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俺の部屋はニャンDK  作者: 白い黒猫
俺の俺の部屋はニャンDK
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週末のひととき

 下宿生活を始め四か月が経過した。張り切りすぎて変に肩に力の入りすぎていた時期も超え、色々な事が自然に出来るようになったと思う。

 俺は朝起きて俺は一番に窓を開ける。台所に行き冷蔵庫の中の水だしで作った麦茶をコッブ日注いで飲む。二リットルペットボトルに水を入れ、じょうろキャップをはめて窓の外にあるマイガーデンに水をやる。すると敷地のどこかにいるサバとモノがやってくるのでオヤツをあげていると、隣の窓からシングやスアさんが見えて挨拶をする。


「トラオくんオッハヨ~! 良い朝ね~」

 今日はスアさんが出てきて手を振ってくる。

「トラオくんの畑も元気ね~。いい感じじゃない?」

 自分の畑の成長のように嬉しそうに話かけてくるスアさん

「スアさんの指導のお蔭ですよ」

 そう俺も菜園を始めている。スアさんやジローさんや大家さんの指導で、あると嬉しいパセリ、あとプチトマトとそして八百屋で買ったネギ等々。ネギに関しては八百屋で根っ子付きで買ったものをそのまま植えて育ったもの。それが元気に育ってきている。


 近所にあるジローさんのシェア畑や、スアさんの菜園に比べるとかなりショボいが、この菜園のお陰で俺の食卓はかなり彩りがよくなった。パセリって実は飾りではなく栄養価も高く野菜として使うと結構便利な植物だと言うことも知った。来年はゴーヤとかも作ってみようか? と企んでいたりする。


「今日は何か用事あるの~?」

 サバとモノにおやつと水をあげる。

「洗濯して、ジローさんの畑に水やりにいくくらいですね」

 ジローさんは今社員の研修旅行という事で留守の為、畑の世話を頼まれている。

「だったら一緒に出掛けない? 下北沢でタマくんとシマくんのライブもあるし、見に行くでしょ~?

 朝食もまだ食べてないわよね? うちで食べたら~? 畑に行っている間に作っておくから~!」

 俺の返事も待たずにスアさんは部屋に入ってしまった。


  スアさんは、面倒見が良い事もあり俺を時々この様に、ご飯を振舞ってくれる。それは俺が最初の一月で痩せたというが窶れたのを見て心配させてしまった為。

 最初の月が異常事態で大変だっただけと説明したが、逆になんでそんな大変な状態だったのに頼らなかったのか? とこっぴどく怒られた。

 それから、時々ご飯をご馳走してくれたり、おかずをお裾分けしてくれたりしてくれているのだが、これがまた美味しい! ハーブを育てているだけあり、料理好きで、タイ料理は勿論、肉ジャガなどの和風の煮物も美味しい。

 ハッキリ言うと大雑把で雑な俺の母親より料理が旨い。お店でも料理担当しているようだ。それだけに誘われると、断れない俺がいた。胃袋掴まれるってこういう事なのかもしれない。


 俺は着替えて、近くの畑に走り、水をタップリやり、真っ赤なトマトとキュウリを頂き戻ってくると、美味しそうな香りがアパートに漂っている。

 一〇四号室の玄関横の開いた窓から、コンロに向かっているスアさんが見える。スアさんは俺に気が付き、手招きしてくれたのでお辞儀して部屋にお邪魔する。そして採れたて野菜をスアさんにお裾分けした。


 今日の朝食はクスクスに、チキンやミックスビーンズやサラダが添えられ、スープに珈琲が着いている。朝食だというのに豪華。

「うわ~すげえ! コレ! 代官山とかのオシャレなモーニングみたい」

 スアさんは『大袈裟ね~』と笑うが、俺だったらトーストに親が送ってくれた野菜ジュースで澄ます。

「いや、本当ですよ! 俺こんなに色々作れないし、こんなにオシャレに盛り付けも出来ません。

 女性ってこういう所凄いですよね。センスからして男と違うというか」

 スアさんが、俺を面白そうに見ている。

「すいません、生意気な感じの事を言って。俺。こんな若輩者なのに男代表なように女性を語って生意気ですよね。俺なんかが……」

 俺は自分が少し恥ずかしくなる。今まで彼女だって一人しかいなかったし、それも一年ちょっとで頼りないと捨てられた。スアさんは笑い出す。

「冷めないうちに、食べなさい!

