モテているのとは少し違う
ノラーマンは意外に健闘して決勝ステージまでいき、なんと三位という結果を残したのである。
ノラーマンの知名度も上がり、テレビでの仕事も増えることになった。それに伴い、YouTubeのチャンネルの視聴回数も上がり、この時の動画を見て根来神社に来てくれた人も結構いたようだ。
そしてそういう人が俺達の絵馬をTwitterなどで上げて、『誰も優勝を期待してないw』とネタにされて恥ずかしい想いをすることになった。
同時にジローさんの達筆過ぎる文字も話題になっていた事には笑ってしまった。
「富士塚で三位だとは。富士山に登ったら、優勝できていたんかな~」
ジローさんの部屋でそういったエゴサーチを楽しんでいた時に、シマさんがそんな事を呟く。
エゴサーチしても殆ど出てこなかった二人も、グランプリ後は結構Twitterなどでノラーマンの名前が出てくるようになったのは、本当にすごいと思うし嬉しい。
その事を言うとタマさんに苦笑されてしまった。
俺以外のメンバーが二階の住人であることと、ジローさんは二〇三号室と二〇四号室をぶち抜いてあるという広い部屋に住んでいるので、ここでチャンネルの企画会議とか反省会を開く事が多い。
ここの部屋は元々大家さんの息子さん夫婦が使っていた事もあり広くてトイレは洋式で、お風呂もある。
二〇三号室の玄関が入口で、玄関正面はシャワー室ではなく単なる壁があるだけ、そして俺たちと同じサイズのキッチンがある。
奥は二部屋分の広々とした和室があり、押し入はないが、御簾で隠されたそれに代わる収納庫が右の壁にあり、並んである床の間には、他の住民とは異なり掛け軸がかかり、下に花器が置かれ花が生けられている。
そして二〇四号室のキッチンにあたる部分は寝室として利用している板間がある。
畳ベッドが置かれ、トイレとバスルームはコチラにある、二〇四号室の玄関部分が脱衣所となり、二部屋分のシャワー室と二〇三号室のトイレがある空間を合わせたところがお風呂となっているようだ。
ハイセンスなジローさんが暮らしている為か、アンティークな和ダンスなどが置かれていてそこに帯が敷かれ、何やら価値高そうな茶碗が飾られていてオシャレ。床の間の掛け軸も季節毎に変化している。俺の住むアパートと同じ建物の中とは思えない。
「あの高さで三位だと、高尾山で優勝、富士山を登っていたら世界進出どころか地球から飛びだしていたのでは?」
「そう言えば乕尾の父ちゃんからお祝いを頂いたわ! ありがとな~! 七色の七福神パンツそれで運気ますます上がりそうや」
シマさんがそう言って二人が頭を下げる。父は自分の会社のパンツを履いてグランプリに挑んでくれた二人のファンになってしまったようだ。
俺を通してではなく、直で二人にパンツを贈った。アパート名だけで部屋番号なくて「ノラーマン様」で小包は届くらしい。
「使ってくれると父も喜びます」
ジローさんが、お茶を皆に配る。このアパートでお茶がお盆にのって出てくるのはこの部屋くらいである。
しかも茶托に乗っている。俺は膝の上で丸くなっているマシロを驚かせないようにそっと動きお茶を受け取る。
マシロはジローさんの飼っている猫で、名前の通り真っ白で小さくてカワイイ猫。
目があまり見えない為にぼんやりとし焦点のあってない視線がまたアンニュイな雰囲気を出していて不思議な魅力がある。盲目ながらも勝手しったる様子でこの部屋の中では自由に元気に行動しているらしい。
最初会った時は怯えられて隠れていたが、怪しい者ではないと分かってくれたのか、俺にも甘えてくれるようになった。
こうして膝にのってくれてゴロゴロされると何とも可愛くて嬉しいものだ。つい俺もナデナデしてしまう。
「確かに、そうかもな! 富士山行くのも大変だし。
て、マシロはなんでトラの膝の上に? いつもベッドの上から動かないのに」
タマさんも身体を撫でようと触るとビクリと身体を震わせる。
「マシロは臆病だから突然触ると怖がるから、声をかけてから撫でてあげて」
ジローさんの言葉にタマさんが謝る。
「なんか、乕尾って……何気に猫にやたらモテないか? あのサバも乕尾には甘えているし」
俺は可愛げなく俺に太々しい態度で接してくるサバを思い出し、顔を顰める。そんなモテ期は嬉しくない。
「どこがですか! アレは俺を舐めているだけですよ。それにモテるならやはり人間の女の子が良いです」
俺がそう反論すると、ジローさんは楽しそうに笑う。
「それはそれで、羨ましい体質だけど。
動物の方がその辺りはより敏感だから、良い事だと思うよ。魅力的なんだよ女性からみて」
タマさんや、シマさんもからかうようニヤニヤとして人の悪い笑いを浮かべ『よっ色男~!』と声かけてくる。
「サバとモノに愛されているのではなくて都合の良い男とされているだけですよ」
俺は溜息を大きくついた。
企画会議的なものも終え、タマさんとシマさんと二階の廊下であいさつをしてから別れ階段降りようとすると、階段途中にサバがいた。
「よっサバ!」
一応そう挨拶をしておいたが、何故か顔に思いっきり皺を寄せて顰めこちらを睨んでいる。降りてから横を通ると俺の匂いをクンクンと嗅いで、何故かシャーと挑発的な声を出す。
ほら! この態度。これのどこがサバに懐かれているというのだろうか? 俺はもう一度溜息をついて、サバの凶悪な視線を感じながら部屋に戻った。




