意外な才能?
僕は矢部翔太。
今日からここ釧路市立北中学校の生徒になった。
始業式が終わり、1年生は各自自由に部活動の見学ができる。
僕はもちろん野球部の見学しに行く。
野球部の見学に行くと僕以外に6人の見学者がいた。
みんな同じ小学校で野球部だったから当然といえば当然だ。
1人は釧路でも有名なピッチャーだ。
「1年生集合!」
先輩から集合がかけられた。
「まだ見学だが、みんな入る者として今日から練習に参加してもらう。まず、体を暖めてから各自好きなポジションに行ってノックを受けてもらう。いいな?」
「「はい!!」」
好きなポジションか。俺はやっぱり外野だな。
体を暖め、みんな好きなポジションについた。
まずは、内野のノックからだ。先に先輩が受けてから1年生も受ける流れだ。
内野組の1年生5人のうち4人は可もなく不可もなくという感じだ。しかし、1人だけ際立っているのは期待のエース山田雄平だ。先輩にも劣らぬプレイで堂々としてる。
内野組が一通り終わり次は外野組だ。
外野は人気がないので、1年生は俺と山崎秋の2人だけだ。ちなみに僕はセンターについた。
僕は小学生の時はサードだったが、外野が好きなので中学校に入ったら絶対に外野をやろうと決めていた。
ちなみに外野のセンターの位置には1つ上の兄である矢部結城が2年生レギュラーとして活躍している。
レフトのノックが終わり、次はセンターの番だ。
兄が無難に受け、次は僕の番だ。
「エラーして恥かけ。」兄が茶化して言ってきた。
「しねーよ、アホ。」僕は守備には自信があるので軽く言い返した。
カキーン、やや右後ろ気味の少し難しめの打球が飛んできた。なんとかボールに回り込み捕ることができた。
「さすが矢部の弟だな。」と笑って外野の先輩が声をかけてくれた。
「あざーす。」良い関係が築けそうだ。
それから無難にノックが終わり、集合がかけられた。
「1年生もなかなかやるな、本入部はまだだか、来たい人はこれから来ていいぞ。」いつの間にかいた監督が言った。
「緊張したー。当たり前だけど小学校と比べたら全然レベル違うよな。」
「まぁな、けど2年生10人だし、3年生の試合は無理でも引退して2年生の時代になったらレギュラー狙えるかもな。」
「俺もレギュラー狙いたいなー。」
「頑張ればいけるべ。」
「そだそだ。」
僕ら1年生は練習後、公園で自主練しながら話していた。
ここで人物紹介しておこう。
1年生
山田雄平
右投げ右打ち。ポジションはピッチャーと内野全てできる。コントロール、スピード、変化球全てにおいてトップレベル
阿部亮
右打ち右打ち。ポジションはキャッチャー、ファースト、サード。小技が下手。高身長で長打力がらある。
金子光
左投げ左打ち。ポジションはファースト、ピッチャー。器用なバッター。球は遅いがコントロールはピカイチ。
三島明
右投げ右打ち。ポジションはセカンド、サード。
中身長ながら、長打力が光る。走塁面においてはトップレベル。
石川嶺二
右投げ右打ち。ポジションはショート、セカンド。
チーム1のチビ。しかし、チーム1の努力家で素振りの数は誰にも負けない。安定した守備。
山崎秋
右投げ右打ち。ポジションは外野。主にライト。
努力家で練習熱心。声が大きくチームの盛り上げ役。鈍足で盗塁はほぼ成功なし。
そして、この俺矢部翔太
右投げ右打ち。ポジションは外野。外野は全部できる。非力で肩が弱い。小技はトップレベル。同じチームの外野に実の兄矢部結城を持つ。
今日から僕らの中学野球が始まる。
あっという間に時が経ち6月下旬。
中体連が終わり、3年生は引退。
「今日からは新しいチーム作りを始める。キャプテンは早瀬とする。2年生は早瀬をしっかり支えてくれ。1年生もレギュラー目指して頑張ってほしい。」
「「はい!」」
「なあ翔太、レギュラーどうなるかなー」亮が練習後話しかけてきた。
「2年生は内野のあの4人、外野のあの2人。僕ら1年は雄平がチームのエース。この7人はまず決まりだろうな。」
「だよな。内野も外野もあと1人ずつかー。翔太は外野のラスト1ついけそうだな!」
「いや、わからないよ。先輩2人と秋に勝たなきゃいけないからな。そういう亮はどうなんだ?」
「んー、自信はあるよ。監督にもちゃんとアピールしてるしな!」
「そっか。それはなにより。チーム最初の練習試合は1週間後、そこでスタメンだったらレギュラーに選ばれたも同然。そこで選ばれるよう頑張ろう。」
「選ばれなくてもい泣くなよ?」
意地悪な顔で茶化してきた。
「そっちこそ」
笑顔で返したが、実際は不安で仕方ない。選ばれなかったらどうしよう。そんなことばかり考えてしまう。
そんな不安を抱えながら、あっという間に一週間が経ち練習試合の日を迎えた。
「いやー、緊張するな。俺選ばれるかな」
「俺絶対選ばれないな」
アップ中様々な声が聞こえてくる。
俺は大丈夫。大丈夫。
自分に言い聞かせて平常を保たなければ、涙腺が瓦解しそうだ。
「集合!今日のスタメンを発表する。」
頼む選ばれてくれ。神に祈ってみる。
「1番センター矢部兄」
兄貴が呼ばれた。くそ!
