05:がんばれ鶴岡くん 前編
時間軸で言えば主人公が入学する数日前です。
彼は悩んでいた。
彼は生徒会副会長であり、この学校の生徒が過ごしやすい環境を先生方と一緒につくるのが仕事だと思っている。
そのために色々な生徒と言葉を交わし、自分自身も成長していかなければならないと思っているのだが
しかし、彼の現状は。
「あれ、僕の下駄箱が開いてる」
まだ少しばかり肌寒さ残っているある日のことである、昨日は昼ご飯にカレーを食べられなかったから今日こそ食堂に一番乗りするぞ、と鶴岡は少し気合を入れて学校に来たわけだが。
鶴岡が何度見ても自身の下駄箱が開いている、靴は取られたことがなかったのにだが、まさかと鶴岡は焦りを覚える。
鶴岡は少し小走りになりながら下駄箱に近づくと、中にはいつもどおり自分の靴が入っていた。
安堵のため息をつくと靴を手に取り悪戯をされていないことを確認する。
鶴岡にとってこの靴は三島という友人からの贈り物でありかけがえのないものだったため彼は肝を冷やしした。
鶴岡は少しかいた冷や汗を袖で拭うと手に持った靴を地面に置くと足を靴に入れる…
あれ、履き心地が変だ。
何か違和感を感じる、靴を一度見て中を確認するが別に何か入っているわけでもない。
見た目も違和感がないし…、鶴岡は不思議そうに頭をかしげる。
「だけど履いてみると違和感があるしな」
彼は靴の中のインソールを取り出してみて驚愕した。
彼は今年に入ってから三島から靴をプレゼントされた、インソールもその足でスポーツショップに行って買った、そのためインソールはすでに少し劣化しており、足の形にへこんでいたためそろそろ買い換えないとなと思っていた、だがこのインソールは新品である。
目の前にあるのは彼が買ったものと全く一緒のインソールだと思うが、だが新品である。
彼は前に使っていたインソールがどうなったかと考えると、「ヒィ」と少し声が出たがそれを噛みしめて無表情を装う。
心の中では声を上げるが、ほかの生徒がいる中鶴岡は心配はかけたくなかった。
平然を装いインソールを靴に戻す
帰りインソールを買って帰ろう…
鶴岡が教室に向かっている最中のことである、彼はいつも話しかけてくる女子達と今日の宿題は簡単だったねなどと話し合い歩いているわけだが。
後ろをつけられている、慣れたものだがこの足音が問題だ。
良く聞きなれた足音、踵を少し擦るように歩く音。
周りの女の子たちも気が付いたのだろう、鶴岡と彼女たちはゆっくりと一緒に後ろを向く。
そこにいたのは身長180センチは超えているであろう女性。
「おはよう副会長」
優雅に挨拶をしてくるが、鶴岡には彼女は困りの種だった、僕に用があるのならつけていないでさっさと声をかけてくれればいいのに、鶴岡は毎回驚かせてくる彼女にため息をつく。
彼女はこの中学校の生徒会長、文武両道で生徒の鏡といわれている生徒である。
誰にでも優しいがプライドが高いため、勝負事で負けたら勝つまで努力する鶴岡にとって好ましい人ではある。
ただこの忍び寄るクセさえなければ。
鶴岡が駅にいようと、行きつけのカフェにいようといつの間にか彼女が出没することがある。
彼が彼女に聞いても「たまたまよ」と返事が返ってくる。
そのことで彼女に何かしてしまったのではと鶴岡が三島に相談すると、三島いわく鶴岡の前では格好良く見せようと彼女はテンパる癖があるらしい。
「おはようございます生徒会長」
鶴岡がそういって頭を下げると彼女は気を良くしたのか饒舌に喋り始めた。
なんでも、先日のバスケの試合で臨時の助っ人をしてゴールを決めまくったらしい、これについては事前に鶴岡は三島からスマホの撮影した動画を見せてもらっていた。
確かにスポーツをしているときの彼女はカッコいいし、その姿勢は見習うものがある。
だが鶴岡が常日頃彼女を近くで見ていると、お茶の入れ方は知らない、ごみの分別も最初は理解していなかったなどなど欠点も多いということがわかる。
だから嫌いかと言われたらそんなことは決してなく、堂々とこれはダメ、あれは早くやりましょう、と言葉にしてくれるため鶴岡は助かっている部分も多い。
他の女の子は鶴岡にあまりそういう言葉はかけてくれないから、彼女の言葉はとっても新鮮だった。
だから…
「会長、ボタンをつけ違っています」
そういって鶴岡は彼女のボタンをつけ直す。
後編に続く