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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
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光る目

 ソイツは住み始めた初日にもう俺の前に現れた。

 部屋の窓は全て磨りガラスになっているので、カーテンを付けていなかったから気がついた。


 引越しを無事に終えた夜、自分の城となった部屋でノンビリとする。人生初の一人暮らしがスタートした事を俺は祝う。

 まだ学生で、親に半分出してもらっての新生活。

 それでも自立して一人暮らしをするという事で、自分が一気に大人になった気がする。

 父親がパンツの会社に勤めている為に多めにに持たされた新品未使用のパンツ。持たされた時は余計な事をとも思ったが、シャワー浴びて真新しいパンツで祝う新生活。悪くないと思ってしまった。

 親が大量に持たしてくれた干物の一つであるシシャモをつまみに炭酸水を掲げ一人で乾杯した。

 本当はビールとか飲んでみたかったが、流石に買いに行く勇気がなかった。

 それに最近は年齢確認をキッチリ求められるので、入手そのものが困難。

 とはいえ今の俺は、炭酸水で十分ハイになれる状況だった。


 部屋を改めて見渡し怪しく一人でニヤニヤしてしまう。

 洋服は床の間(クローゼット)になかなか旨く収まっていた。物置には恐らくは前の住人が床の間に置いて使っていたのだろう。そう思う程ピッタリのサイズの木の三段の引き出しと突っ張りタイプの棚があった。それを流用させてもらっている。


 台所の壁の棚も便利で本棚として利用できた。他の荷物も押し入れの下段に空間をかなり余らせて収まった。

 そこで、上の段に布団を敷いてベッドに転用。イチイチ上げ下げしなくても済む。我ながら頭がいい。


 部屋にある家具は近所にあるリサイクルショップで安く買えた冷蔵庫と電子レンジ。

 物置から拝借した雰囲気のある卓袱台とカラーボックスを二つ繋げて作った棚。

 カラーボックスはキッチン台の奥行きと高さがピッタリサイズ。玄関脇に置くといい感じにハマった。というかコレ元々ここに置く為にリメイクしたものとしか思えない。

 二つのカラーボックスの上段二つはさらに棚が増やされている。

 靴を収納するのにピッタリとなっていた。さらに二つのカラーボックスの間にある縦長い隙間がある。

 またそれにピッタリサイズのトレイがそこに入っていた。ここに傘を収納しろということだろう。

 さらに台所の台と高さを合わせる為に加えられた空間も幅広い良い感じの棚となっていた。

 しかも部屋の壁と同じ色に綺麗に塗装までされており、まるで備え付けの家具のようになっている。

 床の間の引き出しにしても、この棚にしても、手先が器用な人物が前にいたようだ。


 卓袱台はパソコン台兼食卓として活用している。俺の荷物が少なかった事もあるがスッキリした部屋。

 暮らしやすい良い感じの空間になったように思える。

 合版ではなくシッカリした木で作られた卓袱台。一周回って逆にオシャレに見えるのは気の所為だろうか?


 シシャモを齧り、二本目の炭酸水を呑みフ~と満足げな溜息をつく。

 その時、俺は何故か真後ろから視線を感じた。今の俺は窓のある壁に凭れ、部屋の方を向いている状態。

 後ろにあるのは摺りガラスの嵌った窓。


 俺はゆっくり……そぉっと振り返ってみてギョッとする。

 鍵の閉められた磨りガラスの向こうからコチラを覗いている何かがいた。


 ソイツはガラスに顔を引っ付けてコチラを見ている。しかもその目はギラっと禍々しい光を放っていた。


「オワッ!」

 思わず声を上げた。その声に一瞬窓の影もビクっと震える。

 やはり気のせいではなく、ガラス超しに部屋を覗き込んでいる何かがいた。

 恐る恐る窓ガラスを開けると、手摺に猫がハマっていて、ニャ~と泣いて部屋を覗き込んでいる。

 それどころか網戸に顔を押し付けて強引に部屋に入ろうとしてきている。

 灰色の縞模様で妙に顔がでかく丸く見えた。首輪が無いことから野良だろう。

 三白眼で目付きが生半可なく悪い。

 猫って可愛い動物だったと思っていた。この猫は何というか野良というより野生の獣のよう。

 様々な修羅場を乗り越えてきたような凄みがあった。

 手摺の柵の間から肉がボンレスハムのようにはみ出している。

 スッポリというよりミッシリという感じで嵌り込み、こんな状況で痛くないのだろうかと思う。俺とこの距離で向き合っても逃げるでもない。

 逆にこちらに向かってきており、網戸を突き破らんという感じでグイグイ迫ってきている。

 下から凄みのある目で俺を目ねつけながら。

 俺は盛り上がっている網戸をやんわりと押し返し、見なかった事にして窓を閉めることにする。

 猫は網戸越しに猫パンチを喰らわしてくる。それでも俺は窓を閉め終え、背後からの強すぎる視線を感じながら宴を再開することにした。


 カツン カツン


 背後の窓ガラスから音がする。

 猫がいた側でない方に移動して座ったのに、猫も移動していたようだ。

 肉球ではなくて態々爪を出した(前足)でガラスを叩いているようだ。

『あ~? 兄ちゃん居るんやろ~! 分かっとるで~! なんや兄ちゃん無視するんかい? ええ度胸やな~? ここ開けろや~』

 そう言っているような鳴き声が聞こえる。そんな状況で落ち着つける訳はない。

 窓を少し開けてシシャモを一匹上納して静かにしてもらうことにした。

 なぜ自分の縄張りとも言える部屋にいながらヤクザに絡まれるような事になっているのだろうか?

 暫くして、またカツン、カツンと窓ガラスを叩く音がする。

 恐る恐る振り返ると、そこに二つの光る目が相変わらずいる。磨りガラス越しではあるものの、俺をジーと見つめていた。


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