 トラオくんは良い子よ~」

俺は「いただきます」の挨拶をして朝食を頂く事にした。

「良い子か~やはり俺はまだガキなんですよね……。

 美味しい! クスクスなんて東京に来て初めて食べましたよ」

 実家のあった場所になかった訳では無いがあえていく必要も感じなかったので俺はエスニック料理はあまり食べてこなかった。友達と行くのもファミレスかお好み焼き屋さんとか。

「ご飯炊くより早く手早く作れるから楽なのよ意外と。

 あとね、トラオ、貴方はいい男になる。アタシが保証するから!」

 チキンはタイ風の味付けがされており、ジューシーで独得なハーブの風味が絶妙でコレも旨かった。

「スアさんが保証するなら、少しは自信持ちますよ……」

 スープは肉や野菜のダシがまたきいている、シンプルな味付けが生きている。そういう事が可能なのは、本当に料理が上手いからだと思う。

 前に聞いたら野菜の余った所とか、チキンとかを煮たときに出来たダシを使ってこのようにスープで楽しんでいるとか。

 俺も野菜クズでダシを作るようにしたが、スープにしてもここまで美味しくはならずカレーを作る時にそれを使い、カレーを少しだけ進化させた。

「お姉さんに任せなさ~い! 最高にいい男になるように教育してあげるから!」

「スア姉さん! 頼りにしています」

 俺は頭を下げる。スアさんは他の友達と会う時も俺の事を『弟』とそう紹介する。彼女の中で俺はそういう位置づけの、世話のかかる面倒みてやらないといけない下の子という対象なのだろう。そしてつい甘えてしまっている俺がいる。


 食事のお礼に、俺は次の月にも親から送られてきた干物とかで返そうとしたが、『食べるのに困っている子の食べ物なんて貰えない! 私に鬼畜になれと?』と言われ断固して受け取って貰えなかった。

 そこで一緒に買い物にいったときに、荷物持ちをしたり、IKEAで買った家具を運搬して組み立てを手伝ったり身体で返している。


「取り敢えず身近な所でジローさんみたいな人を目指せば良いかな? オシャレだし、ポリシー持って生きていて包容力と経済力もある」

 そう言うと、スアさんはウーンと悩む顔をする。

「え? ジェントルマンだし、素敵な男性では?」

 賛同しないスアさんにそう言うと、何故か眉を寄せ顔を顰めている。

「善人ではあるわよ~! でもロマンとか夢の世界に居すぎるのよね!

 男はというか大人はもう少し現実にも比重をもって生きてないと。未だに大和撫子を求めてフラフラしているようだと……。

 このアパートの男性って……学生二人は分かるけど、良い年している大人までもが、夢追い人ばかりなのよね」


 それはそうかもしれないけれど、皆それぞれ頑張っているしそれが悪いとは俺は思わない。

 一〇一号室の三宅さんは夢を叶えるためにトラック運転手をして資金を今稼ぐために働き、アパートにいる姿を殆ど見ない。というか会った事がない。

 一応ポストに挨拶のお引越しの挨拶のタオルと手紙を入れたら、『自分はトラック運転手をしている為になかなか会えないかもしれないけど宜しく』という手紙が帰ってきただけ。

 あとはLINEのグループで時々参加しているのを見ているだけの関わりしかしていない。


 二〇一号室の玉田さんと二〇二号室の縞田さんは『ノラーマン』という名前の芸人コンビ。とはいえ三十は越えているようだがテレビで見た事がない。

 作業服のようなツナギ姿でよく見かけるのは、それが衣装ではなくバイトの恰好なようだ。

 今日スアさんと一緒に行くというライブも、この二人のお笑いライブ。恍けた味があって、俺は結構好きな芸風。


「その中で、三宅(ミケ)さんが一番しっかり未来を見据えて行動しているかしらね~計算しながら設計して前に進んでいる」


 そういう意味では、もう経営者として成功させて人生を満喫しているジローさんはスルーされるのか不思議である。

 そして熱くミケさんについて語りだす。何とか諸島にある島でペンションを開くために頑張っているとかで、トラックの仕事だけでなく、そちらの土地の人と交流をはかっていることが、このアパートでの存在感を低くしている。


 スアさんにとっては、このアパートの男全員が世話のかかる子供に見えるようだ。そして【ミケ】・【シマ】・【タマ】単体で呼ばれると猫の事で、下に【さん】【くん】がつくと人間の事となる。

「三宅さんってどんな人なんですか?」

 聞くとスアさんは何故か嬉しそうに笑う。

「いい人よ~! 男らしいし~、優しいし……」

 俺はそう語る表情にアレ? と思う。ジローさんや、シマさんとタマさんを語る時と違って真っ直ぐに褒める。そして腕の筋肉がいいとか、細かく語り出す。総合すると日に焼けた細マッチョな爽やか青年ならしい。

 まだ会えぬミケさんに想いを馳せながら、スアさんの話を楽しく聞いていたら、一時間も語られた。

 俺は三宅さんのイメージを、イケメン爽やか細マッチョな男性と上方修正しておいた。



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