06:がんばれ鶴岡くん 後編
前編と同じ日の出来事です。
「起立、礼「ありがとうございました」」
授業も終わり、鶴岡はこのあと空き教室に置いてある机と椅子を3セット一年生の教室まで運ぶ作業がある。
教師からは男子に頼む仕事じゃないから別にいいと言われたが、生徒会に入っているものとして男女は関係ないだろうと彼は半ば強引に教師を押し切った。
「おーい、カイさっさとやっちゃおうぜ」
先に空き教室の前にいた生徒会書記の谷屋 真が鶴岡に手を振ってくる。
「ごめんごめん、ちょっとプリントの掲示をしてて遅れた」
そういって鶴岡が空き教室のカギをポケットから出し、カギを開けようとするが。
中からガタガタと音が聞こえた。
「あれ海、ここって空き教室だよな」
鶴岡と谷屋は顔を見合わせる。
「あー、俺ってホラー苦手なんだよね、海が先に行ってくれたらうれしいなー」
谷屋は引きつった笑みを浮かべ鶴岡に先導するようにお願いしてくる、だが鶴岡もホラーは苦手だった…ただ幽霊は信じてないからこういう場合は平気なためドアに手をかける。
「ほら、開けるよ」
鶴岡がゆっくりと開くと、そこには見知った顔があった。
「あり、ツルちゃんとマコちゃんじゃんか、どしたのこんな場所に」
三島がいた、三島 圭司鶴岡と谷屋の同級生、鶴岡にとって三島は中学校に入ってからの友人だが、鶴岡は時々彼の行動に驚かされることがあった。
「圭司、何してるんだ」
谷屋は怖かったことに少し腹が立っているのだろう、少し怖い顔で三島に尋ねると。
「いやぁ、廊下に落ちてたエロ本を読んでた」
どうやらこの言葉に谷屋は気を抜かれたらしくしかめた顔から一転、苦笑いを浮かべる。
三島は谷屋が怒っていたことを理解していないらしく飄々とした雰囲気で漫画の背表紙を見せてくる。
「なかなか、おもしろいぜこれ」
そういわれ、鶴岡は本の背表紙を見る。
あれ、この本は。
「三島くん、それは成年誌じゃなくて少し過激だけど一般の少女コミックだよ」
三島が手にしている漫画は「春が来た」作者は川陽というペンネームだ。
ドラマ化したことで興味がなかった層もニュースで一度は目にしたことがあるタイトルだろう、内容が過激だったためにせめて青年誌にするべきだと問題になっておりドラマはどこまで再現するかで盛り上がっていた。
内容は単純に高校生の男女の青春恋愛ものだ、男子生徒がリアリティ溢れるってことで漫画の大賞をとり有名になった。
少女コミックといえば女の子が闘いに巻き込まれ男の子と出会って…的な作品が多い中純愛を描き、決してこの作品の男子は大和撫子タイプでもないし、すぐ泣いたりしない、泣きそうになれば歯を食いしばり、逆に女の子を守るため他の女生徒に立ち向かう。
まさに昔の男子を描き切っており、やはり女性が男性を守るのが常識になった時代になったが、男性に守ってほしいと思っている女性は多かったらしく2巻の発売時点でドラマ化が決まった。
もちろんその漫画のヒーローの役割の女キャラを指さして「軟弱ものの発想だ」と声を大きくする女性も多い、しかし、男性心理学を修めた女性作家が心理描写が素晴らしいとテレビで褒めていたのを鶴岡は覚えている。
「え、そうなの」
「つーかさ、圭司、仮にエロ本だったとしても男子が学校でエロ本と思ったものを読むなよ、少しは恥じらいを持て恥じらいを」
ちぇーっと三島は口を尖らせると本を鶴岡へと投げ渡す。
それをキャッチして鶴岡は表紙を見るが、噂通り少々過激だと鶴岡は苦笑いを浮かべる、雨の中相合傘を差している2人だが、男子の服は少し透け肌色が見えている。
…この本はあとで落とし物として届けておこう、三島が拾った場所も言伝すればすぐ持ち主は見つかるだろう。
「そういえば三島くん、ところでここは鍵はかかっていなかったかい」
「うん?いや、普通に空いてたぜ、だってよカギ壊れてるぜここ」
そういって三島は鶴岡の手から教室のカギを取り、カギ穴に差し込もうとするが。
「な、カギが入らないんだよここ」
カギは途中で止まりそれ以上は刺さらなかった。
はぁ、先生に報告して直してもらわないとな。
鶴岡は三島にさっさと帰るように伝えたが、谷屋と鶴岡が机を運ぶ仕事をすることを知ると彼は机を重ねて二つ持つ。
男なのに三島くんは筋トレしてるから流石だな、鶴岡は自分の頼りない腕の筋肉を見ると少しガッカリする。
谷屋が机と椅子を、鶴岡は残りの椅子を二つ持つということになった。
僕も少しは体力つけたほうがいいのだろうか。
鶴岡は軽々荷物を運ぶ2人の後ろ姿を見ながら椅子二つを必死に運ぶ。
前編でインソール盗難事件という悲しい出来事が発生しましたね。
そのインソールはとある女性が夜中にクンクンしているそうです。
ヒント
生徒玄関にいても違和感がない人
誰からも見つからず実行できるタイミングを持っている人間。
犯人は現場に戻る