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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
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根来山森から世界へ

「今、俺達がいるのは根来山森駅! ここは西急行線沿線にあり、僕達ノラーマンも暮らしている街です!」

 駅前広場でカメラの前で話し出す小柄のタマさん。すると周りから!『よ!』 『本物の芸能人みたいだぞ』と掛け声が響く。

「見ての通り、長閑で良いところ!

 何が素敵ってノラーマンの認知度が日本で一番高くて、しかも俺達ノラーマンに日本一優しく温かい場所でもあります」

 そう答えるヒョロっとした体型のシマさんに拍手がおこる。

「本物の芸能人みたい! とか言われている人も居ますが、俺達は一応芸能人っつうの。土方仕事はあくまでも副業」

 周りから『ガンバレ~』という掛け声に手を挙げて答える二人。俺と同じ壽樂荘に住む芸人コンビの二人は、今テレビ局のロケを行っている訳ではなく、カメラを構えている俺の前で喋っている。そしてプロデューサーとして立っているのは浴衣姿のジローさんと町内会長さん。


 別に俺達は遊んでいるのではなくて、商店街のお仕事中。ジローさんの発案でYouTubeを使いこの街の事を世界に発信していく事になった。そしてそのレポーターとしてこの街にいる唯一の芸能人であるノラーマンにしてもらう事になったのだ。

 大きな反響は期待できないかもしれないが、そういう試みで遊んでみるのも楽しいのではないか? という事と、この街の記録がその様な形で残るのも面白いのではないかという話で始まった。


 俺は最近動画も撮影し編集してネットにアップしたりしていたこともありそれをジローさんに認められて? カメラマンとしての参加となった。

 『【ねこやまもり】ソングで動画とか作ってみて』と言われて猫動画と文字をあわせて作成したものを、ジローさんが町内会の会議でプレゼンして、この企画が動き出した。

 俺はバイト料としてこの商店街で使える商品券が手に入る。

 ノラーマンの二人は少ないながらもギャラは出てこういう形でも世間に自分達を売りだせる事と、ロケの練習にもなると喜んで参加している。


 初回である今、駅前でこの街の場所の説明から始まった。

「この駅を出た人を待ち構えているのが南口の海埜焼鳥、北口魚住肉店」

「毎回思うけど、この二つの店、看板だけ見ると魚屋に見えるよな~」

 この商店街にはそういう所がある、逆に魚屋が牛島さんで寿司屋が猪瀬さんなのだ。

「苗字だからしゃあないだろ」

 二人はのんびり会話しながらレポートを進行していく。周りで見ている住民がそれに賛同したりツッコミ入れたりと、何とも不思議なまったりとしたノリである。

「魚住肉店は、肉だけでなくお惣菜も豊富にある所が俺達のような一人暮らしの人間には嬉しいところ!

 冬とかにここのコロッケで温まりながらアパートに帰るのがもう最高~」

 そうノンビリ話すシマさん。

「そりゃ、愛を込めて揚げているからね~」

 そう答える魚住の奥さん。

 身内の欲目だろうか? 商店街の人として絡みながら話を進めていく様子は上手くみえた。幸せそうにコロッケの美味しさを伝えている。テレビに出ているタレントや芸人ロケより暖かみがあって良い感じに見える。


 そして海埜焼鳥さんの紹介になる。此方はテイクアウト専門の焼鳥屋さん。

「海埜さんの焼鳥は注文してから焼いてくれるので、焼いて貰っている間に二軒隣の茶薗酒店でビールとか日本酒を買う、そして魚住さんで揚物を買って焼き鳥を受け取り駅前広場のベンチで楽しむそれが、ここのトレンドとなっています」

「先程いた広場は人呼んで根来山森ビアガーデン。

 交番の前なので治安もよく、しかも商店街の店は八時には閉まるので解散も早いのでむしろ健全! 素敵な呑みスポットです」

 第一回からそんなディープな所を見せても良いのだろうか? とも思うが皆楽しそうに見ているのでそれで良いのだろう。そして二人は塩かタレかで楽しそうに会話をしている。

「トラ! お前はここでいつもどっち買っているの?」

「は?」

 いきなり話を振られて俺は間抜けな声を上げてしまう。カメラ担当が喋って良いのだろうかとジローさんを見ると『大丈夫』と頷くので俺は口を開く

「俺はモツ煮ですね!」

 ポカンとする二人に逆に俺はビックリして説明をつづける。

「ここのモツ煮を知らないんですか? メッチャお得で美味しいんですよ! ご飯との相性もバッチリで。 四百円で袋イッパイに入れて提供してくれるんで、二食分は楽しめる!」

 俺は店の前に貼られたメニュー一覧の隅に書かれたもつ鍋と書かれた文字を指さして力説する。

 ビニール袋に入れるという大胆な状態で提供されるのだが、持って帰るとなんと家の鍋いっぱいになる量がありコレが旨くて最高なのだ。

 キュウリを齧ってご飯があればもうちょっとした定食みたいなものになる。

「ねえ、海埜さん、モツ煮も最高ですよね?」

 海埜さんの苦笑にハッとする。

 焼鳥屋さんで、焼鳥よりモツ煮を推すってマズかったのかもしれない。そして俺は焼き鳥よりコチラをいつも買っているという微妙な客だということに気が付く。

「ほほう。お前もなかなか面白い情報握っているなぁ~、コレから時々聞き出してみないと! 俺も買って試してみよう」

 タマさんは楽しそうな言葉を返し繁々ともつ煮の鍋を覗き『確かにコレも旨そうだ!』と呟く。

 そしてもつ煮についての話題を海埜さんと少し会話した後、手にもっていた塩の焼鳥を食べて『塩焼きうま! 俺は塩好きやな~』と明るく笑い話題を元に戻す。

 自由に話しているようで、しっかり流れは作っている所は流石である。トークを生業としている人だけはある。

 そんな感じでこの番組『ねこやまもり』はカメラマンの俺やディレクターであるジローさんや商店街の人を巻き込み、なんとも恍けたノリで始まった。

 世界にこの街の素晴らしさを訴えるというよりも皆で作ることを楽しんでいる感じだ。世界に発信しつつも地元の人だけ楽しめるローカルなネタの番組だが、皆が楽しいからコレで良いのかなと思っている。


 俺自身の変化は、取材してから商店街での俺への対応がより優しくなった。

 海埜さんのモツ煮が前よりも分量が増えて提供されるようになったのは気の所為ではないと思う。


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