大人しくその視線をうける。そうやってしばらく見つめ合い、満足したのか二匹は自由行動を始めた。タビーさんも満足そうに微笑み部屋をゆっくりと見渡す。


 俺は今の段ボールを壁にはりつけまくった部屋が恥ずかしくなってきた。ジローさんと田丸さんが猫の生態の説明をしてフォローを入れてくれる。

 みっともない状況になった経過を必死に説明する俺にタビーさんは『なるほど』と落ち着いた言葉を返す。

「この二匹は物置の外壁でもやっていたからね」

 田丸さんはそう言いながらモノを撫でる。サバは人が多すぎるから隠れている。床の間(クローゼット)に入り込んで顔だけ出していた。

 タビ―さんは柔らかく笑いながら再び部屋に視線を向ける。その瞳の奥に何か炎が灯っているのを俺は気付かず、愚痴を言い続けていた。


 俺はこの後に知った。タビーさんは田丸さんや他の住民の困った相談を聞くと創作意欲に火がつくという。

 俺がおもてなしに出したお菓子もお茶にも目もくれずに不思議な行動を始めた。部屋の内部の寸法、猫の身体のサイズを測りだす。それをカバンから取り出したメモ帳に書き入れる。さらにタブレットで何かを調べてメモになにやら書いていた。


 戸惑うのは俺だけで、皆はそんなタビーさんを気にせず呑気に話しながらお茶を飲んでいる。

 何かの作業が一段落したのか? タビーさんは俺の方を真っすぐみつめ口を開く。

「少し部屋に手を加えてもいかな?」

「いいわよ♪」

 俺の代わりに答えたのは田丸さん。俺の部屋とはいえ、そういうことは大家さんの意見がもっとも優先されるべきものだろう。


 かくして俺の部屋のリフォーム計画が勝手に進行してしまった。


 一週間後タビーさんは再び俺の部屋に荷物をもってやってきた。唖然とする俺と猫二匹の前で予めカットしてあった資材を手際よく組んでいく。一日もかけずにあっという間にリフォームは終了した。

 壁が段ボールでみっともなく覆われていた部屋。それが腰壁のある雰囲気のある部屋に大変身していた。

 ダークブラウンの腰壁は昭和の雰囲気漂う部屋に意外とマッチしていた。

 態と古材な雰囲気のウッディーの腰壁の為レトロモダンな風合いが加わっている。コレって俺が部屋探しの時に内見したオシャレな古民家風な部屋というヤツなのかもしれない。

 和室の方は1×4材用のアジャスターで作った腰壁が作られている。

 腰壁自体を取り外しできるようにしたのは畳の張替えの時の為。しかも腰壁部分は隠し戸棚となっている。奥行はないもののチョットしたものを隠して収納できて便利そう。

 なんと上の部分も幅はないもの棚となっており、小物を飾ったりと出来そうだ。

 玄関脇の部屋ピッタリの収納家具や台所の棚といった事からもなんとなく察してはいた。

 タビーさんの職人芸はただ者ではない。皆に言わせると最初は日曜大工レベルだったのがみるみる進化していったらしい。

 実はこのアパートに同じ建物の部屋でありながら、細かい部分で仕様が異なっていた。

 それぞれの部屋でキッチン壁の棚のつき方が違う。

 シアさんは食器棚として使っているのもあるのだろう。その為に棚の下にはカップやグラスをぶら下げる器具がついていた。シマさんやタマさんの部屋は収納スペースを確保する為だろう壁に均等に棚が並んでいる。

 シングの部屋には俺の部屋と同じように壁の上部に二段の棚。違うのは下部分に折り畳み式テーブルがついている。初めてそれを見たときに、ちょっとうらやましいと思った。

 オシャレなジローさんの部屋の内装もそう。タビーさんが皆の要望に応えた結果のようだ。


 俺の部屋の腰壁も猫に爪研ぎをされるのでは? と思いそうだが、いい感じの木の風合いを見せている腰壁の表面の材質は実は壁紙。フェイクの木目調なのだ。万が一爪研ぎされても張り替えられる仕様となっている。

 面白い事に猫は爪にひっかかりがある所で爪研ぎするのが好きだという。木目調だが触るとツルツルの壁紙の感触はイマイチだったようだ。壁での爪研ぎをしなくなる。あの苦労は何だったのか? とも思う。

 逆に、猫が壁で爪研ぎしたお陰で、部屋が便利でオシャレになるってどういう現象なのだろうか?

 このリフォーム。知り合いの工務店から余った廃材を利用した為、一万もかからなかったらしい。しかもそれは大家さんが経費として払ったために俺には請求が来ていない。本当に良かったのだろうか? 俺は二匹が爪とぎをしている様子を見るたびにそう考えてしまう。二人には何か俺が出来る形で何か恩返ししないといけないだろう。




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