「2番ショート早瀬……5番ピッチャー山田。6番サード阿部。」
雄平と亮が呼ばれた。喜ばしいが今は祝福する余裕はない。
7番8番と呼ばれていく。まだ自分は呼ばれていない。
後はレフトしか残っていない。頼む。
「9番レフト…」
頼む…!
「矢部弟」
「はっ、はい!」
……呼ばれた!
俺がレギュラーに選ばれたんだ!
「やったな、翔太!」
雄平と亮が笑顔で寄ってきた。
「サンキュ!2人みたいにいい打順ではないけどな。」
「それでも選ばれたんだ。素直に喜ぼうぜ!」
「そうだな!!頑張ろう!」
試合は2対0で僕らが勝った。
俺は2打数0安打。
微妙だ、もっと努力しないとレギュラーから落とされてしまう。
「チーム初勝利だな!この調子で1ヶ月後の新人戦も勝ち抜くぞ!」
監督が試合後のミーティングで嬉しいそうに言った。
「おおう」
全員でそれに答える。
このチームなら本当に優勝が狙えるかもしれない。そんな希望が見えてきた。
「声出せー!、逃げんな!どこ振ってんだ!早く立てこら!」
新人戦2週間前に迫ると練習がハードになってきた。
正直きつい、吐きそうだ…
「おい!」どんっ!
「痛って!!」
後ろからケリが飛んできた。
どこのどいつだ、やり返してやる。
そう思い後ろを向くと兄貴がいた。
「なんだよ、兄貴痛えな!」
「このぐらいでへばってんじゃねぇよ。お前は2年生を差し置いてレギュラーに選ばれたんだ。新人戦で半端なプレイしたらぶっとばすぞ。」
兄貴の言葉には重みがあった。
そうだ俺は先輩を差し置いてレギュラーに選ばれたんだ、半端なプレイは見せられない。
「わかってるよ!」
このくらいでへばってられない!
「さぁ、こーい!!!」
カーン!カーン!
新人戦当日を迎えた。
ベスト8に入れば次の大会に進める。
初戦は強いチームではないが、油断はできない。
「集合!」
「 スターティングオーダーはいつも通りだ!練習通りにやれば勝てる、いけ!」
「「はい!!」
俺は9番レフトだ。
北中学校は後攻だ
一回表、いきなりエース雄平が乱調で2年を失う
その裏2年を返し、同点
2回表は0点に抑え、裏に1点とり勝ち越し。
4回守備の乱れにより、3点を失う。その裏チャンスは訪れるが得点ならず。
5回の裏 1点を返し、なおかつ2アウト三塁のチャンス。バッターはここまでノーヒットの俺。
…打てる気がしない。どーする。
集中しろ。………そうか打たなくていいんだ。塁さえ出れば後は1番の兄貴が打ってくれる。
なら俺は四死球を狙えばいい。キャッチャーの配球のクセは掴んでる。簡単なことだ。
初球は外のストレート。ボールになる確率40%程度。
しかし、このプレッシャーかかる場面ならもっと確率は高くなるだろう。
シュッ!ズバン!
「ボール」
読み通り初球はボール。
ブルン!
2球目は空振り
これで1ストライク1ボール
しかし、振ったことで、ストレートが投げにくくなる。つぎは変化球が外れるだろう。
シュッ!ストン
「ボール」
これでバッター有利。
しかし、9番にここで厳しいコースはついてこない。
甘いコースのストレートでくるはず。
シュッ!
「ストライク」
悠々と見逃し、平行カウント。
次は変化球を外に来る確率100%だ。
ピッチャーの制球からしてストライクになる確率は30%あるかないか。
微妙なコースはファールにすればいい。
シュッ!
ストライクだ。しかし、ここから落ちてボールになるはず。
ストン
「ボール」
これでフルカウント。
ここから2球はストレートで外寄りに来るはず。
ここからは我慢比べ。変化球がストライクにきたら当てられない。だから、ストレートのストライクはファールにし続けなければならない
シュッ!
カキン!
「ファール」
シュッ!
ガキッ
「ファール」
3球目は読めない、ここは実力で勝負
シュッ!
ストライク、いやっこの軌道は変化球だ。
バット止まれ!
ストン
ググッ
ハーフスイング気味だ
ファースト審判の判定は
「ノースイング」
「ファーボール」
「ふぅ」
助かった、ギリギリだった
「兄貴、後は頼むよー」
「おう!」
シュッ!
カキーン!
右中間破った2点タイムリーだ!バッターランナーは三塁でアウト。
「おお!この回一気に3点!逆転だ!」
スコアは5対6
6回7回は三振4つを奪う完璧なピッチングで最終スコアは5対6。
辛勝ではあるが一回戦突破だ!
「いやー、あの回のお前よく粘ったな」
「あっ、亮。あれはキャッチャーが配球単純だったからだべ。いいキャッチャーだったら全球読むなくて」
そうだ、上には通じな…
「はっ?キャッチャーの配球?お前そんなの読んでんのか?」
「あぁ、普通だろ」
何を驚いているんだ?
「普通じゃねぇよ!読みが外れたらそこで負けだし、そんなこと怖くて全球読むなんてできねえよ!それはある意味才能だ。それを生かしてやってみろよ!」
この瞬間俺の野球が変わった気がした
処女作です。
よろしくお願いします。