理想
ユトピア国の中心に聳え立つ搭。
その搭は真っ白で太陽の光を反射し目の奥が痛くなるほどに輝いていた。
最上階には国の支配者、クイシャ総指揮とゼイレ自警団総指揮がいる。
「鉄の雲落下地点は分かったか?」
「いえ、分かっておりません。30名の自警団をめぼしい場所へ派遣し、只今目下捜索中であります」
「よろしい。そのまま捜査を続け見つかり次第、私に報告しろ」
「ハッ」
「クイシャ総指揮」
「なんだ?」
「何故そこまでして鉄の雲を追うのですか?」
「そうだな、もう話してもいい頃合いだろう。いいだろう教えてやる。 鉄の雲 二世紀前の愚かなる科学者が作り上げた世界で唯一、人が地上を離れて生きることのできる場所…だった。だが、結果は失敗に終わり、鉄の雲は多くの人々を乗せたまま天空へ消えた。それは、お前も知っているな?」
「はい。存じております。あれは、悲惨な事故だったと、聞いております」
「あぁ、確かに悲惨な事だった。だが、そんなことは私が鉄の雲を探す理由などではない。私が鉄の雲を探す理由はその叡智を、技術を手にするためだ」
「技術…ですか?」
「そう、技術だ。鉄の雲はただの飛行船ではない。あの雲には多くの兵器開発技術が詰め込まれている。実際に兵器も積まれているしな」
「兵器が?…本当ですか?」
「あぁ、本当だ。だから、鉄の雲は飛行実験に失敗した」
「それは一体どういうことですか?」
「科学者共と我々の先祖は当時争っていたのだ。科学者は鉄の雲を造った表向きの理由は“地上以外の生きる場所”だが、本当は“兵器の試験的使用目的”のためだ」
「試験的使用目的ですか?」
「まだ、分からないか?」
「はぁ?」
「鉄の雲その物が兵器なのだ。鉄の雲の飛行実験が成功すれば旧政府と科学者共は鉄の雲の量産体制に入るつもりだった。科学者共が旧政府に鉄の雲が兵器であることを報告していた。が、旧政府はそれに対応しようとはしなかった。何故か…それは、量産体制に入り世界中の空に鉄の雲が飛ぶようになった頃。一斉に兵器としての機能を解放し、そして、旧政府と科学者共が世界を手にするつもりだったのだ」
「そんな…」
「そんなこと我々の先祖が許すわけ無かった。実験当日、鉄の雲に爆弾を仕掛け爆破した」
「あれは、事故ではなかったのですか?」
「私が一言でもあれが事故だと言ったか? お前たちや国民が勝手に事故だと決めつけただけだ」
「・・・」
「かくして、我々の先祖はその後、神の怒りだと言って宗教の真似事のようなことをして彷徨っていた人々を導き、今のユトピア国をつくり上げた。技術は衰退したが人々はなんとか現代まで生き延びた。 我々の先祖は兵器を恐れたが私は違う。技術を手に入れこの廃れきったユトピア国を二世紀前のように栄えさせてみせる。その理想の為に協力してくれるか? ゼイレ自警団総指揮よ」
「ハッ このゼイレ。その理想の為に、ユトピア国の栄華の為に尽くします!」
ゼイレはクイシャ総指揮に向かって敬礼をした。